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9話「プライドはハトの背中にのせておけばいいのよ」(ライス)


 頭がぼーっとしていて、全然体に力が入らない。昨日、毒を飲んで高熱を出し、一眠りして一気に体温が下がった。かなり耐性がついてきたが、今は体力が落ちてなんのやる気も起きない。

「隊長、聞いていいですか?」

 屑野菜のスープを作ってくれたシャルルが俺の固いベッドに座った。

「なに? 今、まったくやる気が起きないけど」

 スープが入った木の深皿を持つこともめんどくさい。ダルさが爆発中だ。

「冒険者登録ってしました?」

「してない。なんかいいことあるのか?」

「いえ、冒険者登録すると、個人のカードをもらえるんですけど、それに探知機能がついたらしいんです」

「どういうこと?」

「つまりダンジョンや秘境で行方不明になっても死体を回収できるって話なんですけど」

「それ、普通に位置が冒険者ギルドにバレるってことだろ?」

「そうなんですよね。今、浮気調査とか山賊の隠れ家がどんどん暴かれていってるみたいなんです」

「へぇ~、シャルルも持ってるのか?」

 シャルルが持っていると、この隠れ家にも誰かがやってくるかもしれない。

「この間まで持ってたんですけど、ハトの背中に括り付けて飛ばしました」

「それはいいことをしたな」

「でも、ほとんどの人がステータスや小遣い稼ぎのために登録しているので、国よりも冒険者ギルドの方が個人情報を詳しく知っているってことですよね」

「だろうな。権力の匂いがキツイな」

「ええ、王都では冒険者ギルドへの献金がすごいことになっているらしいです。でも冒険者に対する報酬は変わらないんですけどね」

「そのうちクーデターが起こるな。なんだ? シャルルがクーデター起こして歴史に名を刻むつもりか?」

「いえ、ただの世間話です。戦争が終わって生きにくくなっちゃったなぁ、と思って」

 どこに行くのにも誰かに見はられていると思うと、確かにいい気はしない。しかもそれがある一部の人間によって管理されているとなると、本当に面倒なことになりかねない。

「まぁ、大丈夫だよ。誰も俺たちのことなんか興味ねぇ!」

「そうだといいんですけどねぇ。隊長は戦歴がいいから」

「俺は影武者だぜ。戦歴なんかないだろ?」

「それが、あるみたいですよ。勇者が本人不在でも表彰するべきだとか言ったらしいです。新聞に書いてありましたから」

「余計なことする弟子だ。新聞記者もいいように使われやがって。権力に対抗しろよな」

「スープ飲まないんですか?」

「飲むよ。今、冷ましてるんだ」

「もう冷めてますよ」

「わかった。飲むよ」

 毒を飲み過ぎて味はわからないが、「美味かった」と言っておいた。空になった深皿を持って、シャルルは洗いに行った。

 どうやら俺に何か言いたいみたいだが、言いにくいらしい。特に部下たちとも仲が良かったし、何でも言えると思っていたのだが。よほどプライベートな性癖をカミングアウトするつもりなのかもしれない。スープに体液でも入れたのか。覚悟しておこう。

「隊長、ステータスって何だと思いますか?」

 井戸で洗いながら、シャルルが聞いてきた。

「ステータスって冒険者ギルドで教えられる数字か?」

「そうです」

「まぁ、ステータスが何を基準にしてるかとかは知らないが、『ステータスを見る』っていう行為は弱者がもしかしたら自分にも隠れた才能があるかもしれないっていう願望だろうな」

「本当にそれだけなんですかね?」

「ランクでもつけて、他人を見下したいとかもあるかもしれんが、たいして重要なことでもないだろう。なんだ? どうした? 回りくどいぞ。相談したいことがあるなら、はっきり言え。金ならあるぞ」

「どこから説明したらいいかわからなくて。要約すると『エルフってこんなバカでしたかね?』ということなんですけど」

「ま、人はだいたいバカだ。頭がよかったことなんてない。それを勘違いして揉めてるんだから、気にするな」

「そうなんですけどね。戦争が終わって、国が統一されたじゃないですか?」

 結局、話すのだな。

「ああ、俺は山に籠ってたからあんまり見てないけど、そうみたいだな」

「それで知識も統一されたわけですよ。エルフの知識も流出しました。薬学も魔法学も、全部です。人族の出版の技術は高いですから、今までエルフが守ってきたアドバンテージがどんどん一般化されていったわけです」

「でも、長寿は残ってるだろ?」

「それだけです。長寿だけで人は尊敬してくれませんよ。それに戦争が終わって一年しか経ってませんから、今は長寿かどうかなんてどうでもいいんです」

「で、知識という誇りを失ったエルフたちがなにかしてるのか?」

「安売りセールです。自分たちの労働を安く売り始めたんです」

「例えば?」

「土魔法での道の整備やトンネルを掘る土木関係、魔道具への魔力補充、魔法の家庭教師に魔力マッサージ師まで。『真面目ですねぇ』『尊敬しちゃう』『さすがエルフだ』と言われたいがために、労働の対価を下げてしまっているんです」

「でもそれは魔力が高いエルフだからできることだろ?」

「いえ、魔法の知識があるからです。幼いうちから魔法を使ってれば、誰だってステータス上は魔力が高くなりますよ。それが一般化されたので、あと数年でどの人種もエルフの魔力に追いつきます」

 言われてみれば、そうかもしれない。転生したら、まず魔法の練習をしていた時期が俺にもある。初めはチートだとか思っていたが、エルフに会って自分は凡人だと気づかされた。

「ステータスの上ではまだエルフの方が魔力は上だと今は言えるが、近い将来なんの意味もなくなる日が来るということか。でも、そうなったら、そもそも人種の差別自体がなくなるだろうから、いいんじゃないか」

「そこに長寿が絡んでくるんです。頭の固いエルフたちがずっと生きてる。地獄じゃないですか?」

 確かに、差別意識だけあるエルフなんて、嫌われるだけでなんの価値もないか。

「この前、エルフたちの会議があって、エルフ数名が毎年、冒険者ギルドの職員として潜り込むことが決定しました。権力に弱すぎるんですよ」

 シャルルは木の皿を風魔法で乾かして、くるくる回しながら、棚にしまっていた。

「隊長、どうしたらいいですかね?」

 シャルルはうんざりしながら、大きく溜め息を吐いた。

「どうしたいかによるんじゃないか」

「バカは治りませんよね」

「治らないな。それは諦めろ」

「バカであることを気付かせるのは無理ですかね?」

「無理ってことはないだろうけど、逮捕されたりはするだろうな」

「一応、逮捕覚悟で聞いてみてもいいですか?」

「いわゆる、薬物詐欺だな」




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