コンテスト編 第3話「決勝戦その2」
設定資料は更新しませんが、コンテスト出場者の名前由来。
シタル:犬人族で背が高い【シタール:インドの弦楽器】
フルス:鬼人族で胸が大きい【中国のひょうたん笛】
ラナー:パン屋の娘の人族で優勝候補【ラナー・エー:タイの木琴】
リュート:商家の娘の人族でお嬢様【ヨーロッパの撥弦楽器】
第二回の審査が終わり、体力勝負の結果が出た。
一位は圧倒的速さで優勝をもぎ取った、犬人族のシタルさん。
二位が力強い走りと揺れる二つの果実で観客を魅了した、鬼人族のフルスさん。
三位に入ったのはパン屋で鍛えた体力が物を言った、人族のラナーさん。
四位だったのが、足場の悪さで実力を発揮できなかった真白。
五位はもちろん、数字に強いが体力のない残念令嬢こと、途中棄権のリュートさんだ。
ここまでの結果で、総合得点が以下のように変化した。
シタル フルス ラナー リュート 真白
加算点 25 20 15 5 10
合計 31 29 36 25 29
同点二位に踏みとどまっているものの、一位との点差は開いている。
しかしまだ前半戦、良妻賢母と言うからにはアレも審査するはずだし、逆転の可能性は十分あるだろう。
◇◆◇
知力・体力ときて、三番目の審査は〝時の運〟だ。
なんかテレビのクイズ番組みたいだけど、本当にここは異世界か?
伏せられたカードを選んで、その内容に答えたり指示に従ったりする形式で、審査が進んでいった。
残念ながら真白の引きがとてつもなく悪く、ここで最下位になってしまう。
シタル フルス ラナー リュート 真白
加算点 20 10 15 25 5
合計 51 39 51 50 34
強さを見せたのが、リュートさんとシタルさんだ。
彼女の称号は、数字に強いが体力のない豪運残念令嬢に変更された。
◇◆◇
続いて四番目になる審査は、今の王国で広く普及している、慣習に関する問題。
異世界人の真白は圧倒的に不利だ。
予想通り四位になってしまった。
シタルさんには勝ったけどな!
そしてここまでの結果がこれ。
シタル フルス ラナー リュート 真白
加算点 5 15 20 25 10
合計 56 54 71 75 44
社交界を経験しているリュートさんと、お店で働いてるラナーさんは強かった。
「かーさんだいじょうぶかな?」
「恐らく次くらいに料理勝負があるだろうし、まだ水着審査を残してるから、きっと逆転してくれるぞ」
「りょうりだったら、かーさんはむてきだね!」
今日はコールの美味しい水を使えないハンデはあるが、真白ならきっと大丈夫だろう。そう思いながらステージで待機している真白に大きく手を振ると、自信に満ちた顔で応えてくれた。
あの様子だったら平気だな。
◇◆◇
「次は毎年恒例、自慢の一品勝負です。皆さんが得意な料理を一つ作り、それを審査員が食べて評価する、スタンダードな競技。朝市で扱っている食材や果物、それに調味料はすべて用意していますので、思う存分その腕をふるって下さい!」
ステージの横に食材が積み上げられており、参加者たちはそれに群がる。今日の朝市がいつもより閑散としていたのは、こっちに回す材料を確保していたからなんだろう。
肉や魚介類そして果物、もちろん香辛料も豊富だ。
「シタル選手が持ち帰ったのは肉の塊! 食べごたえのありそうな料理ができる予感がします」
シタルさんはテーブルの上に大きな肉の塊を置いて、香辛料らしきものを振りかけている。何となくワイルドな料理ができそうだ。
「フルス選手は肉と野菜をバランスよく持ち帰っているようです。参加者の中で婚姻期間が最も長いだけに、料理の腕にも期待ができます!」
彼女は子供を二人も育ててるし、料理もしっかり出来るに違いない。応援している息子さんは、二人とも健康そうだからな。
「ラナー選手はパンを持ち帰ってますね。他には葉物野菜とハムが目立つでしょうか。美味しいパン料理に期待しましょう!」
きっとサンドイッチか、それに似た料理を作るに違いない。マヨネーズの材料になる卵は選んでないみたいだから、どんな味付けにするのか興味がある。
「リュート選手の机に乗っているのは、全て果物だ。大丈夫か? これは料理勝負であって、スイーツを作る競技じゃないぞー!」
「あなたは黙って見てらっしゃいませ、私が完璧な栄養食を作ってご覧に入れますわ!」
ビタミンや繊維質は豊富に取れそうだけど、タンパク質や脂質が圧倒的に足りない気もする……
体系化された栄養学はこの世界に無いみたいだし、結婚相手の健康はだいじょうぶだろうか。まぁ家柄的に使用人を雇うんだろうし、問題ないな。うん。
「注目のマシロ選手ですが、選んだ材料が異常に多い。肉と様々な野菜、それに魚まで並び、さらに驚くべきは二十種類以上ある香辛料の数々だー! この材料で一体どんな料理が生み出されるのか、私には想像すらできません。期待して待ちましょう!!」
真白のテーブルを見ると、パンをすり下ろしている。制限時間内にカレーを作るのは難しそうだから、味付きの衣を使った揚げ物だろう。パン粉はまだまだこの世界に普及していないから、きっと驚かれるに違いない。
◇◆◇
それぞれの料理ができあがり、試食が開始された。
シタルさんが作ったのは、香辛料をまぶした肉の塊を焼いたもの。
実に漢らしい料理だった。
あれを料理と言っていいのか、わからないが……
味付けは結構良かったらしく、若い男性審査員にそこそこ好評という結果を残している。
フルスさんの料理は〝ザ・家庭料理〟と呼べるものだ。
見た感じすごく美味しそうだったけど、煮込み料理は炎天下の会場で不利だったように思う。
ラナーさんは予想通り、サンドイッチを作っていた。
彩りもよく切り方も丁寧で、女性を中心に好評を得ている。
リュートさんの料理は、ドロッとした緑の液体だった。
果物しか選んでなかったのに、どうしてあの色が出せたのか謎だ。
口にしなくてもわかる、あれは絶対に青汁の味がする。
高齢の男性が一人だけ気に入って、聞き覚えのあるセリフでお代わりを要求していた。
「いよいよ今コンテストの注目株、マシロさんの料理を試食していただきます。他の方に比べて茶色く地味な料理ですが、説明をお願いしていいですか?」
「すり下ろしたパンを衣にして、調合したカレースパイスで味をつけた、串揚げの盛り合わせです。お好みで横に添えてあるソースを付けて、お召し上がり下さい」
色合いが地味だからと侮ってはいけない。
どんな材料でも挿して揚げれば旨くなる、無限の可能性を秘めた料理だからな。
ちなみに、ソースの二度漬けは禁止だ!
「とーさん、おいしそうだね!」
「また家で串揚げパーティーをしような」
「……審査員の方、どなたかコメントをお願いします」
様々な具材を揚げているので、どんな違いがあるのか気になって、止められないんだろう。みんな次から次へと串を手に取り、黙々と口に運んでいる。
「今、俺の口の中で革命がおこっている」
「肉と手を取り合い、野菜を優しく包み込み、魚すら従えるこのスパイスは何だ!?」
「絶妙なバランスでブレンドされたスパイスは、まさしくハーモニー! これは真夏の音楽会だ」
「サクッとした衣のおかげで油っぽさを感じず、何本でも食べられそうよ」
「夏に向けてダイエットしていたのに手が止まらない。悔しい、でも掴んじゃう!」
「あの……その料理、私にも食べさせてもらえないでしょうか?」
審査員たちのリアクションが気になったらしく、司会の男性がそっと手を差し出す。
真白は余分に揚げていたものを皿へ盛り、ソースと一緒に手渡していた。
司会の男性はそのうち一本を手に取り、恐る恐る持ち上げる。
「こっ、これはっ!?」
口に入れた瞬間カッと目を大きく見開き、両手で八本の串を掴み取ると、瞬きすら忘れて食べ始めた。そのままだとドライアイになるぞ。
皿に乗っていた串揚げを全て食べ終えたあと、力いっぱい握りしめた両手を曲げて脇を締める。そしてお辞儀するように上半身を曲げると、そのままプルプルと痙攣し……
「うーぅーまーぁーいーぃーぞーぉーーーーーっ!!!」
ガバッと上半身を起こして天を見上げ、口から怪光線を発射。
あの痙攣は、いわゆるタメ動作というやつだったようだ。
審査員席の方を見ると、頭から噴煙を上げてる人や、背中からタコの足に似た触手を出してる人までいる。
串揚げは人間をやめてしまうほどの、ポテンシャルを秘めた料理だったといのか!?
会場は大混乱してるけど、これ誰が収拾つけるんだろう……
次回はいよいよ水着審査です。
そして主人公も巻き込まれる最後のコンテスト内容とは!?
明日更新予定なのでお楽しみに!