サイファ ⑤
準決勝の相手、トルネルと相対するリューシャ。
ひょろりとした痩身を揺らすように歩きながら登場したトルネルは、会場からのブーイングを一身に浴びている。
トルネルは気にすることもなく、手をあげてブーイングに応える。
「ひっひっひ。いやぁ、面白いですねぇ。」
トルネルはペロリと舌をだし、唇を舐める。
表情は笑顔であるが、その目はどんよりと暗い。
「なにがって、ルールの穴をつくだけでこんなに簡単に勝ち上がれちゃう。みんな頭使えってなぁ〜」
トルネルはひゃひゃひゃと笑い、青紫に染め上がった長い爪を見せびらかす。
「はじめ!」
試合開始の合図と同時に、トルネルが一直線に突っ込んでくる。
リューシャは身を翻し、攻撃を避ける。
カスりもせずに完璧に避けなければいけない攻撃となると、普段以上に神経を使ってしまうものだ。
できれば長期戦は避けてすぐに試合を決めてしまいたい。
トルネルもそのあたりは分かっているのか、乱打を仕掛けてくる。
とはいえ素人の動きであるため、リューシャは的確に避けていくことが可能だった。
「ああ!もうクソが!なんで当たらねえんだよ!」
トルネルが喚く。
次突っ込んできたところ、勢いを利用して倒す!
リューシャは心を決める。
「うぉりゃぁ!」
トルネルのワンパターン攻撃がやってきた。
リューシャは体をずらして攻撃を避け、トルネルの肩を押し倒す。
「ぐわぁああ!なめんな!」
トルネルはいとも簡単に倒れてしまう。
しかし、なんとかリューシャに一矢報いようとしたのか、肩を押すリューシャの腕を引っ掻いた。
地面に倒れ伏すトルネル。
勝利に沸く観客たち。
しかし、リューシャは引っ掻かれた左腕を押さえて立ち尽くしている。
「ひっひっひ、負けたけど道連れだぜ。少量でもよく効くから、一定時間は力が入らねえだろうなぁ。決勝、楽しみに見てるぜぇ。」
トルネルは言い残して、コロシアムを去っていく。
リューシャが控室に戻ると、ブーイとヌンガロが待っていた。
「兄貴!大丈夫ですか?」
「あ!まさか!引っ掻かれてる!?」
ブーイとヌンガロはすぐに状態に気付いた。
リューシャは左腕を抑えたまま、彼らに告げる。
「左腕が動かない。」
「そ、そんな!」
「すぐに治療を!」
ブーイとヌンガロは慌てて部屋を出て行き、治療師を連れてきた。
治療師はリューシャの傷を確認する。
「奴の毒ですね。幸い、傷は浅い。今から対処すればこれ以上効果は広がらないはずです。左腕の痺れも、しばらくすれば消えていくはずだ。」
「良かった!決勝戦を少し遅らせてもらえるように運営に頼みましょう!」
ブーイが提案する。
しかしその時、「決勝戦出場者、準備ください。」と、運営の連絡係がやってきた。
「ちょっと待ってください!予定より随分早いじゃないですか!」ブーイが叫ぶ。
「予定はあくまで目安ですので。会場の準備は整ってますし、間が空くと観客の皆さんの熱気が冷めてしまいますので。」
「いやいや、怪我してるんですよ?治療しないと!」ヌンガロも叫ぶ。
「では早くしてください。予定に変更はないです。」
「あんたおかしいよ!毒でやられてんだよ!」ブーイがまた叫ぶ。
「いや、いいよ。ブーイ、ヌンガロ。ありがとう。僕は戦えるよ。応急処置は終わりましたか?」
「はい、一応。ですが無理は禁物です。」
治療師が答える。
リューシャは頷き、肩を軽く回す。肩は動くが、肘から先の感覚はまだない。
「さてさて、どうなることやら。」
どこか他人事のようなリューシャに、ブーイとヌンガロは顔を見合わせる。
リューシャがコロシアムに登場すると、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
リューシャはすでに、サイファの人気者になっていた。
対するもう一人の決勝戦出場者、それは料理屋で騒ぎを起こした、あの大男ベルニだった。
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