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ケーナとお出かけ編 第3話「熱愛宣言」

 セミの街に墓参りに来た俺たちは、貴族の息子に絡まれてしまった。なんでも俺はリコを人質にとってケーナさんを誘拐し、無理やり言うことを聞かせている凶悪犯らしい。


 王国認定冒険者カードを提示して、貴族の親と息子を黙らせることに成功したものの、こんな噂を流されたままでは迷惑だ。それを払拭するため、二人で街一番の食堂へやってきた。



美姫(びき)とか難攻不落とか、ケーナさんも色々言われてるんだな」


「すごく迷惑なので、やめてほしいです……」


「悪い意味じゃない二つ名なんて、放っておけばいいさ。俺も王都では色々言われてるけど、気にするだけ無駄だよ」



 ちょっと頬を膨らませているケーナさんは可愛い。

 カウンター席の隣りに座っている彼女の頭を撫でていると、徐々に機嫌が直ってきた。


 ほらそこ、皿は食べ物じゃないぞ。



「リュウセイさんの二つ名って、片方は私が原因ですよね?」


「それは気にしなくても大丈夫だ。アレを言い出したのは時々一緒に仕事をする、紫晶(ししょう)商会の従業員みたいだしな。みんないい人ばかりだから、ケーナさんに迷惑はかかってないだろ?」


「迷惑どころか、私の耳にも入ってきた頃から、お店や街で口説かれることが少なくなって、逆に助かってるくらいです」


「それでケーナさんが穏やかに生活できるなら、俺の二つ名なんて安いものだよ」


「リュウセイさんって、やっぱり優しいです」



 カウンター席は肩が触れ合うほど席の間隔が狭いので、ケーナさんは幸せそうな顔でそっと頭を乗せてくる。


 さっきからすごい勢いでナイフを動かしてる人。親の(かたき)みたいにステーキを切り刻んだら、肉汁が逃げてもったいない。



「アンタたちに負けない熱々の料理だよ! ゆっくり食べな」



 お店のおばちゃんがカウンター越しに、グラタンとよく似てる料理を置いてくれた。セミの街はパンが有名なので、この料理にも具材として利用されている。パンとホワイトソースの焼けた香ばしい匂いが食欲をそそり、野菜も入ってボリューム満点だ。


 スプーンですくって十分さました後、そのままケーナさんの前に持っていく。



「ケーナさん、あ~んをしてくれ」


「えっ、えっ!? あのっ、お店にいるみなさんに凄く見られてるんですが……」


「こうやって仲の良さを見せつければ、誘拐されたなんてツマラナイことを言う人はいなくなるだろ? 以前もこうして食べさせたことがあるんだし、ここは素直に受け入れてくれると嬉しい」


「そ、そうかも知れませんけどぉ……」


「もちろんケーナさんも、俺に食べさせてくれるよな?」


「うぅ~、今日のリュウセイさんは大胆すぎます」



 なんだかんだ言っても実は嬉しかったらしく、食べさせ合いをしているうちにケーナさんもノリノリになってきた。徐々に二人だけの世界が構築されていき、他人の目が全く気にならなくなる。


 奥の方で血の涙を流している人がいるけど、出血多量で倒れたりしないだろうか?

 治癒魔法で血液は増えないから気をつけろよ。



「口元にソースが付いてるから、動かないでくれ」



 テーブルの上に取り出しておいて布巾でそっと拭うと、頬を染めながら微笑んでくれる。これは永久保存したいくらいの素晴らしい表情だ。


 同じカウンターに座ってる人。ケーナさんに見惚(みと)れるのはいいけど、口からスープがこぼれてるぞ。

 みっともないから早く飲み込んだ方がいい。



「リュウセイさんも頬にパンくずが付いてますよ」


「えっ、どこだ?」


「うふふ、反対側です。そのまま動かないでくださいね」



 ケーナさんは俺の頭を両手で固定し、スッと顔を近づけてパンくずを食べてしまった。頬に当たった感触は、最高の柔らかさだったとだけ言っておく。


 その瞬間、店内にいた男性客が、全員テーブルに突っ伏す。

 これで全ての敵を倒したし、ミッションコンプリートだ!



◇◆◇



 じっくりたっぷり時間をかけて昼食をとった後、お店のおばちゃんに凄くいい笑顔で送り出された。思い返してみればやりすぎ感もあるが、後悔も反省もしていない。


 失意の体前屈で石畳に沈んでいく通行人たちを横目に見ながら、食後の運動も兼ねてセミの街を散歩する。その後はアージンへ転移だ。


 早上がりのクラリネさんと、お茶の約束をしているらしい。以前ここで出会ってから、頻繁に手紙のやり取りをするようになり、会う日を取り決めていたそうだ。


 今回は俺も一緒がいいと言われたので、付き合うことに。


 お店の裏側がオープンテラスになっている喫茶店に入って、それぞれ紅茶とお茶請けを注文する。



「ダンジョンの方は問題ないか?」


「あれからダンジョンでしか採取できない薬草が生えるようになりましたので、初心者の方に大人気です」


「何かあればすぐ飛んでくるから、遠慮なく連絡してくれ」



 黒い思念体の男が出していた邪気は、真白によって完全に浄化されたけど、ダンジョン内では何があるかわからないからな。時々様子を見に来るようにしているとはいえ、今のところトラブル無しということがわかって安心した。



「ケーナは少し疲れてるみたいですが、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ。ちょっと自分の年齢も考えずに、ハメを外しちゃったなって、一人反省会してるだけだから」


「ケーナさんはまだ若いんだから、あれくらいで音を上げてたらダメだぞ」


「うぅー、今日のリュウセイさんは過激すぎます」


「あの……他人の()活に口を挟むのは(はばか)られるのですが、まだ明るいうちから励むのは程々にされたほうが」



 ちょっとまってくれ、頬を染めながら何を想像してるんだ、クラリネさんは。今まで見たことない表情なので、かなりドキッとしてしまったけど、いかがわしい事なんてまだやってないぞ!



「リュウセイさん、なにクラリネを見つめてるんですか。ダメですよ彼女は。ちゃんと好きな人がいるんですから」


「エルフ族を見ても動じる様子がなかったけど、やっぱり心に決めた人がいたんだな……」


「どう? あれから少しは進展した?」


「あっ、いえ、その……えっと」



 今日はクラリネさんのレアな表情が見られる日だ。

 顔を真っ赤にして手をモジモジさせながら下を向く姿は、なんか可愛い。



「リューゥーセーイーさぁーん?」


「いや、これは見惚(みと)れてるんじゃなく、珍しい姿を見て驚いてるだけだ」


「もー、すぐ頭を撫でてごまかそうとするんですから」



 幼馴染が近くにいるせいか、ケーナさんの喋り方が砕けていて、いつもと違う魅力がある。それでついつい手が出てしまったが、変に受け取られてしまったな。でも、凄く嬉しそうだし、もう少し頭を撫でよう。



「ケーナのそんな姿、初めて見ました。それに私より三つも下なんですから、少しくらいハメを外したって大丈夫です。とはいっても、ただれた関係はダメですよ」


「クラリネはそろそろ、そっちの思考から離れて!」



 まったくだ。

 自分の恋愛もうまくいってるみたいだし、ちょっと思考がピンク色に染まってるんじゃないか?


 それにしても、シエナさんと同い年とは思わなかった。二人の姿を並べてみたけど、あまりの違いに脳がショートしそうになる。


 運ばれてきた紅茶を飲んで一息入れてから、セミで墓参りをしてきたことや、貴族に絡まれたことを話していく。



「なる程、それは厄介な人たちに目をつけられましたね」


「王国認定冒険者カードを見せたから、もう大丈夫だとは思うけど、まだ何か言われるようならシェイキアさんに助けてもらうよ」


「その点に関しては、恐らく問題ないでしょう。あそこの息子さんは、王都の学院で問題を起こして退学させられてますし、これ以上騒ぎを起こせば最低でも廃嫡(はいちゃく)、下手すると父親も爵位剥奪です」



 なんでもあの息子は、同じ学院に通う女子生徒を襲おうとしたらしい。幸い未遂だったので、実家の力で示談にしたそうだが、息子は退学処分を受けた。


 そもそもあの家は、セミの街でもかなり評判が悪いそうだ。

 父親も全く話を聞かない人だったし、仕方ないだろう。



「良かったな、ケーナさん」


「はい、これもリュウセイさんのおかげです」



 そう言って俺の手をきゅっと握ってくれた。

 何だか今日半日で、これまで以上に距離が縮まって嬉しい。



「ケーナとリュウセイさん、よくお似合いですよ。幸せになってくださいね」


「ありがとう、クラリネ。

 さぁ、次はあなたの番よ!」


「そうだな、俺が聞いても構わないんだったら、詳しく話してもらおうか」


「はうっ!」



 自分は逃げようとしていたみたいだけど、そうはいかないぞ。

 キリキリ自白してもらおうじゃないか!



◇◆◇



 そんなわけで、紅茶のおかわりを二杯も飲んでから、アージンの街を後にした。今まで知らなかったクラリネさんの姿を、たくさん見ることができて満足だ。


 随分のろけられてしまったが、クラリネさんが好きな人はタンバリーさん( ギルド長 )。彼に対して妙に優しいところがあったのは、そうした想いを心に秘めていたからだとわかり、これまでの行為が全て納得できた。


 そんな気持ちは心の中に、ずっとしまっておくつもりだったらしい。しかし、ケーナさんが前を向いて歩き出そうとする姿を見て、勇気をもらったそうだ。親子ほど年が離れてるので、タンバリーさんは渋ったようだが、奥さんのほうがクラリネさんを気に入って、ゴールインできたんだとか。



「クラリネさん、幸せそうだったな」


「恋愛に奥手な子だったから心配してたけど、想いが実って良かった……」



 チェトレの海岸に立つ俺たちの前には、沈みゆく太陽が見えている。夕日に赤く染まったケーナさんの横顔は、ちょっと神秘的だ。



「ケーナさんのことは、俺が幸せにするよ」


「自分で言うのもなんですけど、私って結構面倒くさい女ですよ?」


「それをいうなら俺だって、王都で多妻(ハーレム)王なんて二つ名がついてる男だぞ」


「ふふふっ、そういえばそうでしたね」



 ケーナさんは俺の前に移動すると、こちらをじっと見つめてくる。その表情はとても落ち着いているように見えるけど、深い緑色の瞳は不安げに揺れていた。



「ケーナさんが旦那さんのことを忘れられないのは知ってる。俺はその気持ごと、貴女(あなた)を支えてあげたいと思ってる」


「わがままを言ってもいいですか?」


「大抵のことなら受け入れるから、なんでも話してくれ」


「私、今みたいな生活がすごく楽しいんです。リコちゃんと一緒にお店で働いて、お休みの日にはリュウセイさんたちの家へ遊びに行く。そして会えなかった時間の分だけ、思いっきり甘えるの」


「それは今のように、離れて暮らすってことだよな?」


「うん、ダメ……ですか?」


「俺たちが夫婦として生活していけるんなら、形にこだわったりしない。ただし、リコの気持ちはちゃんと聞いてやって欲しい」


「それは約束します」



 俺はケーナさんの両手を包み込むようにして、胸の前に持ち上げた。



「まだまだ未熟な俺だけど、リコの父親になってやりたい。そしてケーナさんを、ずっと見守っていきたい。この気持、受け取ってもらえないか?」


「これからの人生を、貴方(あなた)と一緒に生きていきたい。私の方こそ不束者(ふつつかもの)だけど、リュウセイさんの隣にずっと居させて」



 ポロポロと涙を流し始めたケーナさんを抱きしめ、落ち着くまで頭を撫で続ける。






 やがて長く伸びた影がお互いを見つめ合い、そして一つに重なった――


 本編のエピローグで語った別居の理由を書いてみたくなり、生み出されたのがこの話です。


 来週は真白がイベントに参加する話を更新予定。

 本編とは大幅に違うノリでお送りします!

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