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4話「学校探しと新人潰し」

 リズはあまり学校に行きたいというわけではないようだ。

「なにがあるの?」

「同世代の友達ができるし、周りの人間が何を考えているのかもわかる。きっと楽しいぞ」

「ん~……今のままでも楽しいけど。ライスとは離れて暮らすの?」

「ああ、遠いからそうなるだろうな」

 俺とだけ生活していても、リズの人生が広がらない。

「学校、学校、学校ねぇ……」

「魔族の国にも人族の国にもいくつかあるみたいだから、一度森を出てみるか?」

「うん、そうする」

「せっかくだから、余ってる毛皮とか売れるものを持っていこう」

「うん」

 グリズリーやハイイロオオカミの毛皮、魔物が落とした魔石なんかは売れるだろう。

 荷物をまとめて、背負子に乗せる。2人でも結構な量だ。

「人里はだいたいどっちかわかるか?」

 リズに聞くと、西を指さした。

「なんでそうだと思った?」

「向こうから来たから。あと、川が西に向かって流れてる」

 人の生活は水なくしては成り立たないから、川沿いに集落か道があると教えていた。

「だいたい当たってる。じゃ、川沿いを下ろう」

 日頃、魚を釣るときに使っている川沿いを下る。棒術用の棒で、草をかき分け、湿地になれば地面の柔らかさを確認。底なし沼もいくつかあったが、埋まることもなく進んだ。

 日が照り気温は高かったが、川の側は気持ちいい風が吹いている。

「晴れててよかった。雨だったらもっと大変だ」

「うん」

「飯食うか?」

「いや、まだいい。水分摂り過ぎると汗かいて疲れるから」

 リズは、森での生活をちゃんと吸収している。


 川幅も広くなり、棒を使うこともなくなってきた頃。

「ライス、あれ」

 川下に橋がかかっているのが見えた。

「一旦、休憩とってからなるべく大きな町を目指そう」

「うん」

 木の実と燻製肉の簡単な食事を摂ってから、道に出た。なんとなく北の方から人の気配がするので、北へ向かう。

「なんとなくでいいの?」

 リズが聞いてきた。

「帰りは南にも寄るけど、轍と蹄の跡が北に向かってるだろ?」

 道についた窪みを指しながら適当に説明する。

「なんとなく……わかった」

 北に向かってすぐに、集落が見えてきた。

 畑で作業している人に、この先に大きい町はあるか聞いたら、半日も歩けば着くという。

「半日かぁ。宿も取らないといけないし、少し急ぐぞ」

「うん」

 リズに歩くペースを合わせようかと思ったが、森での生活で足腰が鍛えられていたのか、日が落ちる前には町に着いていた。

 夕方で門が閉まるため、人通りも馬車の行き来も激しい。人を乗せた定期便の馬車もあるようだ。検問もあるがよほど怪しい身なりでなければ止められることもない。

 町には雑貨屋や飲食店も溢れ、酒屋が徐々に店を開け始めていた。

「グレーズノットって名前なんだって」

 突然、リズが口を開いた。

「なにが?」

「この町の名前」

「ああ、どうせすぐに変わるから覚えなくてもいいぞ」

 そう言えば、俺は国の名前すら知らない。王の種族が変われば国の名前は変わるし、領主が殺されたら町の名前は変わる。職業を変えただけで名前を変える奴もいる。前の人生では覚えていたが、今は自分で名付けたわけでもないのに、一々覚えてられない。

「でも、人の会話は聞いておけ。何かの役に立つかもしれない」

「うん」

 衛兵に訪ねて冒険者ギルドに向かい、毛皮と魔石を買い取ってもらう。

 酒場が併設され、掲示板に依頼書が張り出されている極一般的な冒険者ギルドだ。

「冒険者登録は致しますか?」

 眼鏡をかけた女性職員に聞かれた。

「冒険者にならないと買い取ってもらえないんですか?」

「いえ、そんなことはありませんが……そのー、各種訓練やステータス確認などの際は便利かと思います。また身元の証明書にもなりますよ」

「なら、別にいりません。リズはどうする?」

「ライスがいらないなら、私もいらない」

「そう、ですか。査定に少々お時間がかかりますので、しばしお待ちを」

 女性職員は何度も瞬きをしながら、奥の部屋に引っ込んでいった。冒険者登録を断ると、怪しい奴に見られるのかな。俺の場合は、前世での知り合いに見つかると面倒ごとが増えるからなるべく自分を証明するものは必要ないだけなのだが。

「なんか飲んで待ってるか?」

 リズに聞いた。牛のミルクくらいは酒場でも売っているだろう。

「ううん。いらない。それより、あの分厚い鎧の人、こっち見て笑ってる」

 不必要に厚い鎧を着た男が酒を呷りながら、こちらを見ていた。

「気に入らないからって、鉄の杭を使うなよ。数には限りがあるんだから」

 今回の旅では、リズの学校探しの他、鉄の杭の補充も考えている。

「大丈夫。途中で石を拾っておいたから」

 投擲用の石は用意済みらしい。

「なぁに見てやがんだ! 田舎者! 俺様が冒険者の礼儀ってもんを教えてやろうか!?」

 分厚い鎧の男が立ち上がった。

 リズはすでに石を振りかぶっていたが、手を握って止めた。

「まだ、ああいう新人潰しっているんだなぁ。リズ、何事もタイミングだ。これまでの情報から戦略を練って、戦術を考え、計画を実行に移す。石を投げるのは今じゃない」

「うん」

 分厚い鎧の男が剣を取り出して構えた。鎧で動きが制限されているから、避けるのは簡単だ。酒を飲んでいた仲間もいるようだが、賠償金は微々たるものだろう。

「冒険者ギルド内での喧嘩はご法度だよ!」

 酒場のマスターが鎧の男を止めた。

「わかったよ。ギルド内ではやらねぇよ」

 鎧の男はそう言ってニヤッと笑った。わかりやすすぎるほど、わかりやすい。どうやら外に仲間がいるらしい。

「査定、終わりました! 銀貨40枚ですね。あれ? なにかありました?」

 女性職員が出てきて俺に聞いてきた。

「いや、何もないよ。ありがとう」

 銀貨40枚を確認して、財布袋に入れる。

「定期便の馬車はまだありますかね?」

「ええ、少し行ったところに駅があるはずです。この時間ならぎりぎり間に合うと思いますよ」

「よかった。裏口ってありますか?」

「誰かにつけられてるんですか? どうぞ、こちらです」

 リズもいたからか、女性職員は快く裏口に案内してくれた。

「また、来てください」

 裏口から裏路地を見ると、先ほどの仲間らしき、分厚い鎧を着た男たちが冒険者ギルドの様子を窺っている。

「リズ、耳を澄ませ。タイミングが大事だ」


 ゴトゴトゴトゴト……


 表通りでは馬車や人が石畳の上を行き交っている。

「おい!」

 俺は隠れている鎧の男たちに声をかけた。

「新人潰しだろ? 俺たちは冒険者にならなかったぞ」

「うるせー! そんなことはどうでもいいんだよ! こっちは銀貨40枚に用があるんだ!」

 そう言って、鎧を着た男たちは短刀を取り出した。分厚い鎧で突進でもしてくるのか。

「どういう戦術だよ」

 俺とリズは棒を構えた。

 反撃されるとは思わなかったのか、鎧を着た男たちがたじろぐ。


 ゴトゴトゴトゴト……。


 馬車の音が近づいてきた。

「エイッ!!」

 裂帛の気合と共に棒を突き出し、鎧の男たちを表通りまで吹き飛ばす。


 ゴトゴトガタンガタンガタン!


「バカ野郎、なに飛び出してきてやがんだ!」

 鎧の男たちは馬車に轢かれ、下敷きになった。幸い分厚い鎧のお陰で、重傷にはなっていない様子。騒ぎを聞きつけて、冒険者ギルドの中から、酔っぱらった鎧の男も出てきた。

「リズ、今なら投げていい」

 俺の言葉で、リズは喧嘩を売ってきた鎧の男の顔に石をぶち当て昏倒させた。

「おい、急に倒れてどうした!?」

 騒ぎの中、分厚い鎧の集団は全員意識を失っていた。

「宿取ろう」

「うん」

 日が沈む町中を俺たちは宿を探した。


「ライス、あれなんて技?」

「新人潰し返し」



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