サイファ ①
それから、リューシャは街の観光をしたり、ブーイとヌンガロとサイファの練習をやったりしながら過ごしていた。
幸い、北の湖畔へ行くカニが通るのはサイファの少し後のようだった。
サミの父母の家で暮らす日々は、平穏な家族の日常という感じで、リューシャにとってはとても有意義で幸せな時間だった。
料理屋で魔法を使って迷惑客を追い払ったという噂は日に日に広まっていき、街を歩いていると「ゲラダの魔剣士」と呼ばれるようになってしまった。
有名になるのは恥ずかしいもあるが、なんとなく嬉しくもあった。
そんな平穏な日々が過ぎ、いよいよサイファの当日が来た。
街全体がサイファの祭り一色に染まり、どこに行ってもその話題で持ちきりだ。
コロシアムは超満員となり、まるで街中の人々が訪れているようだ。
リューシャは出場者として、他の出場者に混じって待機している。
階段状になっている客席の下は、出場者用の待機場所になっていた。
客席の足元にこんな空間があることにも驚きだったが、出場者の数にも驚いた。
大量の参加者をふるいにかけるため、予選は乱闘形式で行われる。
全体を8つのグループに分け、乱闘で勝ち残った1名のみがトーナメント形式の本戦に進むのだ。
リューシャが振り分けられたのは、第七グループだ。
第一から第六グループの試合の間、リューシャは待機場所で出番を待つ。
地響きのような歓声が幾度となく上がり、いかに試合が盛り上がっているかが分かる。
ブーイは第三グループ、ヌンガロは第七グループだった。
先に試合に出て行ったヌンガロは、あえなく敗退し戻ってきた。
しょぼくれているブーイに声をかけると、悔しそうに涙を流す。
聞くと、どうやら第三グループを突破したのは料理屋で暴れていた男らしい。
名をベルニという。
リューシャはそれを聞いて、ブーイが悔しがる理由が何となくわかった。
だが、サイファのレベルはそんなものかと、少し安心したのも事実だった。
料理屋で圧勝した相手、その相手が予選を突破するというのだから、リューシャにも予選突破は可能だろう。
もしかしたら案外優勝も余裕なのでは?そんな甘い考えも芽生え始める。
ブーイには悪いが、リューシャの緊張は取れ、試合が楽しみになってくる。
「君はもしかして、ゲラダの魔剣士殿かな?お手柔らかに頼むよ。」
試合開始を待つリューシャに、ヒゲをくるんと整えたキザな男が話しかけてきた。
「やぁ、こちらこそよろしく頼むよ。」
リューシャは当たり障りなく返す。
ゲラダの魔剣士という言葉に、周囲にいた出場者の注目が集まる。
参加者たちはチラチラとこちらを警戒する様に見ている。
最近はこういう視線にも慣れ始めたリューシャは、無視して集中を高める。
やがて、リューシャら第七グループの出番が回ってきた。
司会者の叫び声を合図に、数十人の参加者がコロシアムの中に入場していく。
彼らに続いて、リューシャも闘技場に足を踏み入れる。
割れんばかりの声援が、四方から降り注ぐ。
会場を埋め尽くす観客たちのどこかに、サミとマルカリスがいるはずだが、ここからでは判別できない。
参加者は闘技場内に散らばっていき、臨戦態勢に入る。
「第七グループ!予選!レディ!ファイ!」
合図とともに、それぞれ手近な相手と取っ組み合う。
はずだった。
リューシャの近くにいた4〜5人の参加者が、リューシャに狙いを定め挑みかかろうとしている。
そのうちの一人は、先ほど声をかけてきたキザ男だった。
「な、なんだよ!」
リューシャは声を張り上げる。
「あなた、ちょっと目立ちすぎたかもね。優勝候補は先に潰しておくのがセオリーでしょ。」
キザ男は自分のヒゲをいじりながら、ニヤリと笑う。
しまった!乱闘だからといって、全員がバラバラに戦うとは限らないということか。
リューシャはジリジリと包囲を狭めてくる相手を睨みつける。
考えろ。どうする?
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次話もお楽しみに!




