サイファ ②
リューシャは悟った。これは単なる力比べではないということを。
サイファのルールは簡単に言えば、足以外の部位を地面につけてはならないというものだ。
そして打撃と魔法は禁止。
つまり相手を倒すには、取っ組み合うのが基本だ。
しかし一対多の状況では、一人とじっくり取っ組み合っていては、別の人にやられてしまいかねない。
複数人を相手にするなら、魔法や打撃が必須になる。
「お前たち、よくこんなに大勢の観客たちの前で卑怯な真似ができるな!」
リューシャは周りを囲う男たちを睨む。
「卑怯なんかじゃないさ。協力しているように見えてみんな敵だ。たまたま、そう!たまたま標的が被っただけのこと!」
キザ男がリューシャを嘲笑う。
「他にもこうやって潰されてる奴がいるのか?」
「そうだ、このグループでも、有力者たちは最初に狙われる。それがサイファよ!」
なるほど。それはいい事を聞いた。
リューシャは低くかがみ込み、タックルの体勢をとる。
囲いの男のうち、最も軽そうな相手に狙いをつけ、一気に体当たりする。
ドン!
予想通り、男は簡単に吹き飛び、地面に体を打ち付けた。
それを合図に、他の男たちはリューシャに一気に襲いかかる。
リューシャは一人を倒して崩れた包囲網から、全速力で抜け出す。
コロシアムの中で、ずっと追いかけっこしているわけにはいかない。
壁を背に戦うことも考えたが、壁に体を当てても負けの判定になるため、リスクが大きい。
リューシャはコロシアムの中央に向かって走ることにした。
包囲していた男たちも、リューシャを必死に追ってくる。
一人を複数人で倒そうとする卑怯者がいるように、卑怯者を相手にリューシャと同じような行動を起こす他の強者がいるはずだ。
「いた!」
リューシャの前方に、同じく数人を引き連れて中央に向かって走ってくるものがいた。
精悍な顔つきをした、体格の良い青年だった。
「あなた!ゲラダの魔剣士ですね!」
青年が爽やかな笑顔をこちらに向け、声を張っている。
「リューシャだ!協力しよう!」
「私はセイです!もちろん、あなたとは最後に正々堂々たたかいたい!」
やがてセイとリューシャが距離を詰めると、二人はくるりと振り返り、お互いにおたかの背中を預ける。
裏切られて後ろからやられる可能性もゼロではない。
しかし、そうしたところで包囲している奴らをどうにかしなければ、結局やられてしまうだけだ。
ここは二人で協力するのがお互いにベストなのである。
背中を預けたことで、リューシャは前の敵に集中することができた。
2人3人程度であれば、実力差のある相手に遅れは取らない。
リューシャは次々と目の前の敵を薙ぎ倒していく。
途中、リューシャでもすんなり倒せないレベルの敵もいた。
全身の血管が浮き出ており、他の敵に比べ格段に腕力が強いのだ。
「気をつけろ!そいつは魔法薬を使っているぞ!」
セイが背後で叫ぶ。
「ありがとう!グレイハンドのやつだな!」
ふん!
リューシャは思いっきり踏ん張り、血走った敵を突き倒す。
「さすが、やりますねぇ、ゲラダの魔剣士!」
今度はキザ男が目の前に立ちはだかる。
よく見ると彼も全身の血管がピキピキと浮き出ているではないか。
「僕は負けないぞ。」
リューシャはぐっと踏ん張り、姿勢を低くする。
そのまま一気に距離を詰め、キザ男の腰元目掛け思いっきりタックルする。
キザ男はリューシャにぶつかる直前、くるりと回転し攻撃をかわした。
リューシャは突進の勢いのまま、前につんのめるようなかたちになっている。
まずい!と思っているそこへ、キザ男はリューシャの背中を押してくる。
完全に体勢を崩したリューシャは、もうほとんど倒れ込みそうな勢だった。
くそっ、これで終わりか?
いや、諦めるな。優勝するんだ。ブーイとヌンガロのため、そして自分たちのために。
グレイハンドたちの卑怯な行いを否定するために。
リューシャは力をふり絞り、思いっきり地面を蹴った。
前方にくるりと宙返りして、崩れた体勢を立て直す。
すぐにキザ男に向き直り、相手の体を今度はがっちりと掴み、ぐいっと横に引き倒した。
「な、なにぃ!?」
驚いた様子のキザ男。そのまま地面に倒れ伏した。




