成人の儀 ③
広場ではすでに宴が行われている。盛り上がりは、すでに最高潮に達していた。
鳴り響く音楽に、負けじと張り上げる喋り声と笑い声。
「ピュー」横笛が奏でるの優雅な高音を合図に、曲が転調し、それまでの楽しげな音楽から一気に荘厳な音楽に移行する。
白い装束の踊り子たちが、くるくると回りながら広場に入り、曲に合わせて踊り始めた。
踊り子がくるりと回るたびに、白い布が幻想的にはためく。
一糸乱れぬその踊りに、先程まで騒がしく会話していた参加者たちも釘付けである。
踊り子たちは音楽に合わせ、広場の中央から二手にゆっくりと別れた。
踊り子たちがいた中央の部分にポッカリとスペースを空く。
主役のために空けられたその空間に、ゆっくりと歩み出てゆくリューシャ。
儀式の主役として披露する剣舞、これはお披露目の意味もある。
だが、最も重要なのはこの剣筋により当人の強さが推し量られる点だ。
ここで皆の目に止まれば有力な地位につくことができる。それはつまり、たくさんの妻をめとることができるようになるということだ。
権力欲がさほどあるわけではないリューシャにとっては、特段失敗してよいものではある。
しかし、これまで父からのスパルタ指導に耐えて練習してきたし、大勢に見られるとやはり失敗したくないという気持ちになってくる。
リューシャはふうと息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
広場の中央に躍り出たリューシャは、一心不乱に剣を振り、音に合わせ舞い踊った。
周囲を焚き火が取り囲み、踊り子たちがリューシャに合わせてくるくる回る。
ああ、もう子供じゃないんだ。
このあとは娶りの儀式。妻を迎え、夫になるのかと、踊っていると急に実感が湧いてきた。
音楽が止む。
リューシャは汗だくになり、ぜえぜえと肩で息をする。
それほほどに激しい運動であったが、不思議と疲れはない。
「新成人リューシャが妻となるもの、入れ!!」
司会役が声を張り上げ、これを合図に踊り子とは真逆の黒い装束に身をまとった女達が、一列に並んで広場に入ってきた。
女達は皆、顔の前に黒いベールを垂らしており、その表情は伺いしれない。
この内一人がリューシャの妻として迎え入れられる。
ベールは選ばれなかったものへの配慮でもあるのだ。
10人ほどの女達は、広場の中央に立つリューシャを取り囲むようにして並んだ。
そして静かに手を地面について、頭を下げ、拝礼する。
アイシャに連れられたヤギが一匹、広場の中央で待つリューシャのもとに歩み寄ってきた。
ゲラダの成人の儀では、生贄のヤギが重要な役割を果たす。
ヤギの首を新成人が落とし、落ちたヤギの目が向いた先にいる女を妻とするのだ。
死は新たな生の始まりと考えており、夫婦が今後子をなして家族を繁栄させてほしいという願いが込められているのだ。
ヤギを連れたアイシャはリューシャの目の前で止まった。
リューシャは手にした剣の柄〈シャク〉に魔力を流し込み、漆黒の剣を創り出す。
そして一呼吸おき、剣を真上に構え、一気に振り下ろす。
ブンという音とともに、ヤギの頭が宙を舞う。
司会役が向きを判定し、選ばれた少女を指で指し示す。
リューシャはその少女のもとにゆっくりと歩み寄り、地にひれ伏した彼女の前に立ちしゃがみ込む。
女達は皆地面にかおを向けているため、誰が選ばれたのかわかっていない。
リューシャは彼女の方にそっと手を置く。
「顔を上げてくれ。」
少女は体をびくっとさせ、ゆっくりと上体を起こした。
リューシャは、正座した妻となる少女のベールに手をかけ、その布を持ち上げる。
松明の光に照らされ、花嫁のその顔がいよいよはっきりと見えた。
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