コンテスト編 第4話「決勝戦その3」
大混乱のコンテスト会場だったが、スタッフ総出で事態の収拾をしてくれた。
怪光線や触手は、熱によって生み出された蜃気楼だったらしい。
水をぶっかけたら綺麗に消え去っている。
料理一つで、それだけ会場がヒートアップしたってことだろう。
審査結果は当然のように、真白がトップだ。
シタル フルス ラナー リュート 真白
加算点 10 15 20 5 25
合計 66 69 91 80 69
やはり青汁は不評で、一人を除いて全員にダメ出しされていた。栄養バランスはそこそこ良さそうだし、味をなんとかすれば受け入れられる可能性が、微粒子レベルで存在するかもしれない。
果物から青汁が生まれるプロセスは、きっと永遠の謎だ。
そんなリュートさんの称号は、社交界に輝く数字に強いが体力のない豪運残念青汁令嬢にパワーアップしている。俺の脳内で。
◇◆◇
「次の審査へ移る前に、皆様にお知らせがあります。先程の料理は危険だと実行委員会が判断したため、来年からマシロさんの出場を禁止とします」
「えー、そんなぁ……」
「商業組合から特別賞が授与されますので、それで勘弁して下さい。この通りです、お願いします」
料理が美味しすぎて出禁とか、ちょっとした伝説になれそうだ。
あの混乱ぶりを見たら、この判断も仕方ないかもしれない。司会者もすごく謝ってるし、今夜は真白を思う存分甘やかそう。
それにしても特別賞って、何かもらえるんだろうか。
ちょっと楽しみだな。
「大変お待たせいたしました! いよいよお待ちかね、水着審査を開催します!!」
司会者の言葉で会場は大きく盛り上がる。
出場者の五人はすでに着替えを済ませ、水着の上からポンチョを羽織って、ステージの隅で待機中だ。
ファッションショーのように一人ずつ中央へ進み、そこでクルリと一回転してポーズを取ったあと、ステージの逆側へ移動する。
「まず最初は犬人族のシタルさん。現役の冒険者らしく、引き締まったボディーと小麦色の肌が魅力的だー! 腰のクビレは芸術的で、スラリと伸びた足が男たちを惑わす。そして腹筋は見事なシックスパック。並の男では勝てないぞ!!」
中央で回転した後、フロント・ダブル・バイセップスに似たポーズで、観客に向かってアピールしていた。
体を鍛えてる分、腰とかむちゃくちゃ細くてスタイルがいい。赤いセパレートタイプの水着も、魅力を引き出すいいチョイスだ。
「続いて鬼人族のフルスさん。おっとこれはいけません! 小柄なボディーから零れ落ちそうな二つの果実!! そして二本の腕で挟み込むようなポーズがあざとい、あざとすぎるっ!!! これが古文書に残されている、トランジスターグラマーというスタイルかー!?」
街で見かける鬼人族の女性の中で、コールを超える存在に出会ったのは初めてだ。
大きすぎてバランスが悪く見えないのは、安産型スタイルのおかげだろう。二十代前半に見える容姿とは裏腹に、母としての貫禄も感じられる。
「三人目は人族のラナーさん。恥ずかしそうに胸元を隠している姿が初々しい! これはまさに小悪魔だーっ!! 恋人が出来たことで、泣いた男の数は両手足でも足りない、チェトレで最も罪な女。こんな姿を見られるのは、これが最後の機会になるかもしれない!!!」
俺の周りにいる基準が真白やケーナなのでスレンダーに見えるけど、これくらいがこの世界にいる人族標準だ。
水着がワンピースタイプなため、少し幼い印象を受けるものの、容姿や仕草とすごくマッチしている。顔を赤くして照れている姿は、男心を盛大にくすぐると言っていい。街で人気があるのも納得だ。
「四人目は商家のお嬢様、人族のリュートさん。ポンチョを勢いよく脱ぎ捨て、自信たっぷりに歩いてくる! そしてステージで一回転した後、謎のポーズを披露したーっ!! これは一部の男性が大喜びだ!!! 街で見たことのない水着は恐らくオダーメイド。メリハリの乏しい体にピッタリフィットしています!」
少し胸をそらすように姿勢よく中央まで歩いてくると、腰に片手を添えてクルリと一回転する。そしてそのあと、ピースサインをした反対側の手を、目元に持っていった。
なんだか「キラッ☆」という効果音が聞こえてきそうだ。揃いのハッピを着た集団が、手拍子しながら拳を突き上げてるけど、ファンクラブでもあるのか? 許嫁がいるんだぞ、この人。
しかし、魔法少女のコスプレとか、むちゃくちゃ似合いそうだな。
「最後は料理審査を大いに沸かせた、人族のマシロさん。ゆったりした服の上からでも隠しきれない豊かな恵みが、いよいよ登じょ……」
ずっと軽快に司会をしていた男性が、真白の姿を見たとたん言葉を失ってしまう。
リュートさんの身につけていた水着もオーダーメイドだが、真白だって今年の夏用に新調したソラ謹製の一点物だ。絵のうまい母さんがデザイン画を描き、それを基にして生み出されているので、形が地球のものに近い。
つまり、この世界の基準でいくと、かなり大胆ってことになる。
「……はっ!? 思わず意識が消失しておりました。リュートさんに引き続き、こちらもオーダーメイドの水着のようだ! しかし、その中身は圧倒的っ!! これはまさに王者の風格。そのお姿は、王族しか口にできない幻の果物、メローンのごとし!!! 詰まっているのは人類の希望か、あるいは夢か……」
固まっていた司会者が意識を取り戻し、その声を受けながら真白は中央に進む。そこでクルリと回転した時、また司会の男性は言葉を失ってしまった。
遠心力とか慣性とか、実に解りやすい形で働くもんな。
まろやかさんが目立っているとはいえ、真白は全体的にスタイルがいいんだし、もっとそっちを見てやって欲しい。でも、この調子だと無理っぽいか……
「し、失礼しました。これはまさにロマン、ここにはロマンが詰まっています。見てください、観客の若い女性たちが一斉に拝み始めました。この会場に降臨したのは、神!! おっぱいの神様、おっぱい神様です。私の語彙もだんだん危うくなってきました。このままでは、おっぱいとしか言えなくなりそうです。おっぱい」
中央で両手を前に出してヒラヒラ振っていると、女性たちが一心不乱に拝みだした。男性たちも鼻の下を伸ばしてるが、真白は俺の嫁だぞ。そもそもハッピの集団は、リュートファンじゃなかったのか。
鞍替えが早すぎる!
◇◆◇
こうして水着審査が終了した。
もちろん真白が他を圧倒していたのは言うまでもない。
シタル フルス ラナー リュート 真白
加算点 15 20 5 10 25
合計 81 89 96 90 94
「これは予想を覆すまさかの大接戦。最後の審査結果次第で、誰もがトップを狙えます! それでは、配偶者や交際相手の方、ステージへお上がりください」
参加資格に必ずカップルで参加するよう注意書きがあったのは、一緒に何かをやる審査のためか。
ステージに上って真白の隣に立つと、嬉しそうに腕にしがみついてくる。ここまで頑張ってくれたんだから、ぜひとも優勝を狙いたい。なにせ来年以降は参加できないからな。
「最後は二人が仲のいい所を、会場の皆さんに見ていただきます。どんな方法でも構いませんので、わかり易い言葉や態度でアピールしてください!」
この課題だと、耳元で囁く技は使えないな。そもそもあれは年上限定の切り札だから、真白に対して効果は薄い。
「おっと、まず動いたのはシタルさんの旦那だ。新婚カップルは一体どんな愛をささやくのか!?」
「今夜は寝かさないぜ!」
「バッ、バカヤロウ! 昼間っから人前でなに言ってやがるっ!!」
――バキッ!!
「顔を赤くしたシタルさんが、自分の旦那をパンチでぶっ飛ばした! キリモミしながら会場の外まで飛んでいったが、果たして大丈夫なのか? 衛生兵ー、衛生兵をはやくっ!!」
担架を持った救護班が男性を回収している時、動いたのがフルスさん夫婦だった。鬼人族は男女の体格差がものすごいので、どうしても大人が少女を相手にしているように見えてしまう。
「三人目を作ろう!」
「がっ、頑張ります」
「まさかの子作り宣言! 尊い、これは尊いっ!! さすがに熟練夫婦は言うことが、ひと味もふた味も違います。はたして他の参加者は、この二人を超えられるのかー」
子ども達も大勢見ている場で言うのは教育に悪い気もするけど、会場の反応を見る限り問題ないようだ。シタルさん夫婦といい、赤裸々すぎるように思うけど、地球とは違う感性なんだろう。
「早く一人前になって、ラナーちゃんを幸せにするよ」
「うん、二人で頑張ろうね」
「やはりラナーさんのカップルは初々しい! まるで心が浄化されるようだ。
……おや? 観客席で地団駄を踏んでるのは、ラナーさんの父親ですね。二人の結婚に納得したんじゃなかったのかー? 往生際が悪いぞー、娘の幸せを考えてやれー」
ハンカチを噛み締めた男性が、ステージに向けて敵意を放っており、それを司会者がディスりだした。
真白がこっそり教えてくれた話によると、司会者の男性は交際相手のお兄さんらしい。弟の恋を応援してるってわけか。
親父さんの気持ちはわからなくもないけど、ステージにいる二人は幸せそうにしてるし、静かに見守ってあげるのがいいと思うぞ。
「あなたはわたくしが守って差し上げますから、安心してついてらっしゃい」
「うん、僕、リュートちゃんと結婚するの、楽しみにしてるからね」
「リュートさんは相変わらずオトコマエだぁ! 年下の許嫁をグイグイ引っ張っていく姿ッ、そこにシビれる! あこがれるゥ! 二人の愛は私にも伝わってきたぞーっ!!」
幼さを残している少年だと思ってたら、まだ十四歳らしい。もうじき誕生季なので、成人と同時に結婚するそうだ。ずっと残念令嬢扱いしてたけど、もうやめることにしよう。
なんだかんだでリュートさんは、かなりいい奥さんになるんじゃないだろうか。
「真白、優勝を取りに行くぞ」
「もちろんだよ!」
真白に小声でそう伝えた後、ひざ裏と背中に手を回してお姫様抱っこをする。
その瞬間、会場がどよめいた。
「俺たちは決して解けない絆で結ばれた夫婦だ、それだけは世界中の誰にも負けない自信がある。これから歩んでいく道は、様々な苦難が待ち受けてると思う。でもお前とライムがいれば、絶対に乗り越えられる」
「生まれた瞬間から二人は繋がってたんだもん、どんな障害にだって打ち勝ってみせるよ」
「誰に何と言われても、一生お前を離す気はない。これからも付いてきてくれるか?」
「そんなの当然だよっ! だって私の幸せは、ここにしか無いんだから」
俺たちはお互いを見つめ合い、そのままゆっくりと近づいていく。
その距離がゼロになると、ざわついていた会場がしんと静まり返った――
「なっ、なんてことだ……伝説のお姫様抱っこキスが炸裂するとは、我々の予想を遥かに飛び越えてしまったぞ!? これは倍率ドン! さらに倍だぁぁぁぁぁッ!! 会場の女性たちはスタンディングオベーションを始め、男たちは失意の体前屈で全員が崩れ落ちるゥーッ!!! 眩しい、二人の姿が眩しすぎて見ていられないーーー」
◇◆◇
こうして良妻賢母コンテストは俺たちが優勝し、干し貝柱一年分を手に入れることができた。今年のコンテストは例年以上に盛り上がったと、実行委員会から感謝状まで貰っている。
ちょっと色々やりすぎた気もするけど、いい思い出にはなったと思う。あれから真白の機嫌は上限に張り付いたままだし、兄としては嬉しい限りだ。
ちなみに特別賞は、王族の果物メローンだった。
形といい味といい地球のものとほぼ一緒で、とても美味しくいただきましたとさ、どっとはらい。
コンテスト編は、これにて終了です!
会場にいる人達は二人が兄妹だと知りませんから、言いたい放題ですね(笑)
◇◆◇
次回のエピソードは、ベルの悩みをみんなで解決しようと暴走する、そんなお話です。
ぼちぼち書いてますので、来週くらいに公開できるかもしれません。
お楽しみに!