前触れ ①
「いてて…なかなかいい一発だったぜぇ!今のは良い連携だ!もう一本行くぞ!」
確かになかなか手応えがあった。サミとリューシャは、心も魔力も繋がり、一体となった気がした。
しかし、サミの体力消耗が激しいようだ。すでに息が上がってしまっている。
もっと自分がサポートしなければ。
「おとうさま〜!リューシャさま〜!サミさ〜ん!」
丘の下から、アイシャの呼ぶ声が聞こえた。
アイシャは馬に乗って、こちらに駆け寄ってくる。
「どうしたアイシャ。何かあったか。」
「はい、お父様。グレーターヌーの大移動がこの近くを通るようで、避難と警戒の司令が各ファミリーに来ています。」
「そうか、わかった。すぐ戻ろう。」
ゲルが立ち並ぶ野営地に戻ると、皆が慌ただしく準備を始めていた。
サミはアイシャとともに、妹たちの世話に向かってもらった。
マルカリス以外の妹は、皆まだまだ小さく、手がかかる年頃なだった。
リューシャは、荷造りをするべく自分のゲルに戻る。
ゲルに入ると、なぜかマルカリスが上半身裸でそこにいた。
「お、おい!マルカ、なんでこんなところに!」
「ひゃん!見ないで!」
「う、すまん。」
リューシャは外に出て待つことにした。
「お兄ちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
部屋の中から呼ぶ声がする。
「もう入っていいのか?」
「えと、うん。あんまり見ないでよね。」
中に入ると、あらわになった背中をこちらに向けたマルカリスの姿が、そこにはあった。
白くなめらかな肌、華奢な背中。妹とはいえ、年頃の娘のその姿に、リューシャは少しドキリとしてしまう。
しかし、その背中に青黒いアザができているのがわかった。
「おい、これ大丈夫か?」
「うん、ちょっとハメ外しすぎちゃったかも…」
いつもうるさくて騒がしい妹がしおらしくしている。いつもこうならいいのだが。
マルカリス、黙っていれば美人だといつも大人にからかわれていた。
「軟膏をぬりたかったんだけど、自分じゃぬれなくて。お兄ちゃんに塗ってほしいの。」
「わかったよ。で、なんでこんな怪我したんだ。」
「荷造りの途中で妹たちと遊んでて、ちょっとね。」
「まったく、ほら塗るぞー」
マルカリスがベッドに横になる。
リューシャは治癒術士がまじないをかけた軟膏を手に取り、マルカリスの怪我に塗っていく。
「はぁん…、そこ、すごい…、お兄ちゃん、もっと優しく…」
「…まじめにやれ」
「やめてくださいまし、おにいさま!背徳感は蜜の味!そんな誘惑に本能が耐えられないのね…!」
「んたく、どこでそんな言葉覚えたんだ。随分元気そうじゃないか。おら!」
リューシャはマルカリスの脇をくすぐる。
妹はここが弱いのだ。小さい頃、よく遊んでいたのが懐かしい。
「きゃはは!あ!あ〜ん!」
マルカリスが叫ぶ。弱点は今も変わっていないようだ。
「リュ、リューシャ君!?そ、そんな!わたしだってまだそういうことしてないのに、それなのに…」
「あ、いや!これは違うんだ!」
入り口に、サミとアイシャが立っている。
この状況を見れば、誤解してもおかしくなかった。
「はぁ〜、サミさん。落ち着いて。マルカ、また遊んでたでしょう!」
流石にアイシャはなんとなく状況が分かったようだ。
「リューシャ様も、もう成人なんですから、誤解されるようなことはやめてくださいね!兄妹といっても、異母兄なら一応結婚だってできるんですから。わたしだって…」
「え?今なんて言った?」
アイシャの言葉は、後半よく聞こえなかった。
「リューシャ様は大バカモ者だと言ったのです!」
え〜、俺なんかしたっけ?
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次話もお楽しみに!