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来世に期待 腐女子の縁結び  作者: じゃはなみあき
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魔法の糸

 突然現れた青年に口を挟まれ驚きの表情を隠せないまま、イェルピードは言った。


「メガレイオ、そこな者の名は」

「失礼しましたイェルピード陛下。この御方はイティアラーサ様です」

「……イティアラーサ様だと……半世紀に一度降臨されると伝え聞いてはいたが」


 半世紀に一度……私が思うに半世紀と言わず、もっと頻繁に訪れていそうですけれど。その度に好みの人間に目を付けていると。そのフットワークの軽さは見習いたいものです。


 信じられないと言った風に瞬きも忘れ、目前の青年をまじまじと見るイェルピード。そんな王に相変わらず不機嫌そうな顔を隠しもせずにイティアラーサは告げる。


「“イェルピード”其方神事に於ける最高責任者にも関わらず、全く神殿へ足を運ばぬではないか。そのような者に『縁結び』を任せられようか」


 イティアラーサに名を呼ばれたイェルピードは金縛りにったかのように微動だに出来ず、ただただ視線を送り返すのみだ。王が神殿から足が遠ざかっていた事にイティアラーサは大変ご立腹のご様子。更に距離を詰めると指先で顎を持ち上げ、目を合わせる。


「わたくしが自ら迎えに行った神子なのだ。この世界を憂いて其方達の為に」


 威圧感たっぷりの冷たい視線を受けたイェルピードは震える口からどうにか言葉を紡ぐ。


「大変過ぎた事を申しました。イティアラーサ様の御心のままに」


 そんな緊迫した空気の中、私が何を考えていたかと言うと(あ~この二人がスーツ姿だったらどんなに楽しい光景か~大好物間違いないのに~)だった。その思考はやっぱり結維には悟られていて。


「りんちゃん顔崩れてる」

「元からです」

 

 と、いつもの返しが行われるのだった。


 イティアラーサの超絶圧力ハイプレッシャーにより縁結びは当初の予定通り神殿で行われる事となった。毎日ではなく曜日を定めて週に何度か行う旨、日曜日に行われる礼拝で周知されるそうだ。思い通りに進められ満足したイティアラーサは神殿内に残された矢が無いか確認すると言い、その場を離れた。


 滞在する場所も神殿内の部屋に決まり、ランプシーに案内され歩みを進める。着替えの時と言い、どうやらランプシーは雑務も任されている様だ。


 決して豪華とは言えないけれど、上質な家具の揃えられた部屋へ通される。内扉から続く隣室には従者部屋があり、そちらも清潔に整えられていた。


「ユーイ様、リーネ様。何かお困り事がございましたら私が伺います」


 さらりと長い金の髪を流しランプシーは会釈した。落ち着ける場所も提供され人心地付き、この世界についてずっと気になって確認したい事があったので有難く質問する。私と結維は長めのソファに並んで座り、ランプシーは対面するソファに腰を下ろした。


「エフェリオセプタについて、ランプシー様がご存じであれば教えて頂きたいのですが」

「私が存じ上げる事であれば喜んで。それと私に『様』は必要有りません」

「ではランプシーさんと呼ばせて頂きますね。私もリーネで結構です。このエフェリオセプタでは『魔法』は存在しているのでしょうか? そして『獣人』や『妖精』、『精霊』等の存在も気になります」


 何と言っても異世界ですから。結維が魔法を使ってド派手なエフェクトが出るとか最高です。そして神様がいるのだから、獣人とか精霊が居ても、おかしくないはず。いかつい獣人に迫られる結維。美味しすぎて、おかわり必須ですよ。


「……りんちゃん顔……」

「ほっといて」


 そんなロマンあふれるヨダレもあふれる私の問い掛けに、ランプシーは疑問たっぷりと言った表情だ。


「まほうとは何でしょうか。じゅうじん、ようせいも分かりかねます。せいれいは御霊みたまの事でしょうか」


 ガッカリもはなはだしいお答えを頂きました。ランプシーが認識している、せいれいは聖霊ですね流石神職。


「魔法とは人智を超えた力でしょうか。獣人は人にして人に非ず、獣にして獣に非ずと言ったケンタウロスやミノタウロスの様な生物です。精霊は自然物等の霊的存在で妖精はその下位の存在。これら全ては私の見識によるものですけれど」

「人智を超えた力ならば、ユーイ様とリーネが行った『縁結び』ですね。ケンタウロス、ミノタウロスは物語の中でしか存じませんし、霊的存在であればイティアラーサ様ではないでしょうか」


 自分でも知らぬ間に実は私、魔法使いでした。


 望んでいた答えが無かったのでちょっと落ち込みはしたけれど、この世界は男性しか存在しない事を思い出し心を癒す。


 十分過ぎ、こんな贅沢身に余る。一句読んでみました。


 生物の生態系について確認した所、動植物は雌雄しゆうがあり『人間』だけ雄のみだった。よかった卵が食べられる、とほっとした。


 ランプシー個人の事も教えてくれて、何と彼はメガレイオとアルモニエの御子息でした。

 私の気が済むまで根掘り葉掘り聞いても嫌な顔一つする事なかったランプシーは、私が返答に対して礼を言うと、夕食の時間と場所を告げて去って行った。本当に良い青年なので是非とも素敵なご縁がありますように。その際はしっかり結ばせて頂きます。


 ランプシーが去って二人きりになった室内では、結維の機嫌が下降していた。


「折角の顔が台無しだよ」

「だって! 僕もユーイでいいですって言ったら『神子様にそんな恐れ多い』って酷い! ご縁だってりんちゃんがいるから僕だって結ぶ事が出来るのに。本当に凄いのはりんちゃんなのに……」


 見る見るうちに涙が溜まって行く。


「私の事は、結維が知っていれば大丈夫。私は陰で動く方が好きだしね『靴屋の小人』的に。こっそりひっそり行って驚く顔を見てニヤけるタイプ」

「悪趣味だね」

「そうなの、悪趣味なの。縁結びが出来るようになった頃、良かれと思って想いが向かい合う相手を了承も得ず結びまくった事があって」

「良い事じゃないの? 想い合う相手でしょ?」

「それがね、まだ私のえにしえ方が不安定だったとは知らずに、来世で結ばれる相手を今世で結んだりしちゃったの。今ではちゃんと話を聞いてからご縁を結ぶ様になったけど、以前の私は自己満足の為にご縁を結んでいたと気付いた。そんな身勝手な私には、人の為に涙を流せる結維が居てくれるから安心するし自信を持てる」

「本当に?」

「本当だよ。妄想し放題だしね」

「台無しだよ!」


 結維がいつも必ず隣にいる。それは間違いなく私の自信のみなもとなのだ。

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