正邪の器 ②
ムスクはゆっくりとリューシャに近づく。
リューシャのおなかに右手のひらをあてがう。
「せーのっ!」
掛け声とともに、腕に力を入れ、押し込む。
(ぐあっ!)
全身をちぎられるような痛みが走る。
全身の皮膚を、内側から切り刻まられるような、鋭い痛みが絶え間なく襲う。
その後、眼球の裏側に熱湯をかけられたかのような、熱い痛みが加わり、視界がぼやける。
目に映るものが二重になり、色彩がどんどん失われていく。
あああああああああああああああああああああ!
叫び声を上げようとするが、こえが一切出ない。
もがき、あがこうとするが、体は一切動かない。
その感覚が、実に気持ち悪い。
ふっと急に、すべての感覚が戻る。
リューシャは地面に落ち、うずくまる。
全身から汗が流れ、ぜーぜーと荒い呼吸を繰り返す。
ほんの一瞬での変貌に、サミとルビカは戸惑っている。
「なんだ、ギブアップか?やはり器にはふさわしくないか。」
「うるさい!途中でやめるな。やるなら一気に最後までやってくれ!」
リューシャが怒鳴る。
「ふーん。じゃあ、次はいくら苦しんでも止めないからね。地獄でタップダンスと行こうじゃないか。」
再びリューシャが浮かび上がる。
ムスクが手を触れると、もう一度あの痛みがやってくる。
メリメリメリ
そんな音が聞こえたような気がした。
信じられないことに、リューシャは自分の肉体から剥がれたのだ。
空中に浮かぶ自分の後ろ姿がはっきり見える。
ただし、世界は灰色に変わっていた。
その中で、魔石だけが黒々と輝いている。
「ふう~」
ムスクが額をぬぐう。
「冥槌!」
腕を天に伸ばし、ムスクが叫ぶ。
すると、その手に小さな漆黒の小槌が呼び出される。
「ほないきまっせ!」
威勢のいい声を上げ、ムスクはリューシャの魂をむんずと掴む。
そのまま、魔石に押し当てる。
高温に熱した鉄板に水を垂らしたように、ジュワっと焼ける。
リューシャの魂が沸騰する。痛みはないが、痛み以外のすべての苦痛が襲ってくる。
「せい!えっせーら!えっせーら!」
のんきな掛け声とともに、ムスクは手に持った小槌でリューシャをたたきつける。
これが、魔法鍛冶師といわれる由縁だったのか。
気づいた時には、リューシャの魂はどんどんと変形していった。
ジュワ!えっせーら!ジュワ!えっせーら!…
これを何度も繰り返すうちに、リューシャと魔石がなじんでいくのが分かった。
耐えがたい痛みは徐々に去っていき、感覚が研ぎ澄まされていく。
えっせーら!えっせーら!
感覚を頼りに、魔石を探る。
どんどんと精度が上がっていく。
魔石のことが、手にとるように分かる。
ここだ。
グググググ!
魔石のうちに秘められた力が、リューシャに流れ込む。
「よぉーし、開いたぁ!」
ムスクが叫ぶ。
リューシャは、ムスクによって再び体に魂を押し込まれる。
魂と体が結合し、体の自由が戻った。
「まさか成功するとはね〜、これで君は魔石の力を引き出す鍵に生まれ変わったのだよ。」
今回も読んで下さりありがとうございます!
皆さんの応援が執筆の励みになりますので、少しでもいいな、続きが気になると思った方は是非ブックマーク、高評価お願いいたしますm(__)m
次話もお楽しみに!




