コンテスト編 第1話「予選」
番外編第2弾です!
本編と違い、異世界人もカタカナ英語を使いまくります。
「お兄ちゃんのは今朝も元気だなー」
「とーさんのすごく大きくなってるよ」
「この反り返り方と長さは、ちょっと反則だね」
「黒くておいしそう!」
「あっ、ライムちゃん。そっちは触っちゃダメだよ」
「どうやって持ったらいいの?」
「このくびれた所をそっと握って、優しく引っ張ってあげて」
「あっ! とれたよ、かーさん」
「さすがライムちゃんは上手だね!」
買い物の準備ができたので真白とライムを探していたら、裏庭に作った畑で作業していた。ちょうどキュウリに似た形の野菜を収穫していたようだ。
色と食感はナスっぽいのに、表面にキュウリのような棘がある野菜で、炒めても煮ても美味しい。
「もう出かけられるけど、どうする?」
「あっ、お兄ちゃん! この野菜を採り終わったら、いつでも行けるよ」
「とーさん見て! すごく長くて太くてまっ黒なのがとれた」
こっちへ持ってきてくれたカゴには色とりどりの収穫物が収められており、その中でも一番目立つのはライムが収穫していた野菜だ。
いくつかの区画に分けて、家族全員で色々なものを植えたが、それらが次々収穫の時期を迎えている。聖域の力があるため、どの野菜も市場に出回っているものより一回り以上大きい。
俺が植えたナスに似てる野菜も、立派な姿に成長していた。
さすがにこのサイズには勝てないな。
どこ、とは言わないが……
「お兄ちゃん、大切なのは相性だよ!」
何を言ってるんだ、俺の妹様は。
「このおやさいは、日の光があたると、しぼんじゃうんだよ」
「中の水分が抜けてしまうんだろうな」
「朝になったら元気になるんだけどね!」
人と話す時はちゃんと相手の目を見るんだ、視線を下げるんじゃない。
父さんと母さんがこの世界に来てから、真白のリミッターが徐々に外れてる気がする。別に困ったことにはなってないし、本人もわざとからかってるフシがあるので、とやかく言うこともないだろう。
こんな風に気のおけない会話が出来るのは真白くらいだし、何だかんだで俺も楽しんでるしな。
「とにかく野菜はイコとライザに預けて、そろそろ出発しよう」
「そうだね、朝市が始まっちゃうもんね」
今日は夫婦と子供の三人だけで、朝市に行く日だ。
変な方向へ話が盛り上がる前に、移動を開始しよう。
収穫した野菜を厨房に運んだ後、チェトレの街へ転移門を開いた。
◇◆◇
街に行くといつもと様子が違う。
ステージのようなものが浜辺に作られ、周囲では屋台の準備も進められている。
「今日はイベントでもあるのか?」
「スファレおねーちゃんの里でやったような、おまつりかな」
「う~ん、よく行く露店のおじさんに聞いてみようか」
すぐ近くにある朝市の会場も普段と違い、露店の数がかなり少ない。これは屋台の方に人手を回してるからだろうか。
通りを歩いている人からは「今年は誰が優勝するかな」とか、「私も参加してみようかしら」なんて声が聞こえるし、何かのコンテストでも開催されるんだろう。
他の家族も誘ってやりたいけど、みんなそれぞれ予定を決めていた。それに、今日は真白とライムがずっと楽しみにしてた、三人だけのお出かけ日だ。
折角だし、このまま見学して行くか……
「おじちゃん、こんにちは!」
「おっ、ライムちゃんとマシロちゃんに、今日は旦那もいるのか。いい果物が入ったから、ぜひ買っていってくれ」
食後のデザートやおやつで口にする機会の多い、南国フルーツを取り扱ってる露店に行く。今日も瑞々しくて美味しそうなものが、大量に並んでいる。
しかし、俺の名前は全然覚えてもらえないな……
誰と買い物に来ても、どの露店に行っても、旦那としか言われたことがない。
そういえば地球にいたころも、店の人に〝真白ちゃんのお兄ちゃん〟って言われてたな。
……まさか、これはパートナーの付属品として扱われる呪い!?
って、そんなことあるわけ無いか。
俺がくだらないことを考えてる間に、真白とライムは次々果物を買っていく。
「今日は何かイベントがあるんですか?」
「マシロちゃんもそれに参加しに来たんじゃないのか?」
「えっと、さっきここに来たばかりで、何があるのか知らないんですよ」
「今日は年に一度開催される、良妻賢母コンテストの日だ。マシロちゃんが出たら、優勝間違いなしだと思うぜ!」
店のおじさんが渡してくれたチラシを見ると、参加資格は既婚未婚問わず、交際相手のいる女性ならオッケーらしい。まず予選があって、そこで五人に絞られる。その後に本戦が開始されるけど、何で競うかは直前まで秘密のようだ。
変に対策されたら興ざめだもんな。
ただ、水着審査があることだけ、明記されていた。
そろそろ海水浴客が押し寄せる時期になるし、今日も泳げそうなほど気温が高い。お約束のように組み込まれているのは、どこの世界でも変わらないようだ。
「お兄ちゃん、私参加する!」
「真白なら参加資格はあるけど、えらく気合が入ってるな」
「だってお兄ちゃん、ここ見てよ。ほら、優勝賞品のとこ」
「どれどれ……〝なお、優勝者には干し貝柱一年分を進呈します〟。
よし、頑張ってこい、真白!」
新鮮な貝柱を揚げたり焼いたりしても美味しいが、干物にはまた違った旨さがある。しかも保存の効く加工品は、貴族などの富裕層が買い占めるため、市場へ出回りにくい。
一年分が一体どの程度の量なのかわからないけど、ゲットするためなら俺はどんな協力でもしよう。応援するくらいしかできないが!
「かーさん、それっておいしいの?」
「干し貝柱で作ったスープなんかは、旨味が凝縮されてほっぺたが落ちそうなくらいだよ!」
「炊き込みご飯を作れないのが残念だ」
「たくさん手に入ったら、シュウマイみたいなの作ってあげるからね」
「絶対優勝しような、真白」
「もちろんだよ、お兄ちゃん」
ちょっと営業妨害になりそうなくらい店の前で盛り上がったあと、真白は受付へ向かっていった。俺とライムはステージの方に移動し、コンテストが始まるのを待つ。
見物客もかなり多く、街を挙げての一大イベントだというのが良くわかる。
審査員席に座っているのは、年齢や種族がバラバラの男女四人ずつだ。家族全員を連れてくれば、優勝の確率は大いに上昇すると思うけど、さすがに全員俺の嫁と言ったらドン引きされるだろう。
スファレやケーナが参加したら、男性審査員は虜にできそうだけどな!
◇◆◇
司会の若い男性がステージへ登場し、開会の挨拶が始まった。
予選は全員がステージに立ち、質疑応答の形で自己紹介とアピールをしていく。その後、会場から選ばれた一般審査員の投票で上位五人が決められ、本戦へと進む。
今回の参加者は五十人ほどだから、倍率十倍の狭き門になる。
腰に丸いナンバープレートをつけた女性たちが並んでいるが、真白のエントリーは遅かったので、立っている場所は最後の方だ。
並んでいる女性たちは鬼人族や獣人族と種族も様々で、中には熟練の域に達した人も参加していた。優勝賞品が干し貝柱だもんな、あれの素晴らしさを知っているということは、経験値も相当高いんだろう。
「次は四十八番の方、ステージの中央へどうぞー」
「かーさんのばんだね」
「ちょっと緊張してるみたいだし、手を振ってやろう」
肩車をしたライムと手を振ると、それに気づいた真白がニコリと微笑んでくれる。その姿を見た会場の男性たちのボルテージが、一気に上昇した。
微笑みかけたのはお前たちじゃないぞ、俺とライムに対してだ。
人妻を口説こうとするんじゃない!
「まずはお名前と年齢、それに出身地をお願いします」
「王都から観光でこの街に来た真白といいます。十七歳です」
「かなりお若いですね。恋人と旅行ですか?」
「おに……夫と娘の三人で、朝市を見に来ました」
お兄ちゃんと言いそうになったけど、何とか修正できたな。会場のあちこちから上がってる野太い声は、恐らく露店の店主たちだろう。毎回大量に買っていくし、食材の話題で話し込むことも多いから、こっちの世界でも相変わらずの人気っぷりだ。
「おっと会場は盛り上がってるようだー! 後ろの方で緑の髪をした、可愛い少女が手を振ってますね。変わったアクセサリーの付いた帽子をかぶってますが、彼女がお子さんかな?」
「はい、あの子が娘で、肩車しているのが夫です」
「十七歳であんな大きな子供がいるのは、司会の私もちょっとドキドキしてしまうけど、野暮なことに突っ込まないのが大会ルール! 次は自分の得意なことや、大事なものを教えて下さい」
「得意なのは料理で、夫と娘が世界で一番大切です!」
「このコンテストにふさわしい、熱々なコメント頂きましたー! マシロさんは飛び入り参加と、手元の資料に載っていますが、ダークホースと言ってもいいでしょう。十六回目となるこのコンテストを大いに盛り上げてくれる、期待の新人だーっ!!」
「ライムかわいいって言ってもらえたよ、とーさん」
「良かったなライム。父さんも世界で一番可愛いと思ってるぞ」
上機嫌のライムと一緒に真白の様子を見つめる。
その後もいくつか質問を受けていたが、会場の反応もかなり良かったので、予選突破の可能性は高いだろう。
干し貝柱のために頑張ってくれ!
こちらは全4回でお送りします。
明日の更新「決勝戦その1」をお楽しみに!