第5の刺客
残り10メートルのところで次なる刺客は襲いかかってきた。
「ちくしょう、こんな時に!」
勇者の行く手を切れた電線が阻んでいるのだ。
前門の虎後門の狼とはまさしくこの事である。
このまま突っ込めば間違いなく電線に絡め取られて看板が直撃する。
かといって電線を避ければその一瞬で看板に追いつかれる。
「どうする俺!考えてる時間はない!」
勇者はしっかりとドーナツを両手で挟んで持つとそのまま盛大にスライディングをかました。
野球をやっていた頃のようにホームベースに突っ込む勢いでそのまま交差点を曲がり滑り込んだ。
プロ野球チームの監督が見てたらスカウトされるんじゃないか!?と思うくらい勇者的には完璧だったらしい。
服が汚れたのは気にしておらず、寧ろ勝者の勲章と思えば誇らしかった。
一息ついて振り返れば看板は電線に引っかかり止まっていた。
どうやら危機一髪だったらしい。
しかしこれで残りは50メートル。
もうゴールは目前だ。
50メートルを6秒で走る勇者にとってもう勝ちは確定したかに思えた。
全速力で走れば愛しのマイハウスはすぐそこなのだ。
だがそう簡単に返してはくれないのが今世紀最大と言われる台風である。
次の瞬間大粒の雨が降り始めた。
そう。
台風は早く帰らせることを諦めたのだ。
そのかわり雨により今回のミッションを失敗させることを優先することに力を注ぐ事にした。
ドーナツが濡れてしまえば食べられない。
もう最後の一手だった。
しかし勇者は笑った。
待ってましたと言わんばかりに。
「馬鹿め!俺はそこまで読んでいたよ!」
勇者は2重にしてもらっていた袋の一枚を取った。
そしてそのまま上から被せた。
「これでどんなに雨が降ろうと完全防水だ!」
勇者がミスタードーナツで袋を2重にしていたのはこのためだった。
今度こそ勇者の勝利である。
初めは風に負けた勇者だったが最後は雨に勝った。
これでこそ勇者である。
勇者はそのまま無事に帰宅すると神棚に2つのドーナツをお供えしたそうな。