街のはみ出し者たち ④
「なあ、今のもしかして魔法か!?」
「いやいや、まさか。何かの手品だろ…」
無礼な男を退治したリューシャの行動に、店内がにわかにざわつき始める。
客たちは顔を寄せ合い、さっきまで店内で繰り広げられていた光景に対してあーでもないこーでもないと議論しているようだ。
男の対応をしていた店員が、リューシャに向かってびくびくと近づいてきた。
「あ、あの。さっきはありがとうございました。」
店員はリューシャに対して深々と頭を下げる。
「いやいや、いいんだ。このお店のことをすっかり気に入ってしまって、ああいう客についむかっとしてしまった。こちらこそ騒ぎ立てて済まなかった。」
「そんな!謝らないでください!それで、その、さっきのは魔法ですか?」
店員がリューシャの顔を覗き込むように、恐る恐る尋ねる。
その瞬間、店内が一気に静まり帰り、客がみなリューシャの返答に聞き耳を立てる。
「そうだけど、なにかまずかったか?」
おお、と店内にどよめきが広がり、先程の倍くらいのエネルギーでざわつき始める。
「な、なんと。魔法でしたか。素晴らしいものを見せていただきました…」
店員が先程よりさらに深々と頭を下げ、店の奥に下がっていった。
「いったいどういうこと?魔法を使っただけで、雰囲気が随分変わったけど。」
「いやいや、兄貴。この辺で魔法を使えるやつなんていませんよ。あのグレイハンドと一部の天人を除いて。あ、天人ってのは上層に住んでる上流階級の奴らです。」
ブーイが答える。
「どういうこと?ヒトはみな魔力を持って生まれ、それぞれの民族は固有の魔法を自然と使えるはずだけど。」
と、困惑した様子のマルカリス。
「俺もこれ以上は…」
ブーイは済まなそうに首を振る。
「まあ俺たちの常識が通じないような場所があるのはこれまでの旅でよく分かるだろ、そう行くことなんじゃないか?」
「そういうことなのかな…」
マルカリスはまだ不服そうだ。
そんなやり取りの後、一行はチキばあのもとを訪ねる。
チキばあは昔からずっとこのあたりでひも屋を営んでいるそうだ。
チキばあのひも屋は、日当たりの良い広場に面しており、人の往来も多い場所にあった。
チキばあと思しき小さな老婦人は、店の軒先で座布団の上にちょこんと座っている。
そして、手元でひもを結いながら店の前においた長椅子に座る客と談笑している。
「よう、チキばあ。」
ブーイが声をかける。
チキばあは声を聞き、その細い目をこちらに向ける。
「何じゃ、ブーイ坊にヌンガロ坊か。母上が寝込んでいると聞いたぞ〜。こんなところで油売ってないで看病してやらんか!あの子はむかしから気立てがいい子でな〜。旦那も男らしくて優しい、このあたりではほんとに珍しいいい夫婦だったのに、ふたりとも早くに病気になるなんてな〜、むむっ!」
チキばあの話の長さは聞いていた通りだったが、リューシャたちに目を止めるとその細い目をかっと見開いた。
「ほう!これはゲラダの者たちか。最近ゲラダも商売をやっていると聞いていたが、客人も増えてきたということだな。わしも草原の話はよく聞くが、実に興味深い。そもそもゲラダを含む遊牧民族というのは6つあってな。草原の6支族と言われていた、ドグエラ、チャクマ、テウト、ギニー、イビアン、そしてゲラダじゃ。草原の6支族の神話というのがあってだな。」
「あの、そういう歴史はよく知ってますので…」
リューシャが口をはさむ。流石に神話の話まで聞いていたら長すぎる。
「んんあ!」
チキばあが明らかに不機嫌な顔をする。
「はるか昔、古代文明が終わりを迎えていたころ、話の始まりはここからじゃ。」
チキばあは気を取り直して続きを話し始めた。
「済まねえ、兄貴。チキばあは一通り話させてやらねえと先に進まないんだ…」
ヌンガロがリューシャに耳打ちする。
これは先が長そうだ。リューシャは肩をおとし、長椅子に座ることにした。




