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海水浴編 第8話「月明かりの海」

誤字報告ありがとうございました!

 楽しかった海水浴も終わり、サンザ王子一行とシンバの家族は帰っていった。ドラムも新しい地脈の淀みを探しに行くと、目立たないよう少し暗くなってから飛び立っている。いっぱい遊んでもらって話も十分できたので、俺とライムは大満足で見送ることができた。


 種族王たち四人は一晩だけ滞在することになり、一緒に来た妖精たちも何人か宿泊を希望。やはり俺の頭の上が居心地いいらしく、ちょっとした争奪戦が巻きおこったのは余談だ。お風呂場にも乱入されそうになったので、全力でお断りしている。



「夜ってあんまり外に出たことないから、ちょっと新鮮」


「夜のひとり歩きは、親父さんが心配するだろ?」


「そうなんだよ、お父さんてちょっと過保護なんだー」



 今日は海から上がってすぐお風呂に入ってるので、夕食後に全員でダラダラ過ごしていた。そんな時にシロフから散歩に誘われ、暗くなった海岸を二人で歩いている。涼しくなってきた風が頬をなでて気持ちがいい。



「俺も娘を持つ身になって実感できたけど、口うるさくなってしまうのは仕方ないと思うぞ」


「まぁ、それはわかってるんだけどぉ……」


「特にシロフみたいに可愛い子なら、なおさら親父さんも心配するはずだ」


「えっ!? あの、私のこと可愛いって思ってるの?」



 隣を歩いていたシロフがピョンと前に飛び出してきて、振り返りながらこちらをじっと見つめてきた。地球より明るい月の光に照らされた顔は、少し赤くなってる気がする。


 出会った当時に十九歳だと言ってたから、今の彼女は二十一になっているはず。二年前より少し大人びた姿になっているものの、人好きする笑顔は当時のままだ。



「俺は初めて出会ったときから魅力ある人だと思ってるし、宿に来るお客さんも全員がそう思ってるんじゃないか?」


「確かに口説かれたりすることは多いけど、あれって社交辞令みたいなものでしょ?」



 いや、それ、絶対に本気のはず。

 普段から周りのそういった言動に(さら)されてる影響で、軽くスルーする癖が付いてしまってるのか?



「中にはそんな人もいたかもしれないけど、ほとんどの人は真剣に言ってたと思うぞ」


「う~ん、例えそうだったとしても、私より可愛かったり美人だったりする人って、いくらでも居ると思うんだけどな……」


「シロフだって十分可愛いじゃないか、もっと自信を持ったほうがいい」


「リュウセイ君の周りにいる女の人たちを見ちゃうと、自信なんて持てなくなるよ」



 風にのって「だって王家の血を引いた人までいるだもん……」という声が耳に届く。俺たちが遠泳に出ていた間、日除け小屋で女性だけのお茶会をしていたみたいだけど、その時ケーナのことを聞いたんだろう。


 それにしてもシロフは自己評価が低すぎる。

 彼女の魅力は容姿だけじゃないんだから、実にもったいない。



「俺はこの世界に来るまで、妹や母親以外の女性と世間話した経験がほぼなかったって、シロフには言ったことがあったか?」


「それ、初めて聞いたよ」


「そもそも友人と呼べる人なんて、数えるほどしかいなかったしな。そんな俺があれだけ色々なことを話せたのは、家族以外だとシロフが初めてなんだ」



 この世界に飛ばされて異世界の常識や生活の仕方がわからず、どうすればいいか困ってた時に助けてくれたのが、目の前にいるシロフだ。それがどれだけ有り難かったか、言葉では語り尽くせない。



「リュウセイ君にとって初めての存在になれたのなら、嬉しいよ」


「それだけ俺にとってシロフは特別な女性なんだ、そう思ってる人はきっと他にもたくさんいる」


「私はみんなに好かれるより、一人の人に愛してもらえたほうが幸せかな……」



 シロフは上目遣いで、こちらに一歩近づいてきた。こんなに男心を盛大にくすぐる仕草をしてくるなんて、昼間に言っていたことは本気なんだろうか。あのときは完全にその場の勢いだったと思ったのだが……


 さっきまで言ってたことは俺の本音だし、大切にしたい女性であることは確かだ。しかしいったん落ち着こう。なにかインターバルを置く手段を探さなければ。


 そうだ! 月明かりも十分だし海も()いでる、島の湾内だったら沖に出ても安全なはず。



「よければ俺のやりたいことに、ちょっとだけ付き合ってくれ」


「それは構わないけど、突然どうしたの?」


「昼間に出来なかったことがあって、少し残念に思ってたんだ」



 シロフを波打ち際まで連れていき、そこに小舟を取り出して浮かべた。二人ともサンダルを履いてるので、そのまま海に入る。



「夜の海ってちょっと冷たいね」


「もう大丈夫だから、船に乗ってくれ」



 ある程度の水深があるところまできたので、シロフの手をとって船に乗せた。そしてゆっくりと沖の方へ漕ぎ出していく。



「うわー、誰もいない夜の海に二人っきりって、なんだかすごくロマンチック……」



 向かい合わせに座ったシロフの顔が、どう見ても恋する乙女のようになっている。もしかしてこれは逆効果だったのか? 俺は選択肢を間違ってしまったのかもしれない。


 今さら撤回できないし、もうなるようにしかならない、腹をくくろう。



「俺も夜の海に出るのは初めてだけど、なかなか幻想的でいいものだな」


「リュウセイ君の初めて、またもらっちゃったね」



 くっ……今のそのセリフ、反則だぞ。

 そんな可愛い姿を見せられたら、俺の中に眠る年上フェチがうずく。


 何か気を逸らせるものを探すんだ、うなれ灰色の脳細胞!



「シロフ、山の方を見てくれないか」


「えっ!? どうしたの?」


「中腹の辺りに、光ってるものがあるだろ」


「あっホントだ、小さな光が動いてるよ。あれってなに?」


「森に住む妖精の中に、暗い場所で光る子がいるらしいんだ。きっとその子が散歩してるんだと思う」


「へー、妖精ってヴィオレさんやイコちゃんとライザちゃんしか見たことないけど、変わった子がいるんだね」


「ヴィオレも魔法を使うときは羽から燐光を出すんだけど、暗い場所だとキラキラ光って綺麗だぞ」



 明るい場所だと光を反射しているようにも見えるけど、周りが暗いとそれ自体が発光していると良く分かる。


 シンバに教えてもらった話だと、森で迷った旅人が暗闇に浮かぶ光を頼りに歩いていたら、いつの間にか外に出られたなんて逸話もあるそうだ。きっと森で暮らす妖精が助けてくれたんだろう。



「そういえば、リュウセイ君って妖精に人気あるよね」


「何が要因なのかわからないけど、俺の近くにいると落ち着くらしい」


「ヴィオレさんもリュウセイ君にべったりだもんね」


「彼女とは夫婦だからな」



 俺の言葉を聞いて、シロフの視線がわずかに落ちる。ベルの性別を知ってしまい、(いだ)いていた気持ちが散ってしまった彼女に、夫婦なんて言葉を出すべきじゃなかった。失敗した、やっぱり俺はデリカシーが足りない。



「すまない、シロフを落ち込ませるつもりはなかったんだ、許して欲しい」


「あっ、違う違う。今のは落ち込んでたんじゃないんだよ」



 シロフは両手のひらをこちらに向け、パタパタ振りながら否定してくれる。



「……でもリュウセイ君って、そんな顔もできたんだね」


「最近になって、自分の感情を表に出すのに慣れてきたからな」


「ウチの宿に泊まってくれてた頃は、何事にも動じないドッシリした人だなって思ってたけど、今のリュウセイ君はちょっと可愛かった」


「両親以外に可愛いなんて言われたのは初めてだ」


「えへへ、リュウセイ君の初めてを色々もらっちゃってるなぁー」



 久しぶりにこうして二人だけで話をしたけど、シロフとの会話は尽きることがない。それに肩の力を抜いて気兼ねなく話せる人と一緒なのは、やっぱり楽しいと再確認できた。いつから意識していたかわからないけど、俺は間違いなくこの女性のことが好きなんだろう。


 そうやって自分の気持ちを確かめると、俺の心に湧き上がってくる想いは、誰にも渡したくないという感情だ。



「ちなみに、家族以外の女性と二人だけで買い物したのも、シロフが初めてだからな」


「ライムちゃんは数に入らないの?」


「ライムは娘だし、まだまだ女の子だ」


「そっかぁ、私のことをちゃんと一人の女性として、見てくれてるんだ……」



 一緒にでかけたこと、同じテーブルで食事をしたこと、手と手が触れ合ってお互い気まずくなったこと……

 家族以外の女性と経験した初めてを、シロフにはたくさんもらっている。



「もし俺みたいに大勢の女性と付き合ってる男が嫌いじゃないなら、いま以上の関係を考えてもらえないか?」


「それは恋人として付き合ってみないかってこと?」


「当面は遠距離恋愛になってしまうけど、できるだけ会いに行くよ」


「こんなシチュエーションで言われたら、すごくドキドキするね」


「ベルの性別を知って落ち込んでるシロフに、付き合って欲しいなんて言うのは卑怯だってわかってる。でも、どうしてもいま、伝えたかった」


「あっ、ベルさんのことはもう割り切ってるんだよ、なんだか自分の中でもビックリするくらい納得できたし。好きだったのは確かだけど、ただの憧れみたいなものだって判ったから」



 そう言って、シロフは照れ笑いを浮かべた。改めて思い返してみたそうだけど、ベルに対する気持ちは演劇のイケメン俳優を見ているのと、同じような気持ちだったらしい。



「今すぐに答えは出せなくてもいいんだ。でも将来王都でお店を開いた時に、シロフが隣りにいてくれると嬉しい」


「あのさ、実はリュウセイ君って、会ったときからずっと気になる男の子だったんだ。だけどすぐマシロちゃんが来て、二人の間には入っていけないなって諦めたの」


「そうだったのか……」



 当時はいっぱいいっぱいで、そんな気持ちに全く気づけなかった。それに人付き合いに関しては、手探り状態だったときだ。とはいっても、いま同じ態度を取られて、それに気づけるかは微妙なところだが。



「お似合いの二人で親子仲もいいし、どんどん遠くに行っちゃうんだろうなって思ってた。でもね、それからも何度か会って、変わらない姿に安心した。恋人はどんどん増えてったけどね」


「共に幸せになりたい人が、たくさん出来てしまったからな」


「あんなに恋人がいたら、私のことなんて眼中にないと思ってたけど、おばあちゃんの事ですごく親身になってくれて、とっても嬉しかったの」


「それ以上のものをシロフにはもらってるし、大切な人の力になりたいと思うのは当然だ」



 そっと腰を上げたシロフが、姿勢を低くしながらこちらに近づいてくる。やがて触れ合いそうなくらい近くに来ると、潤んだ瞳でこちらを見上げてきた。



「あのね。私のことを可愛いと思ってくれてるなら、それを証明してみせて」



 そう言ってから、そっと目を閉じるシロフ。

 ここまでされたら、いくら俺でもわかる。


 月明かりが差し込むボートの上で、ついばむように唇を合わせた。



「……私の初めて、リュウセイ君にあげちゃった」






 はにかんだ笑顔を浮かべるシロフは、誰よりも綺麗だった――


 フラグを折らない男、それが赤井龍青!


 これにて海水浴編は終了です。

 嫁候補は増えましたけど、どこか別の世界線かもしれませんネ!(笑)


 プライベートで時間の確保が難しくなっているので、後日談の更新はいったん休止します。

(新作の構想とかもありまして……)


 シェイキアの過去編とか書いてみたいので、いつか公開できればいいなと思ってます。

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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~
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