樹上都市アナチュ・アナ ①
「ここじゃ。」
ターリマが指さした通路の先には階段状になっており、外に通じているようだ。
「いよいよだね。」
リューシャは階段を上り、外に出る。
久しぶりの地上だった。空には満点の星空が広がっている。
地下にいる間に、だいぶ日の感覚がずれてしまっていたようだ。
あたりを見渡すと、天に向かって高くそびえたつ巨大な樹が見える。
巨大樹は枝を横に大きく広げ、まるで一つの山ようだ。
その枝先にはぽつぽつと光がちりばめられており、巨大樹全体がキラキラと輝いている。
「きれい…!」
サミが目を輝かせ、食い入るように見つめている。
「もしかしてあれが街?」
「その通りじゃ、あの光の一つ一つが、あの街の住居から漏れる明かりよ。」
ターリマはこともなげに言う。
「さて、正しい方角から近づかんと樹に殺されるから気をつけんとな。」
「樹に?またまた冗談を!」
マルカリスが笑うが、ターリマはいたってまじめな表情であった。
「目印を探せ。幹に文様が描かれているところがあるはずじゃ。その正面からまっ直ぐ近づいていけば死なん。」
「わ、分かりました。」
リューシャたちは巨大樹から一定の距離を保ちながら、ぐるりと樹を回り込むように進んでいく。
「しっ!伏せろ!」
ターリマは突然立ち止まり、身をかがめる。
わけもわからず、三人もそれに続く。
「あそこ、何かおるの。」
ターリマの視線を追うと、そこには草原をさまようイビルドッグが見えた。
群れからはぐれてさまよっているのかもしれない。
イビルドッグは、光につられて巨大樹の方に向かって歩いている。
「あやつ、樹に近づいているな。ちょうどよい、ここに隠れてゆっくり眺めておこう。くっくっく、わしも『その瞬間』を見るのは初めてじゃな。」
ターリマの不気味な笑いに、何となく嫌な予感を感じる。
ビュン!
風を切る鈍い音がした瞬間、巨大樹の枝から鞭のようなツルが伸び、イビルドッグを巻き取ってしまった。
「いやはや、瞬きをする暇もなかったな、はっは。おぬしらもああなりたくなけれbあ目印を探さんかい!」
「は、はい!」
三人が声をそろえて返事をする。
「あれはトラップか何かですか?」
「トラップではないな、あの樹は正真正銘生きておるんじゃ。生き物はあの樹に活かされ、樹は生き物を守る。そういう共生関係よ。」
「あの、あれですか?」
サミの指さす方角に目を細める。
確かに、幹の中腹に一際色の濃い部分があった。
「まさに!でかした嬢ちゃん!」
「えへへ~」
一行は、目印の正面に移動しゆっくりと近づいていく。
もし失敗していれば、先ほどのイビルドッグのようになってしまうのは間違いない。
そんなことを考えると、自然と足取りが慎重になってしまう。
まったく何の変哲もない草原を歩いているはずなのに、崖の端を歩いているような緊張感があった。
リューシャは額に脂汗を浮かべながら、何とか幹の下までたどり着いた。
幹の下まで来ると、この樹の異常な大きさがはっきりと分かった。
頭上は木の葉におおわれており、上の様子は分からない。
街の入り口はどこだろうか。
上に登ろうにも、しがみつけるようなサイズではなかった。
リューシャがきょろきょろしていると、ターリマ少し離れたところから手招きしているのが見えた。
手には上から垂れ下がる、筒状の縄のようなものを持っている。
ターリマは筒の先端の広がっている部分に口を近づけ、話し始めた。
「ヒミズ族主張、ターリマである。付き人を合わせて4名、訪問を許可いただきたい。合言葉は、『アナチュ・アナに心臓を捧ぐ』」
言い終わると、頭上からゆっくりと梯子が降りてきた。
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