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2話「帰るまでが戦争です!」



「敵方、反応なしです。このまま、戦争終了まで、籠城しますか?」

 部下のシャルルが聞いてきた。

 ドラゴンゾンビを倒して、丸1日が過ぎた。おそらくこのまま戦争が終わるだろう。戦場に戻ったとしても、俺たちがやることはない。

「戦利品だけ持って、陣営に戻っておくか」

「奴隷の娘一人ですよ。金目の物は全部ない」

 尻尾を切った獣人の娘は、携帯食の固いパンを必死に食べている。俺たちを警戒しているが、今のところ抵抗する気はないようだ。

「ドラゴンゾンビの魔石は回収したか?」

「いや、今あそこに入る勇気はありませんぜ。戦後に毒沼が渇いてから回収するよう報告するつもりです」

 別の部下が答えた。

「そうか。馬は落ち着いてるか?」

 馬も走らせすぎたので休息が必要だ。

「ええ、問題ありませんぜ。いつでもいけます」

「よし。じゃあ、忘れ物ないように。迂回して戦場に合流しよう」

「働きますねぇ」

「まぁな。人生の時間は短い。国に仕える時間よりも自分の時間を大事にしろ」

 俺がそう言うと、部下たちは「ククク……」と笑っていた。

「軍の上官である隊長がそんなこと言っていいんですか?」

「いいだろ? 戦争も終わるし」

 報奨金が出たら、すぐに旅に出る予定だ。目的はもちろん米探し。


 俺たちは戦利品と共に馬で、大きく戦場を迂回し、味方陣営に戻った。横目で戦場を確認したが、こちらの圧勝。詳しく聞くと、勇者の遊撃隊が敵の大将を討ち取ったとのこと。

 戦争は終わった。

獣人の娘は、そのまま奴隷として王都へ送られることになった。

 これから休息し、3万の兵を徐々に帰らせるという。ほとんどの者が王都からだが、俺たちは途中の町で徴兵されたので、そちらに帰る。報奨金などは後日ということだが……。


「勇者の影武者として敵のエリート遊撃隊を戦場から排除。戦術的兵器であるドラゴンゾンビの討伐。戦場での働きとしては十分だろ?」

 夜、俺は戦争の司令官がいるテントにいた。

「うむ。わかっている。爵位を受けたいということだな?」

 口ひげが生えた、勘の鈍いこの貴族が司令官だ。一目見ただけで名ばかりの司令官だとわかる。今回の戦争は、こいつの部下と勇者がうまくやったのだろう。

「いや、爵位はいらない。これから俺たちは徴兵された港町まで直行したいから、報奨金を前払いしてくれという話だ」

「式典には出ないと申すか?」

「ああ、式典も出ないし、武勲もいらない。金をくれ」

「しかし、そうなると……報奨金が減るぞ。戦場に金は持ってきてないのだ」

「そんなわけあるか。どうやって和平交渉するつもりだ? それでも足りないというならあるだけでいい」

 俺が譲歩していると、勇者がテント内に入ってきた。

「司令官殿、お呼びですか?」

「ああ、そなたの影武者が武勲や爵位はいらぬから、今すぐ報奨金を寄こせと言ってきておる。しかし、ここにはこの者の功績に足る金貨の用意はないのだ。どうしたものかと悩んでいてな」

 勇者を使って俺を追い出そうとしているようだが、無理だろう。

「あるだけ渡すべきだと進言します。司令官殿」

「なっ! ……どういうことだ?」

「自分の影武者は、自分と同等の力を持っています。やろうと思えば、自分がくる前にこのテントを制圧できたはずなのに、していなかった」

「つまり、私の命はすでに握られているのだから、黙って言うことを聞けということだな?」

「簡単に言うとそういうことです」

「勇者が私を助ければいいではないか?」

「現状では司令官殿を助けるより、影武者を助けたほうが楽です。王都に帰って報告するまでが戦争ですから、どうとでもいえる。ここでは戦闘能力がない者の命は軽いのですよ」

 勇者らしからぬことを言うようになった。師匠のせいだな。

 司令官は黙って、自分のテーブルの上に金貨を並べ始めた。

 金貨にして81枚。部下と山分けだ。


「すまん、助かったよ」

 テントを出たところで、勇者にお礼を言った。

「このくらいお安い御用です。師匠」

 勇者は不敵な笑みで俺を見た。

「……いつから気付いていた?」

「投擲技術の高さと、呪いへの熟練度。戦闘に関して必要のないものを排除する決断力。なにより、各隊のトラブルメーカーを部下にする手腕ですかね。そんな人、転生したってわかりますよ」

「そうか……。これからは気を付けるよ」

「これからどこへ? 王都には戻らないんでしょう」

「俺が欲しいものがなにかくらい知ってるだろ?」

「『握り飯』ですか……。自分は師匠のすべてをマネできたつもりだったんですが、それだけはわからなかったなぁ」

「だろうな。食わないとわからん。達者で」

「また会いましょう」

 俺は勇者と手を上げて別れ、部下たちの休むテントに向かった。



「できる限り等分した。あまりは帰りの旅費として持っていけ。文句ないだろ?」

 一番家が遠いエルフのシャルルに余った金貨を渡した。部下たちは俺を囲むように座っている。

「「「「はっ」」」」

「隊長は、もう旅立たれるんですか?」

 シャルルが聞いてきた。

「まぁ、戦争も終わってやることがないからな。行くよ。世話をかけた。あんまりいい隊長じゃなかったが、全員生き残ったことだけが誇りだ」

「もし、次の戦争があれば、すぐに呼んでください」

「俺もだ。世話になったのはこっちのほうですぜ」

「何かあれば必ず、駆けつけますから」

「どこに行くかくらい教えてくれてもいいじゃないですか?」

「東だ」

 明確にどことは言わなかったが、それで察したようだ。

「そういえば、あの獣人の娘は奴隷商に売られたか?」

「いえ、戦利品ですので、まだそこら辺の檻に入れられているかと」

「そうか」

「気になることでも?」

「まぁな。じゃ、達者で暮らせ」

 俺はそのまま立ち上がり、テントを出た。

 深夜、未だ負傷者のうめき声が聞こえてくる中、戦利品として捕らえられている奴隷たちの檻を探した。

 ただ檻に入った奴隷たちはすでに王都へ向かった後で、それ以外は一所に集められ、手を縛られ地面に寝かされていた。兵糧が足りないのか飯もろくに与えられておらず、奴隷たちも逃げだす気もないようだった。

 月明かりの下、猿のような顔をした娘を探し続ける。西の大国に猿族はほとんどいない珍しい獣人だ。もしかしたら、東方の国にいた獣人かもしれない。

「お、いたな。起きてるか?」

 獣人の娘は目を見開いた。

「このまま、王都に行って奴隷になるか、それとも俺と一緒に行くか、どうする?」

 言葉を理解したのかどうかわからないが、獣人の娘は俺の腕を掴んだ。

「来るか?」

 獣人の娘が大きく頷いた。

「よし」

 俺はそのまま獣人の娘を攫い、陣営から出て行った。




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