歴戦の猛者 ②
イビルドッグは姿勢を低くし、ゆっくりとリューシャらに近づいてくる。
デフネとエブラは馬から降り、魔獣を迎え撃つ態勢をとる。
デフネは大きな十字型のシャクを持っており、これで、楕円形の平べったい盾にも、敵を切る剣にもなるような武器を創り出す。
エブラは両手にサック型のシャクを装備しており、そこから鉤爪型の武器を作り出した。
デフネが盾役となり、敵の注意を引きつけている間に、エブラが鉤爪で不意打ちを食らわせるといった連携だ。
前線の二人の連携に、イビルドッグは次々と敵を倒されていく。
そこにさらに、後方からは、ネヒルの弓形武器の攻撃が加わり、まさに敵を圧倒していった。
さらに、前線と後衛の間にはアズラと父が、戦況に応じて前線と後衛をサポートしながら戦っている。
前線の二人の間をすり抜け、後衛のネヒルを狙う魔獣には、すぐにアズラが切りかかる。
アズラは右手に剣を左手に盾を持ちスキのない立ち回りだ。
父は両手剣を振り回しながら全員に魔力を供給し、さらに要所要所で援護射撃の魔法を放つ。
父と妻たちの連携には、とにかく隙がなく、イビルドッグ達は為す術もなく撤退していった。
リューシャは特に見ている以外何もすることもなく、ただ彼らの隙のない強さに驚かされていた。
まさにこのファミリーは歴戦の猛者と言える戦いぶりであった。
「す、すごいね。あたしも頑張らなきゃ、ふん!」
横で見ていたサミも驚かされているようだ。
気合いを入れている様子が可愛い。
「一旦戻って他の隊に報告入れるぞ。」
父は特別なことはやっていないという風に、リューシャのもとに戻ってきた。
「リューシャ、今の戦い見てどう思った。」
父がリューシャに聞く。
「完璧だった、戦術がいかに大事かというか。そんな感じ。」
リューシャは素直に答えた。
「ガハハ!まぁ、そうだな。イビルドッグは基本戦術で倒せる相手だからな。ただいつもこう上手くいくわけではない。」
父は馬を急かしスピードを早める。
リューシャも追いつこうと、馬の腹を蹴る。
「それって、どういうこと?」
「リューシャ、策なしの策士の逸話の通りだ。ちゃんと話したことあったっけなぁ。まぁいいや、聞け。」
そう言って父は話し始めた。
「今では三つの民族に減っちまったが、この平原の遊牧民族は、昔六つあった。そしてそれぞれがお互いに戦いに戦いを重ね、お互いを潰しあった。ゲラダは体格で劣る女が多く、単なる戦闘力としては正直一番下だったらしい。だがこうやって今も民族が生き残っているのは、その時に活躍した策なしの策士と呼ばれた大英雄クラハーンという女戦士の活躍があったからなんだ。俺たちゲラダの戦士は皆クラハーンを尊敬し、彼女のようになりたいと心から思ってるさ。さっきもやっていた男を中心とした連携戦術も彼女の考え出した戦術だな。そして彼女が戦場で最も大事にしていたこと、それは策に拘らず、その状況に適応することだ。基本戦術を中心に、戦場の刻一刻と変化する状況に合わせて対処する。これが策なしの策士と言われた由来だ。戦場ではその状況をよく観察し、理解し、決断し、そして実行する。これを常にやり続けろ、そうすれば勝てると言っていたらしい。長くなっちまったな、だが大事なことだ。教えられることはできるうちに言っとかないとな、よく覚えとけよ。」
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