マッチ売りの少女は今日も笑顔
Special Thanks 茂木 多弥さん
深夜の路地裏は静けさすらも眠りについていた。一人の少女を除いては…………
「……マッチを…………」
「マッチを……いりますでしょうか?」
少女は物置小屋の裏で闇に紛れると、まるで闇からぬけ出したかのような小さな灯りが少女の顔を照らし出した。
灯りは少女の胸を照らし、腰を照らし、足を照らし、地面を照らし……そしてその全てを照らす程に大きくなった灯りはそのまま大きなかがり火となり少女の笑顔を映し出しました。
少女はお酒が嫌いです。
煙草も嫌いです。
ギャンブルなんか大嫌いです。
宝石のネックレス。きらめく指輪。光り輝くドレスを見てげんなり。
お肉もお魚もジュースも大嫌い!
少女は僅かなパンと薄汚れた水と粗末な服が好き!!
でも、もっと好きなのは……マッチでした。
「マッチはいりませんか……?」
「マッチを…………」
今日は馬小屋が明るく照らされています。
馬の嘶きは悲しみに満ちており、少女の声は悦びに満ちていました。
マッチの灯りが消えた後、そこには何も残りませんでした。
暖かい団欒も、温かい食事も、柔らかい家族の笑顔も……全てが黒く塗りつぶされました。
灯りが消えて少女の姿が見えなくなると、少女は次の静けさを求めてトボトボと歩き出します。
月明かりに照らされて、仲良し兄妹が眠るベッドが見えました。
少女はマッチの箱を取り出しました。
「次は……デニー? ロバート? ハハ、キャシーが良いかな?」
マッチの一つ一つを指でなぞり、優しい声で一つのマッチを取り出しました。
「マッチ……マッチはいりませんか…………?」
少女の顔は小さな灯りに照らされて、その笑顔が真っ暗な闇から現れました。服はボロボロ、靴には穴が開き、家の茶色のベンチには、忘れられたぬいぐるみが腰掛けていました。
地面の草が照らされ、茶色のベンチが燃えるような赤に染まっていきます。ぬいぐるみは既に溶けて炭色に変わり果て、壁は全てが照らされ包み込むような暖かさから逃げ場の無い熱さへと変わり果てました。
兄妹の慌てて泣き叫ぶ悲鳴が聞こえます。少女の歓喜に満ちた笑い声も聞こえます。
大きなかがり火に気付いた大人達が駆け付けた時には、少女の姿は見当たらず、兄妹の声も聞こえなくなっていました…………。
少女はマッチが無くなるまで帰れません。
しかし誰もマッチを買ってくれません。
この悲劇はまだまだ続く事でしょう…………何故なら少女が持つ籠の中のマッチは、街の建物よりも多く残っているからです。