地下生活者 ③
このままでは倉庫に入ることは出来ない。
そう判断したリューシャは、人差し指を立て指先に魔法の火を灯す。
マルカリスのように攻撃魔法として使うほどの練度はないが、小さ灯りを作ることくらいは、リューシャにも出来る。
上空を飛ぶイヌワシが、火の灯りを合図としてピョーと一度、高らかに鳴く。
イヌワシに姿を変えたキャムである。見張りはイヌワシの鳴き声に目を覚まし、上を見上げる。
なんだ、ただの鳥かという様子で、またこくりと寝入り始めた。
リューシャは何も、キャムに見張りの気を向けさせたいわけではない。
キャムの鳴き声はマルカリスへの合図であった。
キャムの鳴き声からしばらくしないうちに、家畜の囲いがある方面から細い煙が立ち上り始める。
マルカリスが火を放ったのだ。事前の作戦で、キャムからの合図で火を放つことにしていた。
遊牧民族にとって家畜は何よりも大事な財産である。家畜をを守るため、遊牧民はいかなる異変も見逃さないように訓練されている。
それは他民族であるドグエラも同様であった。
彼らはすぐに火事に気がつき、全員総出で消火にあたる。
乾燥する冬の風に吹かれ、火は瞬く間に広がっていく。
木で出来た柵に火が燃え広がるのに、時間は掛からなかった。
家畜たちは驚きと恐怖で、メーメーとけたたましく鳴きわめいている。
パニックに陥った家畜たちを助けようと、遊牧民達は必死である。
「おい、早く消せ!」
「こっちだ!急げ!」
先ほどまで話し込んでいたゲルの連中も、即座に飛び出していき、消火にあたっているようだ。
無人になったゲルの周辺を、リューシャは慎重に確認し、倉庫の中に忍び込む。
予想通り、倉庫の中には酒の入った壺状の容器が並んでいる。
リューシャは中身を確認し、両手に抱えられるだけの酒を持ち出した。
よしよし、上手くいったぞ!リューシャは心の中でガッツポーズをとる。
倉庫を抜け出し、上空に視線を投げる。
キャムは、リューシャの場所とサミの待つ逃走経路を結んだ直線上を行ったり来たりしているはずだ。
こうすることで、安全な逃げ道にリューシャを誘導することができる。
人間の指示を理解し、しっかり実行出来る。本当に賢いな。
リューシャはキャムの飛ぶ方角を確認し、見つからないうちにその場を後にする。
リューシャは酒を持って暗闇を走り抜けた。
しばらく走ると、前方に二人と三頭の馬の影が現れる。
既にマルカリスも到着して、サミと二人で待っていたようだ。
「リューシャ君!こっち!」
サミが大きく手を振って、リューシャを呼ぶのが見えた。
リューシャは盗み出した酒を掲げ、サミに応じる。
「持ってきたぞ!二人ともナイスだ!」
「頑張ったのはリューシャくんとマルカちゃんだよ、わたしは待ってただけだもん。」
サミがはにかむ。
「そんなことないさ、逃げ切るまでが大事だから、サミのおかげでもある。そしてなにより、今夜の大活躍だったのはキャムだよな!よしよし〜」
言って、サミの肩に乗ってフニャッとした顔をしているオウムを撫で回す。
「ちょっとー!わたしも大活躍だったんですけど!」
マルカリスが拗ねて頬を膨らませている。
「よしよし、お前もよく頑張ったな〜」
リューシャは妹の頭を撫でてやる。まぁ、今日くらいは褒めてやるか。
「えへへ〜」
妹はすっかりご満悦のようだ。
「あんまりもたもたしてると奴らに気づかれるかもしれないな。」
3人は馬に乗って、より安全な場所を目指して夜の草原を駆け抜ける。
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