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海水浴編 第4話「海辺のお茶会」

 龍青(りゅうせい)たちが沖へと泳ぎに行った後、大人の女性たちが日除け小屋に集まり、お茶会を始めた。飲み物は真白(ましろ)が家で作ってきた、甘くて冷たいロイヤルミルクティーだ。


 金属製のポットに入れたものを、魔道具で作った氷で冷やした後、ヴィオレの時空収納にしまってもらっていた。新しい氷を周りに敷き詰めているので、炎天下でも冷たいまま楽しめる。



「この国の王子様たちが参加されただけでも驚いたのに、女神様まで来るなんてビックリですよ」


「ほんと、リュウセイ君の交友関係ってどうなってるの?」



 真っ先に口を開いたのがシンバの妻シャルマと、緑の疾風亭で看板娘をやっているシロフだ。そんな二人をラメラ王妃と女神の彩子(あやこ)は、ニコニコ顔で見つめている。



「龍青君はウチの旦那っちゅうことになっとるしな」


「マラクス……じゃなかった、ベルさんは国の要職に就いてるし、マシロちゃんは流れ人だし、他の子たちは種族がバラバラだし、普通の人ってケーナさんくらい?」


「私もちょっと特殊な出自(しゅつじ)なので、普通とは言えないかもしれません……」



 頭の上に疑問符を浮かべるシロフを見て、ケーナとラメラはお互いに顔を見合わせる。今日は王族も来るということで、この場には信頼できる人間しか呼んでいない。シャルマの夫は王家に認められた冒険者、そしてシロフは宿屋で働いていることもあり、個人情報を外に漏らす心配は無用。そう考えたケーナは、ラメラに向かって小さくうなずいた。



「ケーナさんの母親は、先々代王の娘さんよ」


「えっ!? ホントですかラメラ王妃様」



 

 シロフは一瞬だけ驚く姿を見せたものの、王家の血筋には美男美女が多いという話は有名なので、すぐ納得の表情に変わる。初めて会ったときから、その美貌が印象に残っていたからだ。



「私も一年くらい前まで知らなかったんですよ」


「ケーナちゃんのお母様は、王室の乳母をやってたマリンちゃんが、ずっと大切に育ててきた子なんだ」



 大勢いる側室の一人だったケーナの祖母は、子供を出産した後の肥立(ひだ)ちが悪く、程なく亡くなっている。残されたケーナの母は、当時二十歳だったマリンの手によって、十五年間我が子のように育てられてきた。その絆があったから、もしもの時は彼女を頼るようにと、遺言を残していたのだ。



「マリンさんから私の知らなかった母のことを色々聞くことが出来て、すごく嬉しかったです」


「そのマリンって人も、リュウセイ君やマシロちゃんの知り合いなの?」


「うん、王様の侍従長をやってたビブラって名前の旦那さんがいるんだけど、夫婦で旅をした時に馬車が壊れちゃったんだ。その時に私たちと出会って、そのまま一緒に旅をしたんだよ」


「王子様ともあんなに仲がいいし、国の関係者とも知り合いになってるし、二年前に初めて会った時には、こうなるなんて予想もできなかったよ……」



 冒険者や旅人相手の宿屋で働いているシロフは、自分の交友関係もそれなりに広いと自負していた。実際、お客として来た様々な種族や立場の人物と、接した経験があったからだ。しかし、この島に集まっている面々を見ると、そんな気持ちも吹き飛んでしまう。



「人脈に関しては誰も敵わないって、国王様がちょっと嘆いてたよ」


「お母様とも結婚したんだもの、そう言われるのは仕方ないと思うわ」


「私のところの所長もぉ、リュウセイくんを気に入ってるしねぇ~」


「なんの所長さんなんですか?」


「王立考古学研究所だよぉ~」


「じゃぁ、シエナちゃんはその人の娘さん?」


「ちがうよぉ~。お姉さんは王立考古学研究所のぉ、主席研究員なんだぞぉ~」


「子供じゃなかったの!?」


「私は二十九歳のお姉さんだもん! リュウセイくんとは婚約だってしてるもん!」


「「え~~~~~~~~~ッ!!??」」



 シロフとシャルマの声が、綺麗に重なった。

 二人の頭は、ここに来て一番の驚きに支配されている。


 古代エルフ族より身長が低く、若干イカ腹気味の彼女を大人として認識するのは、それだけ困難ということだ。名前入りのスク水が似合うのは伊達じゃない。



「こんなちっちゃな子も婚約してるのに、私って……私って……」


「せっかくだからシロフちゃんも、うちの息子にアプローチしてみたらどう?」


「こんな美人ばかりいる集団に、入っていく自信がありませんよぉ」


「シロフさんはとても綺麗だと思いますよ。それにリュウセイさんは、汚れてみすぼらしかった私にも優しくしてくれましたから、外見で判断する人じゃないです。大切なのは自分の気持ちじゃないでしょうか」


「シロフ、リュウセイのこと、どう思ってる?」


「それは、まぁ、優しくて頼りがいがあって、かっこいい人だなと思ってますけど。でも私は、コールさんみたいに胸も大きくないし……」



 シロフの胸はベルより大きく、ケーナより小さいくらいだ。このメンバーの中で序列二位になるコールには、到底かなわない。



「リュウセイは、われやシェイキアだけでなく、ソラも(めと)っておるのじゃ。それこそ気にするだけ無駄なのじゃ」


「シエナも愛して、もらってる。シロフなら問題ない」


「普段はすっごくいぢわるなんだけどぉ、二人っきりの時はとっても優しくしてくれるんだよぉ~」


「妖精の私に対しても、ちゃんと女として接してくれる人だから、何も心配いらないわ」


「私にもチャンスは有るのかな?」


「お兄ちゃんがこの世界に来て、一番お世話になったのがシロフさんですから、すごく大切に思ってますよ。これくらいで諦めちゃダメです」


「うん、そうだね、ちょっと頑張ってみる!」



 龍青は緑の疾風亭に約二ヶ月(90日)間滞在している、彼の人となりを知るには十分な期間だ。若干思考誘導されているきらいはあるものの、シロフとしても気になる異性として見ていたことは事実である。


 そうやってワイワイとお茶を楽しんでいると、龍青たちが遠泳から帰ってきた。一位はやはり水泳が得意な龍青、二位が体力にモノをいわせたコンガー、三位はヴァイオリで四位がサンザ王子、そして最後にゴールしたのがシンバだ。



「リュウセイ帰ってきた、ドラムのところ連れてって、もらってくる」


「あっ、お姉さんも一緒に行くよぉ~」



 ソラとシエナが走っていき龍青にまとわりつくと、そのまま抱き上げられて波打ち際まで運ばれる。そして三人で準備運動を始めた。



「ちくしょー、模擬戦だけでなく泳ぎでも負けたぜ!」


「ああやって嬢ちゃんたちの相手をしてるってことは、リュウセイのやつはまだまだ余裕があるってことだ」



 大きなタオルで体を拭きながら、日除け小屋に戻ってきたコンガーとシンバは、真白から受け取った冷たいロイヤルミルクティーを一気に飲み干す。龍青を見つめる目つきには、若干の(あき)れが含まれていた。



「お帰りなさいませ、サンザ様。久しぶりに泳がれてどうでしたか?」


「ただいま、ラメラ。いやー、こうして体を動かすのは、やっぱり気持ちがいいね」


「冷たい飲み物ですけど、良かったらどうぞ」


「ありがとうマシロ。

 ……君の()れるお茶は、相変わらず美味しいよ」


「ありがとうございます」



 サンザが浮かべる笑顔は、いつもどおり見事なイケメンスマイル。それを見ていたシロフとシャルマの頬が若干染まるのは、仕方のないことだろう。



「しかし私より速いなんて、ヴァイオリもまだまだ現役だね」


「恐れ入ります」


「まさか最下位になるとは思ってなかったぜ。俺もアージンに帰ったら鍛え直すかな」


「あまり無理はしないでよシンバ、二人目だってまだなんだから」


「わかってるよ、シャルマ」



 シンバは隣りに座っているシャルマの頭をポンポンと叩く。十歳以上離れた年齢差のため、ちょっと子供扱いされることもあるが、シャルマはこうされるのが大好きだ。ぴったり寄り添って、目を細めながら甘えている。



「リュウセイ君がうちの宿に泊まってたときも、ライムちゃんの面倒をすごく良くみてたけど、なんかああして子供たちと遊んでる姿が、とても似合ってるなぁ」


「お兄ちゃんって街を歩いてると、時々知らない子に抱っこをねだられたりするよ」


「そういえば龍青君に、新しい二つ名が出来たって聞いたわよ。確か幼女誘引剤(ロリータ・ホイホイ)だっけ?」


「なんやなんや、龍青君の二つ名って一体いくつあるんや?」


「えっと……多妻王(ハーレム・キング)と未亡人殺し(キラー)、それから異種族狩人(ハンター)に年上愛好者(フェチ)、一番新しいのはお母さんが言った幼女誘引剤(ロリータ・ホイホイ)だね」



 真白が指を折りながら龍青の二つ名を挙げていくが、王都で出回っているのは今のところ五つだった。最後の一つは、まだ本人も知らない。


 もちろんその理由は、日常的に抱っこしてる人物が女性ばかりだからである。街で抱っこをねだってくるのも、圧倒的に幼女が多い。娯楽の少ないこの世界では噂話が楽しみのひとつなので、本人の耳に入るのも時間の問題だろう。



「でも私たちや侍従から離れて、年の近い子供たちと一緒に遊んでるカリンの姿が見られるから、リュウセイさんには感謝してるわ」


「二人の仲が良すぎるものだから、父上(国王)はリュウセイのことをライバル視してるからね。今日も公務があるのについて来ようとして、近衛たちに取り押さえられてたよ」


「国王様まで来られたら、大変なことになっちゃいますよ」



 シロフの懸念は最もだ。いくら安全な無人島とはいえ、国王が単身でこの場に来るのは、側近たちが許さない。なにせ彼には王位を継ぐまでの時期、〝王国の暴れん坊〟と呼ばれて側近たちを困らせたという前科があった。ダンジョンに入って遭難した時は、隠密時代のシンバも救助に参加している。



「シエナもソラも楽しそうじゃな。われもドラムのところに行ってみるのじゃ」


「あっスファレちゃん、私も行くよー」



 スファレとシェイキアが波打ち際に走っていき、準備運動をしながらゆっくり海に入っていく。五百年の時を生きている古代エルフが、まるで少女のようにはしゃぎながら龍青のもとへ向かう。


 そんな二人の姿を、この場に残ったメンバーは微笑ましそうに見送るのだった。


 番外編なのにフラグが立ちそうです(笑)


 次回はお茶会の後半に時間が戻ります。主人公がドラムの上でどんな事をしていたのか、いつもどおりの視点でお送りします。

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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~
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