地下生活者 ⑧
リューシャがターリマの部屋に入ると、ドゴモは扉を閉めて出ていった。
ターリマの部屋には、お付きのものもおらず完全にリューシャと二人きりだった。
「突然呼び立てて済まなかったな。」
ターリマが口火を切る。
「いえ、それはお気になさらず。僕もまたお話したいと思っていました。」
「それはすこしこそばいの。まあまあそう緊張されずともよいぞ。さあ、こちらへおいで、ぼうや。」
初めてあったときとも違った猫なで声に、リューシャは体を固くする。
ターリマはこっちこっちと手招きし、リューシャをそばに座らせ用としていた。
リューシャはそれに従い、ターリマが座っている幅の広いソファに腰をかける。
「ふふっ、かわいいのう。酒以外にも味見したくなってしまうではないか…」
「ちょっと、それどういう意味で…ふごっ!」
ターリマの両腕がリューシャの頭を抱き込み、引き寄せられる。
リューシャはその力に逆らえず、顔をその豊かな胸部に押し付けられた。
「うちの男たちと違って、遊牧民族ってセクシーよの。このふわふわでたくましいたてがみもたまらないわ。」
そういって、ターリマはリューシャの頭を撫で回す。
「う、く、苦しい…」
「こんなところ、奥さんに見られたら怒られてしまうじゃろうの。」
リューシャは腕を逃れようともがくも、びくともしない。
さらに、動けば動くほど胸の柔らかさが感じられてしまい、困ってしまう。
ターリマがリューシャの耳元に顔を近付け、ささやく。
「で、お主らがここまで来た目的は何じゃ。」
先程までの猫なで声とは全く別の、低く冷たい声であった。
「やっぱり、僕ら信用されてないみたいですね。」
「少なくとも我はな。盗んだ酒を手土産に持ってくるやつをどう信用しろと?あれはゲラダの酒の味ではなかったからな。」
リューシャの予想通り、ターリマはすべて把握しているようだ。
「そこまで…わかりました。僕ら西の街に行きたくて、何か情報を得られないかと思って聞きに来たんです。」
「西の街か、知っているぞ。場所も行き方も。」
「ほ、ホントですか!」
「ぼうや、そう早まるな。もっと楽しませておくれ。」
ターリマはニヤリと笑った。意地の悪い笑顔のはずなのだが、絶世の美女であるターリマだと何か沿う感じなくなってしまう。
「ヒミズ族は義に厚い。恩には恩を返す。贈り物を受け取ったからには相応の返しをする必要がある。」
「だったら!!」
「はやまるなといったであろ!」
リューシャはぐいっと耳を引っ張られる。
「いてててて…」
「恩を返す方法などいくらでもある。もうすぐ冬の盛りになる。ここで冬を越せるように計らってやっても良い。」
「それじゃだめだ!」
リューシャはつい声を張り上げてしまう。
「ほう?」
ターリマが眉を吊り上げる。
「あ、いえ、申し出には感謝します。でもそれじゃ遅いんです。」
「やれやれ、焦ってばかりのこの早漏坊やめ。なぜそこまでして街に行きたい?」
「それは…これです。」
リューシャは肌身離さず持っていた、父親の残した魔石を取り出しターリマに突き出す。
「ほう!これは魔石か!」
ターリマが声を上げると同時に、リューシャの頭を抱えていた腕が離した。
やっとリューシャは開放され、体勢を整える。
「この魔石を加工してくれる魔法鍛冶師を探したいんです。」
「なるほどな、魔法鍛冶師を探すのであれば西の街を目指す判断は悪くない。それで、お前はこの石をどう使うつもりか?」
「これは…これは父さんたちが命に変えて倒した魔獣のものなんだ。だから、その思いを無駄にしたくない。この石の力を引き出して、今度こそ自分の力で家族を守りたいんだ。」
「…利己的なやつめ。」
「ち、違う!僕はただ家族を守る力がほしいんだ。」
「それが利己的だと言っている。自分の愛するものが守れれば他者はどうでも良いのだろう。現に自分の目的のためによそから酒を奪って来ているのだろう。奪う奪われるの遊牧民族にとってはそれが普通なのかもしれんな。だが我らは違う。地下の社会は助け合いを基本にできている。それがわからぬようなものに力を貸せるか。」
おじさんを足置きにしていたやつが何を言っているんだとも思うが、ターリマの言うことは一理ある。
「くっ」
「その魔石はそんなチンケな願いを叶えるために使うような代物ではない。お主わかっておるのか?その大きさにその純度。間違いなく過去最高級のものになる。秘めたる力は計り知れないほど大きいだろう。その石一つを巡って民族同士が争うことだってありうる。お主の父親が倒した相手とはそういうレベルのものだ。」
「いったい何が言いたいんだ!」
リューシャはターリマをにらみつける。
「そう怖い顔をするな。だいたい話が見えてきた。我はお主に力を貸してやってもいいと思っている。条件次第でな。」
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