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来世に期待 腐女子の縁結び  作者: じゃはなみあき
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薬師の糸

 結維を抱えたランプシーは私達に与えられた部屋でなく、彼の自室へ向かった。


 部屋に入るなり手早く結維の肩掛けとサッシュベルトを外し靴を脱がせ、優しく寝台へ横たわらせるその間も結維に声を掛け続けるので、私も結維を呼び続けた。

 手首の脈を診て首の脈も診る、その後額に手を当て熱を測る。そのさまは医者そのものだった。


 結維は朦朧もうろうとしながらも何とか意識を取り戻したみたいで「りんちゃん」と小さく呟いた。その様子を確認すると、ランプシーは安心したのかほっと息を吐いた。


「薬草を取って参りますので、リーネはこれでユーイ様に水を飲ませて下さい」


 そう言うとランプシーは、水瓶から木製の器で水をすく漏斗ろうとに管が付いた物を私に手渡し、続き部屋へ入って行った。私は非常訓練を思い出しながら結維の体の左側を下にして横向きにし、管を口に咥えさせ漏斗ろうとで水を少しずつ流し込んだ。


 薬草を手に戻ったランプシーは擂鉢すりばちで黒い物体を細かく粉にし、薬研やげんつぶした何種類かの薬草と一緒に乳鉢にゅうばちで混ぜた。そのおどろおどろしい色の物を飲まされる結維がちょっとだけ可哀想に思った。


「この薬を飲ませますので、一度胃に入れた水を桶に吐き出させて下さい」


 汗で張り付いた額の髪をそっとどけて、頭を撫でて背中を擦る。


「ごめんね結維、辛いだろうけど回復して欲しいから我慢しててね」


 テキパキと出される指示に従って、下働きの人が持ってきてくれた桶に水を吐かせる。


 吐かせ終わった後はランプシーと交代して、水で溶いた黒緑色の薬を再度管で飲ませる。触れた結維の体が熱を持っていたので、濡らした布で体や額を拭いた。ちょっと落ち着いた状態を確認するとランプシーは私に尋ねた。


「私はこのまま様子を見るつもりですが、リーネはどうしますか?」

「勿論、私も結維に付いています」

「そう言うと思っていました。では眠くなった時は、この長椅子を使用してください」


 ニコリと微笑むと厚めの毛布を長椅子に敷き、休む場所も迅速に整える。その手際の良さに感心してしまう。もしかすると、ここで何度もこうやって患者を診る事があるのかも知れない。


「ランプシーさんこそ今日は色々ありましたので、お疲れでは無いですか? 私に気にせず休まれて下さい」

「いえ、私は薬の効き具合と嘔吐された内容物を確認して書き留めたいので」

「随分熱心ですね。この神殿でお医者様もされているのですか?」

「医者と言う程ではありませんが、主に薬草を使った体調管理をしております」

「私の世界ですと薬師、漢方薬剤師が近い存在ですね」

「興味深いですね。今度はリーネ達について教えて頂けますか」


 目をキラキラとさせて聞いてくるので、私が知る限りで差し障り無い程度を話す。

 実家が神社である事や、おばあちゃんがお屠蘇とそを作っているので、薬草を扱うなら興味があるかと思いその材料等を説明した所、とても熱心に耳を傾けてくれた。


「お屠蘇とそとは、悪鬼や疫病を屠り心身を改めて蘇らせ、一年の始まりである元旦に飲むとその一年間は病気に罹らないと言われています。我が家では祖母がアレンジして色々加えたりしていますけれど」

「異国の文化を知るのは楽しいですね。材料を書き留めておきます」

「飲む時に言う言葉があるんです『一人これを飲めば一家に疫無く、一家これを飲めば一里に疫無し』皆が幸いに過ごせますようにと願いを込めて飲みます」

「素敵な風習ですね」


 話が聞こえていたのか、結維がゆっくりと瞼を開けて左手を差し出した。


「りんちゃんそばにいて」

「そんな可愛い事言われて離れるわけないでしょ。私の隣は結維の定位置って決まってるしね」


 私は寝台の横に椅子を持って来て、差し出された手を思いを込めてぎゅっと強めに握った。手を握られた結維は、にこりと笑って目を細めると再び眠りについた。

 さっきと比べると随分顔色の良くなった結維を見ながら、この症状についての原因をランプシーに尋ねる。


「毒を口にされたと思われます」

「やっぱりそうですか。香辛料が効いていましたが、舌に苦みと痺れを感じる野菜があったので、そうでないかと。気付いて直ぐ結維に食べない様に申し上げたのですが、遅かったようですね」

「少量ですがリーネも口にしたのですね。念の為薬を飲んで下さい」


 ランプシーはまたもやゴリゴリゴリと黒緑の液体を作り上げ、ずいっと私に「飲んで下さいね」と爽やか笑顔付きで渡した。苦マズイ液体は結維が飲んだ(飲まされた)物よりも少なかったはずなのに、ちびちびと口に運ぶ所為か一向に無くならなかった。




 夜が更けると結維の熱が上がって来たので、水を汲む為に井戸の場所を聞いた。水瓶の水を使用して良いとランプシーは言ってくれたけれど、少しでも冷たい水を使いたかったので汲みに行くことにした。


 扉を開くと、目の前にイティアラーサが居て心底驚いた。軽く浮いたかと思う位飛び上がって驚いてしまった。手に持っていた木桶を落とさなかった自分を褒めてあげたい。


 彫刻のような整った顔立ちが、月明かりにほんのりと照らされ薄闇に浮かび上がっていて、息が止まる思いをした。本当に驚いた時の自分は声が出ないのだと知った。


「イティアラーサ様、遅いですよ。結維はもう眠ってしまいました」

「解っている。晩餐前から悪意を感じていたので、わたくしに向かうと思っていた。すまない事をした」


 本当にすまなそうに顔を歪めるイティアラーサに、あれこれと文句を言いたい気持ちが飛んで行った。


「わたくしが愛し子を構い過ぎた所為で、大事にしていると認定され危害を加えられたのであろう。致し方無い、これからは其方を構うとしよう」


 ……この御方は何を仰られているのでしょうか。あれこれと文句を言いたい気持ちが舞い戻って来た。

 

 私に構うより、少年や青年にお願いします。……壮年、中年、老年男性でも勿論大賛成です。


「折角のお申し出ですが、謹んで辞退致します。そんな事より私は水を汲みに行くので、失礼します」

「そんな事とな。まぁいい。一応其方も心配であるし、わたくしも共に参ろう」


 白い石の回廊を、ひたひたと歩く足音が夜の中に響く。目指す井戸は夕方にお祈りした大木の側だ。

 道すがら、気になったことを聞いてみる。


「イティアラーサ様。害意と仰いましたが、この世界を統べる貴方様ならばける事も可能なのでは?」

「今の『エフェリオセプタ』はわたくしの統治下にあるが、そもそも大神により創られたので、わたくしより高位の力には及ばないのだ」

「イティアラーサ様より高位の神の力……ですか」

「ああ。よって、この『エフェリオセプタ』に強いられている根本のことわりについても変える事は出来ぬ。わたくしがここで、女型めがたではなく男型おがたであるのもそうだ」

 

 なんとびっくりです。

 絶っ対に男性の姿は、ご自身の趣味と思っておりました。


 ご腐人ふじんだ、と。

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