地下生活者 ②
リューシャはドグエラ族の野営地に関する一通りの情報を把握し、馬とともに待つ二人のところにもどった。
偵察で得られた情報をかいつまんで説明し、お酒の奪取作戦を説明する。
「やることにしたんだね!」
マルカリスが目を輝かせている。
「ああ、早速今夜決行しよう。」
「え、今夜?ずいぶん早いね。」
サミは少し心配そうだ。
「そもそも俺達には時間がないんだ。それに、彼らが移動すればゲルや家畜の場所も変わってしまう。そしたら情報収集も無駄になってしまうだろ。」
「そうだね、分かった。リューシャ君が決めたことなら信じるよ。」
サミのまっ直ぐな目がリューシャを貫く。ここまで信じてもらえると、責任の重さを感じずにはいられない。
「私も今夜に賛成!面白そうだね!」
マルカリスは相変わらずの調子である。
「あんまりはしゃぐなよ~ばれちゃいけないんだから。」
その夜、三人は作戦を決行すべく、ドグエラ族の野営地近くまで接近していた。
サミは手を握り、うまくいきますようにとお祈りしている。
不安なのだろう。見つかれば命はないのだから。
また、姿を見られることも絶対に避けねばならない。
敵対するゲラダの者が盗みに入ったと知られれば、民族間の対立が深まるのは間違いない。
最悪、構想にまで発展する可能性だってある。
自分たちの目的のために、民族のほかの者たちにまで迷惑はかけられない。
必要なのは完全な成功である。きっと大丈夫。リューシャは心の中で唱える。
ドグエラの野営地は、夜の食事を終え既にしんと静まりかえっている。
この日は新月で、夜を照らすものは何もなく、真っ暗な闇が広がっている。
作戦を決行するには絶好の夜であろう。
草原に転々と建てられている移動住居のゲルは、小さめのものが住居用のもので、大きめのものが倉庫等の用途のものである。
住居群の端には、柵で囲った家畜の放牧地がある。
その真反対側にある倉庫に、酒が置いてあることを確認済みだ。
「よし、じゃあふたりとも、言ったとおりにお願い。」
三人はそれぞれ三手に分かれる。いよいよ作成開始だ。
リューシャはゆっくりと暗闇を進み、目標のゲルに近づき周囲の様子を確認する。
酒の保管場所が野営地の端にあったのは、正直言ってラッキーだった。
リューシャは気づかれることなく、保管場所の近くまで接近することができた。
保管場所の近くにはいくつかゲルが設置されており、それらをまとめて監視できる位置に一人の見張りがいる。
見張りは緊張感がなさそうにこくりこくりと居眠りをしている。
とはいえ、このまま突入すれば気づかれる可能性の方が高い。求めるのは完全な成功である。
ゲラダでは普通、真夜中まで倉庫を見張るようなことはしないのだが、警戒しているのは敵対する民族の縄張りに入っているからであろうか。
居眠りする見張りなどよりもっとマズイのは、保管庫付近にある大きめのゲルからかすかに明かりが漏れていることだ。
あのくらいのサイズのゲルで、真夜中に明かりがあるということは、おそらくこの集団の指導者層が集まり話し合いをしていると思われる。
リューシャは音を立てないようにさらに近づき、耳を澄ませる。
すると、ゲルの中の話し声がかすかに聞こえる。
「やはり…このまま…だめだ…」
「なん…あそこであんな…われらの…」
「逃げる…じゃない…戦う…」
「…本気…ないと…やつ…」
リューシャのところからでは、会話の内容はほとんど判別できなかった。
ただ、その声の様子から、かなり切迫した状況であることは理解できた。
見張り番、話し合っているやつら、彼らをどうにかしなけらば、酒の奪取は難しそうだ。
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