サイファ ③
「さて、そちらも片付いたみたいだね。」
後ろから声がかけられれ。振り返ると、セイが腕を組み仁王立ちでこちらに体を向けて立っている。
コロシアムの中には、セイと自分以外の参加者はいなくなっていた。
皆誰かに敗退し、コロシアムを去ったのだ。
「ようやくな。」
リューシャは答え、セイに向き直って続ける。
「君のおかげで僕は決勝トーナメントに出ることができるんだ。感謝しないと。」
「なぁに、感謝するのは僕の方ですよ。もちろん、トーナメントに出るのも僕の方です。」
セイは礼儀正しく応じる。爽やかイケメンマッチョのセイは、これだけの敵を相手にしていたにもかかわらず、息も切らしておらず、汗ひとつかいた様子がない。
観客たちのボルテージもマックスまで高鳴り、コロシアムは轟音に包まれている。
しかし、リューシャには静寂にすら感じられている。集中力は研ぎ澄まされ、セイとの間合いにのみ意識が注がれている。
二人は瞬きもせず互いに向き合い、じりじりと間合いを詰めていく。
いつでも体を動かして反応できる。二人は狩りの時の肉食獣のようだ。
先に動いたのは、セイだった。
セイは地面すれすれではないかというほど低い姿勢から、ずどっと地面を蹴り一気に距離を詰めてくる。
半身で構えたリューシャの右太ももを目掛け、腕を伸ばす。
リューシャは身を翻し、華麗にそのタックルをかわす。
凄まじく低い姿勢に、全力でのタックル。これをかわしたリューシャは、さきほどキザ男にされたように、セイの背中を押し倒しにいく。
しかし、セイはその低い姿勢のまま、脚を前方に突き出し思いっきり踏ん張りをかける。
勢いを殺し、さらに反発を利用して加速。
セイはリューシャの真下から、飛び上がるように張り手を繰り出す。
リューシャは即座に反応し、飛び退きながら、背中を押そうと突き出した手でセイの張り手攻撃を逸らす。
二人は再び距離をとった。
「やはり強者との戦いは楽しいですね。」
セイはニコニコと笑いながら、首をポキポキと鳴らす。さらに準備運動のように手首足首をぐりぐりと回している。
「楽しいそうだね。」
「ええ、楽しいです。」
「君は強いね。」
「はい、鍛えてますから。」
セイが力こぶを叩く仕草を見せる。
「君は薬を使わないのか?」
「薬を?もちろん使いません。私は自分の強さを確かめたいのですから。それに、どんな副作用があるのか、分かったもんじゃあない。」
「確かにね。なんだろう、君とはあまり戦う気が起きないなぁ。」
「どういうことでしょう?手は抜かないで下さいよ。」
「ああ、ごめん。そういう意味じゃないんだ。ただ、これまで戦ってきた相手には、戦わなきゃいけない理由があったんだ。憎らしいとか、倒さなきゃ殺されるとか。君に対してそういう感情はないって言いたいんだよ。」
「過酷な環境だったのだな。敬意を表する。ただ、それを言ったら私だって君に敵意があるわけではない。ただ、勝って自分の力を示したい。勝ちたいという欲望は誰にでもあるんじゃないかな。」
「どうだろう。確かにこの大会に優勝したいという気持ちはあるけど、僕にとっては勝ち負けはあまり興味はないのかもしれない。ただ、守るべきものを守れればいいんだ。」
「君は私なんかより遥かに辛い経験をしてきたのでだろうね。私は、この街の人間は戦いをそんな風には捉えていない。これはもっと遊びに近いものさ。楽しんだらいいんだよ!」
「楽しむ…か。いいね!全力で楽しんでみるよ!」
今度はリューシャから仕掛けていく。
全速力で距離を詰め、セイの手前で思いっきり飛び上がる。
リューシャはカンカン照りの太陽を背に、セイの真上を飛び越えていく。
セイは太陽の光にやられ、一瞬対応が遅れる。
リューシャはセイの背後で着地し、タックルをかます。
セイはギリギリのところでタックルをかわし、リューシャを捕まえようと腕を伸ばす。
それに対しリューシャも腕を出し、二人は手を掴みあった。
お互いに力をこめ、腕を押し合う。
「うおおおおお!」
セイが叫ぶ。
「るおおおお!」
リューシャも叫ぶ。
リューシャはふっと腕の力を抜き、腕を背中側に引っ張る。
セイは突如反発を失い、勢い余ってリューシャの胸に飛び込んでいく。
リューシャはセイを抱きかかえ、体を持ち上げて背中をそらし、背面に叩きつける。
「ぬあああああ!」
セイは豪快に宙を舞い、背中から地面に落下した。
瞬間、コロシアムは歓声に包まれる。
第七グループの勝者が決定した瞬間だった。
リューシャは地面に転がるセイに手を差し伸べる。
「いい勝負だった。楽しいってこういうことなんだな。」
「ありがとう。私もこんなに楽しかったのは初めてだ。」
セイはにこやかに笑い、リューシャの手を取る。
「でも、やっぱり悔しいなぁ。」
セイは空を仰ぎ、ぽつりとつぶやいた。
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