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海水浴編 第7話「ビーチバレー」

 お昼のバーベキューを食べ終えたあと、ラッシュガードを着込んで靴に履き替える。クリムとアズルの三人で山の方に行き、ビーチバレーのネットを張るのに使うポール探しに行くためだ。


 頭の上に緑の精霊王(バンジオ)を乗せ、山へ向かってのんびり歩く。



「あるじさま、どれくらいの長さがいるのー?」


「俺の身長の倍くらいあればいいかな」


「何本必要なんですか?」


「コート二面分だから、四本あれば大丈夫だ」



 ビーチバレーで使うネットの高さは、二メートル四十センチくらいのはず。女性用はもっと低いから、家族の体型に合わせて二メートルでも良いくらいだろう。その場合は俺やコンガーが有利になってしまうけど、チームメンバーを工夫したりすればいい。


 ワンサイドゲームになるようなら、男はスパイク禁止にしてしまうのもありだ。なんといっても試合でなく、みんなで楽しむのが最重要だからな。



『どのような木を探しておるのだ?』


「ある程度強度があって、軽くて真っ直ぐな木があれば一番いい」


「畑を耕す時に使う道具についてる、(つか)みたいな木があればいいのかなー」


「そんなのがあれば一番使いやすそうだな」


「それならどんな木か知ってますから、私とクリムちゃんにお任せください」


「二人とも柄になる原木を知ってるのか?」


「村で暮らしてた時に、山まで取りに行ったことがあるんだよー」


「伊達に田舎出身ではないですよ、ご主人さま。どんな環境でも育つ木ですから、この山にもあるはずです」



 二人に来てもらったのは正解だったな。これならポールになる木も、すぐに見つけられるだろう。感謝の気持を込めて二人の頭を撫でると、嬉しそうに左右から抱きついてくる。


 クリムとアズルの二人と出会ったのは、旅の途中に寄った畜産業が盛んな村だった。冬の季節だったので、あと三ヶ月(135日)ほど経てば一緒に暮らし始めて二年だ。二人の誕生季(たんじょうき)も寒い頃なので、もう十四歳になるのか。


 猫人族はスレンダーな体型が特徴の種だけど、クリムとアズルからは女性らしさがしっかり伝わってくる。心身ともに伸び盛りの二人なので、結婚の約束をしている十五歳になった時には、一体どれくらい成長しているんだろう……



「ちょっと楽しみだな」


「何が楽しみなのー? あるじさま」


「〝びーちばれー〟というのは、そんなに楽しい遊びなんでしょうか?」


「ビーチバレーも楽しみだけど、今は別のことを考えてた。二人とも身長とか伸びてきてるだろ? 来年の誕生季になったら、どんな姿になってるのか想像してた」



 街を歩いている大人の猫人族を見ていると、チャイナドレスの似合いそうな女性が多い。もう少し成長した二人なら、きっと素晴らしい姿を見せてくれるはず。ちなみに俺はロング派だ。



「その頃にはきっと、ケーナちゃんくらい色っぽくなってるよー」


「胸だってマシロさんに負けないくらい、大きくなってるはずです」


「それは強敵になりそうだ」



 その時は真白とコールがお風呂でやっているという、謎のプレイが堪能できるだろうか。それを体験した家族は、みんな幸せそうにしているから、実は気になっている。もちろん結婚してからになるけど、二人が本当にそれだけの成長を遂げた暁には、謹んでお願いしてみよう。



◇◆◇



 クリムとアズルが言ったとおり、軽くて丈夫な木が山の中に自生していた。それを適当な長さでポールにし、砂浜に深く埋める。加工から穴掘りまで、全てバンジオがやってくれた。大地を司る緑の精霊王だけあって、こんなときは本当に頼りになる。


 コートは砂浜に適当に線を引いてるけど、遊びだからこれくらいで十分だろう。



「いくぞ、真白!」


「まかせて、お兄ちゃん」



 俺の上げたトスを、ジャンプした真白が相手コートに打ち込む。斜め後ろからでも大きく跳ねているのが良くわかるのは、さすが序列一位といったところだ。


 視線をコート外へ向けると、ダルバを膝に乗せて観戦していたシンバが、シャルマさんの肘鉄(ひじてつ)を食らっていた。普段は女性に性的な視線を向けることのない彼でも、たわわに実ったまろやかさんには勝てなかったか……



「させないわよ!」



 ベルの声に導かれて視線を戻すと、ちょうどブロックを決めたところだった。少しよそ見をしていたせいで完全に出遅れ、ボールは俺たちのコートに落ちてしまう。


 彼女は背が高くて運動神経もいいので、バレーに対する適性は抜群だ。これはうかうかしていると、足元をすくわれかねない。ちょっと気合を入れるか。



「今度はこちらの番です」



 コールがサーブを打ち、真白がそれを拾う。俺に向かって飛んでくるボールを見ながら、まだ披露していないテクニックを使うことに決めた。



「これならどうだ?」


「「あっ!?」」



 俺はトスを上げるふりをして、そのまま相手コートに押し込んだ。フェイントをかけられた二人は、なすすべなくボールを見送ってしまう。



「ナイスだよ! お兄ちゃん」


「やられたわね、コールちゃん」


「次は必ず追いつきます」


「ピルルー!」



 ポールの上に止まっているヴェルデも、鳴き声を上げて二人を応援している。守護獣の身体補助と動作支援を受けたコールなら、不意を突かれなければ簡単に打ち返せそうだ。


 しかし、バレーの真髄はこんなものじゃない。


 サーブ権を得た俺はコートから少し下がり、ボールを上空に放り投げると助走をつけてジャンプ。高い位置で打ち出されたボールがネットを超え、そのまま相手コートに突き刺さった。



「とーさん、かっこいい!」


「ん……さすがパパ!」


「いろんな(わざ)をしってるね、リュウセイお父さんは」


「……お兄ちゃん、すてき」



 可愛い娘たちの声援を受けると、やはり嬉しいものだ。王女様も混ざってるけど。


 バレー経験者の俺と真白がチームになり、実戦形式で様々なテクニックを披露している。今は初見なのでこうして簡単に決まってるけど、球速の遅いビーチボールだから次はないだろう。


 同じ日本出身の両親を相手にしたかったが、酔っぱらった父さんが別荘で眠ってしまい、母さんはその付き添いをやっている。


 彩子(あやこ)さんには、「お酒飲んだ後は動きとーない」と拒否された。女神だから酔わないだろうし、食べたものは全部どこかに消えるんじゃなかったのか?



「ビーチバレーというのは、なかなか奥が深いわね」


「でもすごく面白いですね、ベルさん」


「私たちもあっちのコートでやってみよ!」


「ん……実践で覚えるのが一番、やろうリコ」


「カリンおねーちゃんも、いっしょにいこ!」


「……ちょうせんしてみます」



 子供たち四人がネットの低いコートに走っていき、俺たちのマネをしてボールを打ち合いだす。ダルバの姿が見えないなと思ってたら、シンバの膝に座ったまま眠っていた。午前中いっぱい遊んだあとバーベキューをたくさん食べ、お腹いっぱいになって寝落ちしてしまったのか。



「ソラちゃーん、後で私たちもやってみようかぁ~」


「あっちの小さいコート、私とシエナもできる。チキュウの遊び、必ずマスターする」



 いつもはダラダラ過ごすのが好きなシエナも、ビーチバレーに興味を惹かれたようだ。怠惰の化身を動かすとは、さすが夏の海は素晴らしい。今度は二人っきりで水着デートも良いかもしれないな。水泳の素晴らしさを徹底的に教えてあげよう。



◇◆◇



 色々な組み合わせで遊んでみたけど、圧倒的に強いのがクリムとアズルのペアだ。双子というだけあって、まさに以心伝心。お互いの動きを補完しあってるので、全く隙がない。コンガーとヴァイオリさんのゴールデンチームですら、歯が立たなかった。


 そして最後のエキシビジョンマッチが開催されている。



「いくわよ、スファレちゃん!」


「いつでも来てよいのじゃ」



 広いコートを使って、小柄なメンバーが四人チームになった試合だ。スパイクなどの派手な攻撃は少ないものの、ラリーが長く続くことが多く白熱した試合が展開されていた。


 右のチームがシェイキア、シエナ、カリン王女、リコ。

 左のチームがスファレ、ライム、クレア、ダルバ。


 うまくバランスが取れた組み合わせなので、なかなか見応えがある。



「スファレちゃん、えいっ!」


「ナイスじゃ、ダルバ」


「これが決まったら私たちの負け、絶対に拾うよ!」


「まかせて、シェイキアちゃん」



 ダルバのレシーブをスファレがそのまま相手コートに打ち込み、リコが拾ってカリン王女の上げたトスをシェイキアがアタック。


 持ち前の身体能力でライムがボールに追いつき、クレアへつなげた後は再びラリーの応酬が始まる。


 シエナがちょっとお疲れ気味だけど、大丈夫だろうか。今は九対九の同点だし、デュースのないルールだから、決着はじきにつくだろう。最後まで頑張ってほしい。


 俺がそんな応援をしてる間も手に汗握る打ち合いが続いていたが、球速の遅いボールめがけて二人の姉妹が同時に動いた。



「クレアねーちゃん!」


「ん……これで、決める!!」



 ライムのトスをクレアがアタックすると、ボールがシエナに向かって飛んでいく。それを受けようと動いたシエナは、砂地のへこみに足を取られる。前のめりになった顔にボールが突き刺さり、頭から地面に突っ込んでしまう。



「大丈夫か、シエナ」



 慌ててシエナの近くに駆け寄って声をかけた。怪我はしてないと思うけど、派手にコケたからちょっと心配だ。最近はめったに転ばなくなったけど、今日は疲れが足腰に来ていたんだろう。



「……う、うわぁぁぁーん。口の中がザラザラするよぉ、ボールが当たった顔も痛いよぉ~」


「砂まみれになってるから、ちょっと体を触るぞ。口もゆすがないとダメだし、波打ち際の方に行こう」



 体についた砂を軽く払い落とし、そのまま抱っこして波打ち際に運ぶ。心配したカリン王女がついてきてくれた。本当に優しいな、この子は。



「……シエナ、へいきですか?」


「顔がヒリヒリするよぉ~」


「……マシロ様におしえてもらった、じゅもんをとなえてあげます」



 水で口をゆすぎ終わったシエナの頭に、カリン王女がそっと手を乗せる。



「……いたいのいたいの、とんでいけー」



 やばい、これはむちゃくちゃ可愛い。頭をなでなでしたあと、「飛んでいけ」の部分で手を離す仕草が超ラブリーだ。この姿が世界中に配信されたら、世の中から争いごとなんて無くなるんじゃないか?



「……どうですかシナエ、いたいのなくなりました?」


「すっごく楽になったよぉ、ありがとぉ~」


「良かったな、シエナ」



 はじける笑顔を浮かべて抱きついてきたシエナの頭を、カリン王女といっしょに撫でる。本当に俺の娘……じゃなかった婚約者は、笑顔のほうが断然素敵だ。



「カリン様、ご立派になられて……」


「なんだか母親みたいですよね、姫様」


「カリン様もリュウセイの嫁になるのか?」


「それは私が許さないよ!」



 なんか後ろの方で侍従の三人と、サンザ王子が盛り上がってるな。次期国王の長女だし、さすがに一般人と結婚するのは無理だろう。だからカリン王女も、そんなキラキラとした目で俺を見ないで欲しい。






 大いに盛り上がったビーチバレー大会も終わり、夕方までそれぞれ自由に海水浴を楽しんだ。


明日更新予定の第8話で、海水浴編は終わりになります。

夜の散歩のお誘いを受ける主人公、果たしてその相手とは?(自明)

第8話「月明かりの海」をお楽しみに!

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本編もよろしくお願いします!
色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~
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