表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世に期待 腐女子の縁結び  作者: じゃはなみあき
7/77

初恋の糸

 時間が来るまでアホな話題も交えつつ部屋で話をしていると、扉がノックされイティアラーサが入って来た。


「泣いていたのか? 涙に濡れる瞳も愛らしい」


 結維の側に来ると隣に座り、さり気なくは無く、堂々と腰を抱き寄せ顔を近づける。こめかみに口付けるとまなじりに溜まっていた涙を唇でぬぐい、愛おし気に頬を撫で頬にも口付けた。更に顔を傾け、口に……は結維が顔を背けてしまったので口付けられなかった。


 減るもんじゃないんだし、交渉材料とすればいいのに。恐らくイティアラーサも同じ事を思ったに違いない。「どうした? 嫌だったか?」と顔を覗き込む。


「嫌ではありませんが、こういうのはやはり好きな人と」


 語尾が段々小さくなって恥ずかしそうに俯く。可愛い。乙女か。


「ファーストキスが初恋の人だったから、よりそう思うのかな」


 脳内で言ったつもりがどうやら口に出していたみたいで、結維とイティアラーサの視線が私に向く。


「え? 何? どうして?」

「面白そうだな。詳しく聞きたい」


 動揺する結維と興味津々な様子のイティアラーサに、私が目撃した出来事を話す。


 その日はいつも通り神社内の掃除をしていた。私はほうきを持ち結維といち兄は、はたきを持ち埃を払っていた。つま先立ちして欄間らんまにはたきを掛けていた結維はバランスを崩した。それを庇う様にいち兄が抱き留めて畳に倒れ、その上に結維が折り重なっていた。


「私の世界で言う、事故チューですね」


 これ以上ない位目を丸くして結維が言う。 


「あの時、りんちゃんは居なかったはずだけど」

「鑑賞後、空気を読んでその場を離れたからね」

「鑑賞って。それにどうして初恋って知ってたの」

「結維。うちは『縁結び神社』だよ。あんなに強い想いはえにしがはっきり見えるに決まってるでしょ」


 時が止まった結維は、動き出すと共に顔を真っ赤にした。


「で、でも自分に向かうえにしは見え無いから、いち兄は僕の気持ち知らないよね」

「見えて無くても、家族皆が結維の気持ち見えて知ってたし、あんなに好意全開で毎日話し掛けられたり笑い掛けられたりすれば誰でも気付くよ」

「家族全員?! 気付いてた?! うわぁぁぁ」


 慌てふためく結維に落ち着いて欲しくて軽く頭を撫でる。


「いち兄も満更でもないみたいだったよ。私も結維の口から想う人の名前が出たら、ご縁を結ぶって言ったでしょ」

「知ってたからだったんだね」

「いち兄と二人になる度に『間違いよ起これ』って念じてたのに」

「何だよそれ。でも、そっか、嫌がられたり気持ち悪がられてなくて良かった」


 安心したのか、へにゃっと笑う結維は可愛い。可愛過ぎる。そんな姿に我慢できず、抱き着いて思いっ切り頭を撫で回した。


 私達が騒ぎ合っている横でイティアラーサは、何とも愛おしくてたまらないと言った表情で結維を見ていた。



 夕食の時間が近づいたので部屋を出ると、謁見の間でご縁を結んだ文官が丁度こちらへ向かって来た。


「ユーイ様、リーネ様。先程は有難う御座いました。彼に想いを伝える機会に恵まれず、半ば諦めかけていた所でした」


 文官は縁結びのお礼と、王が私達を晩餐に招待する旨を伝えた。メガレイオ達も招待されたらしく、再度皆で宮殿へ向かう事になった。


 日が落ちて来て夕焼けに染まる回廊は何だかひどく懐かしい感じがして、不意に郷愁に襲われた。たまらず中庭に佇むご神木に似た大木に駆け寄って幹に両手を当て「自分たちの無事が家族に伝わりますように」と祈った。


 突然取った私の行動に謝罪し、晩餐へ向かう列に加わる。メガレイオとアルモニエは何となく察したのか、優しく私の両肩にそれぞれ手を置いた。肩から伝わる優しい温かさは私の心に届き、頑張ろうと思う気持ちを確かにした。


 長テーブルに食器が並べられた広間に案内されると、私達を迎えるために待っていた王イェルピードの元へ歩みを進める。


「晩餐にお招き頂きまして有難う御座います」


 結維と二人感謝を述べると席に案内され上質な布張りの椅子に腰を下ろす。


 席次は結維が『神子』なので、主催者である王、イティアラーサ、結維、メガレイオ、アルモニエ、ランプシーと来て私。が正しい順だと思うけれど、結維が『従姉妹』を強調した為、結維の隣に座る事となった。色々と根に持ってるのが感じられた。


 形式張らなくとも良いと言うイェルピードに従いリラックスして、配膳される食事に手を付ける。


 塩漬けした葡萄の葉で挽き肉を巻いた物はとても口に合い、付け合わせの紫色の野菜の酢漬けも美味しい。その隣に置いてあった黄色い野菜はちょっとかじると苦みがして、香辛料がふんだんに使われているのか舌がしびれる感じがするので、慌てて結維に食べない様に囁いた。


 白身の魚の蒸し焼きはいい塩梅で、ピクルスらしき物をみじん切りにしたソースとよく合った。これを平たいピタパンで包んで食べる。


 スープは塩味の効いたヨーグルト味で、具にさいの目切りになった色とりどりの野菜が入っており、上にオリーブオイルが円を描く様に回しがかっていた。


 デザートはカステラみたいなどっしり触感のケーキにグレナデンシロップがひたひたになるまで掛けられた物で、感想は「甘い」のみだった。ほんのり酸味があるのが救いでした。


 食事中の会話は終始イェルピードによるイティアラーサのご機嫌取りだった。謁見の間での件は余程その身に応えたらしい。私の頭に『接待』の文字が浮かぶ。そう言えば給仕を行っている者も見目が良い人ばかりだ。


 イティアラーサは辟易へきえきした表情で、ゴブレットに次から次へと注がれるネクタルを無言で飲み続けていた。王の威厳も何のその。私には段々イェルピードが、媚びへつらう小物に見えて来ていた。


 結維にも好きな物を聞いたり、容姿を褒めたり。その言動は外交で行うべきでは? と心でツッコミを入れまくっておりました。


 ツッコミ入れまくりの私の隣で、笑顔で応対していた結維が急に私の袖を引いた。


「りんちゃん、なんだか目が霞む。お腹も痛いかも」


 そういえば少し顔色が悪いなと思い、退出の許可を申し出て部屋に戻ることにした。結維は相当我慢していたのか、広間を出ると辛そうに体を丸め廊下にうずくまった。


「もうダメ。吐く」

「結維ちょっとここで待ってて、何か洗面器みたいな物探して来る」


 私が駆け出す前に一緒に退室してくれたランプシーが、控えていた下働きに桶を持ってくるよう告げた後、腰を屈めて結維に近づく。


「ユーイ様失礼します」


 一言断りを入れたかと思うと抱き上げ、なるべく揺らさないように配慮しつつも早足で神殿へと向かう。結維は段々と顔色を無くし、ついには意識を失ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ