第2の刺客
この台風の中、悠長に歩く必要もないと勇者は全速力で駆け抜けた。
のんびりしていたらその分体力も奪われる。
しかし第二の刺客はすぐに現れる事になるのであった。
ミスタードーナツまではおよそ250メートル。
先ずは家を出て50メートル行ったのち角を曲がり100メートル先に見える大通りを上り方面行に100メートル行かなければならない。
はじめの50メートルを曲がった所でそいつは現れた。
なんと向かい風である。
これまでの横風と違い見えない壁となって勇者を押し戻そうとする。
突然のことに受け身が取れず勇者は思わず吹っ飛ばされた。
「うぐっ!」
背中を強く何かにぶつける。
お陰で止まることはできたが10メートル程ロスをしてしまった。
100メートルで済むところを110メートル進まなければならない。
「そう簡単には進ませてくれないか。だがそう来なくては面白くないよなあ!」
勇者は立ち上がると再び歩みを進めた。
そう、ただ一つミスタードーナツへ行くというミッションの為に。
さあ、再び走り出した勇者に向かい風は容赦なく吹き付ける。
だが今度は先ほどのようなヘマはしない。
住宅街ということもあり周りは民家ばかりだ。
民家の柵に掴まり慎重に進んでいく。
少し慣れてきて60メートル程まで来た時、向かい風は攻撃方法を変えてきた。
街路樹の葉を飛ばしてきたのだ。
まだ残暑が残る9月とはいえ暦上は秋である。
強い風を起こせば木の葉を飛ばす事は容易い。
「小癪な!」
眼前から迫る風の塊と視界を覆う木の葉が勇者の進行を邪魔した。
なんとか10メートル程は進んだがこれでは埒があかない。
大通りまではまだ40メートルもある。
そんな時勇者の視界にとあるものが映った。
2軒先の民家の庭にプールバックが干されているのだ。
恐らく台風が来る前に家に入れ忘れたのだろう。
洗濯バサミで止められたそれは今にも飛ばされそうである。
と思った次に瞬間にはもう空を舞っていた。
勇者はそれに手を伸ばす。
中を確認すれば目的のものに思わず笑みが漏れた。
どうやら神は勇者の味方をしてくれるらしい。
「てれれれっれれーっ!勇者はゴーグルを手に入れた!」
もはや自分を勇者だと思い込み始めた彼は自らゲームのようなアナウンスをすると満足げに前を見据えた。
そうこれは拾ったものであり断じて盗んでなどはいない。
目をなかなか開けられなかった先程とは打って変わり視界は良好である。
そのまま一気に残り40メートルの距離を進んだ。
さて、勇者は無事ミスタードーナツにたどり着くことができるのだろうか。