前触れ ②
「とにかく、グレーターヌーの群れが来るまでに速く片付けますよ!」
アイシャの号令で、ゲルの片付けをはじめる。
グレーターヌーはこちらからなにもしなければ、直接危害を加えてくることはない。
ただ、通り過ぎる時に、その巨大な足で踏まれないように、固まって、かがり火を焚き避けてもらう必要がある。
みんなで手分けして、荷物の整理、ゲルの解体が終わった頃には、すでに夜になっていた。
今日は満月で、比較的明るく、ゲラダの目であればかなり遠くまで見渡すことができる。
トゥループの皆が一ヶ所に集まる。
皆が向ける視線の先には、巨大なヌーの群れがあった。
成体の大きさはおよそ30メートル、脚の直径だけで5メートルほどもある。
さながら山がそのまま動いているようだ。
大人から子供まで、およそ20〜30匹の群れが、リューシャらのすぐそばを駆け抜けていく。
その一歩ごとに地面が揺れるような感覚が続く。
「何度見てもすごい光景だね。」
サミが言った。
「そうだね。でも、普通大移動は春先のはず。季節外れの移動なんて、何か理由があるのか。」
「季節外れの大移動は不吉の前触れってよくいうよね…なにもなければいいけど。」
サミは心配そうにその光景を見つめる。
「大丈夫。何かあっても、俺や家族がついてるから。」
言って、リューシャはサミの手を握った。
「うん、わたしね、リューシャくんも、お父さんやお母さんたちも大好きだよ。みんな優しくて、とても頼りになる。わたしもあんな風に、強く優しくなれるかな。」
「サミならきっとなれるよ。」
それから2日後、父の元に依頼があった。
内容は、グレーターヌーの大移動の原因調査だった。
ヌーのきた方角を調査し、何か危険がないか確認することが任務だ。
ファミリーの成人として、リューシャとサミも参加することになる。
リューシャが出立の準備をしている。
サミは朝から顔色が悪い。
「サミ、顔色が悪いけど大丈夫かい?」
リューシャは声をかける。
「うん、体調は問題ない。でも、なんだかすごく嫌な予感がするの。今日の任務、どうにかいかないですまないかな。」
「具合が悪ければサミは残ってても大丈夫だと思うよ。」
「ううん、そうじゃなくて、リューシャ君も、家族のみんなもってこと。」
「うーん、それは難しいかも知れない。これは任務だから、誰かがやらなきゃならないし。グレーターヌーの話だって、ただの迷信だよ、さあもう行かなきゃ。」
「うん…」
リューシャはサミの様子が気がかりであった。
しかし、どうすることもできない。
とりあえず様子は気にかけておこう。
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