成人の儀 ②
「おぬし、昼間魔獣を倒したそうじゃな。それもほぼ1人で。」
チナーはニヤリと笑い、そのしわくちゃな顔をさらにしわくちゃにしながら話す。
「倒したのは本当です。ですが1人でというのは違います。隣のアイシャが援護してくれましたし、たまたまというか、運が良かったんです。」
事実を語っているだけだ。魔獣に勝つことができた理由の7割は運であり、アイシャの適切な援護があったからこそだ。
リューシャ一人の力で打ち破ったと言われたのは、少しムッとした。もし褒めるなら、アイシャも一緒に褒めてほしいと思った。
「ふむ。成人したばかりだというのに奢ったところすら見せず、さらに仲間を褒めて信を得ようとは。すでにリーダーの素質を遺憾なく発揮しておるのぉ。」
え?いやいや…
この老人は何を言っているのだろうか。
「ガハハ!チナー様、それは息子を買いかぶり過ぎですわ!」
「冗談で言っとるんではないぞ〜。わしのトゥループの一員として有能な若者は宝じゃ。これからの活躍が楽しみというものよ。」
「ヌハハ!チナー様にそこまで言って頂けるとは!我々のトゥループの将来も安泰ですなぁ!」
「うむ、我がトゥループの大切なエースファミリーの後継者じゃ。確か他に男子の兄弟はおらんかったの?」
「ええ、まぁ…」
「うむうむ。」
チナーは大きくうなずきながら、わしのファミリーからも嫁がせんとなぁなどと独りぶつぶつ言っている。
かなりまずいな。あの少女を助けてしまったせいでリューシャの人生プランが大きく崩れていく音が聴こえてくる気がした。
エースファミリーとは、遊牧で土地を移動する際に最前線を張るファミリーのことである。
当然、魔獣に出会う機会も増え、危険が大きい一方、新鮮な牧草や、その土地での貴重な資源にいち早くたどり着くことが出来るメリットもある。
ハイリスクハイリターンなのだ。
それは、大切な家族を失うリスクも高めるということだ。母親だって…
「それじゃわしはこの辺で失礼するぞ。」
そう言ってチナーはゲルを出て行った。
父とリューシャはチナーに礼をしてほっとため息をつく。
「リューシャ、チナーの言うことはあまり間に受けなくていいぞ、奴は権力のことしか頭にないからな。いつか俺が奴を引きずり下ろして、このトゥループの長老になってやるからな。その時はお前は長老の後継者だぞ!」
父はガハハと笑いながらその大きな手のひらでリューシャの背中を叩く。
「うーん、エースとか権力とかあんまり興味ないなぁ。」
「そうかそうか。まぁお前の気持ちはよく分かる。だがな、リューシャ。守りたいものが増えれば増えるほど責任も大きくなる。やらなきゃいけないことだって多くなるもんだ。」
リューシャは父が言っていることがあまり理解出来ず、キョトンとして父を見上げる。
そばでずっと静かに控えていたアイシャが、ふっと笑いかけてきた気がした。
「お父様、そろそろお時間も近いですので。」
「おお、すまなかったな、アイシャ。じゃあリューシャ、儀式頑張れよ!リューシャ伝説の始まりだぁ!俺の息子なら天下統一くらいしてもらわないとなぁ!ガハハ!」
そう言い残して、父親もゲルから出て行く。
騒がしい人だな、まったく。
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