第八幕
「兄ちゃーん!!」
「有栖ちゃん。遊びに来たよ」
「最近の兄ちゃんは、いつも仕事仕事って。全然遊んでくれないから、今日は思いっきり遊んでもらうからね!」
「ああ。だから、今日は思いっきり楽しもうって思って、ほら」
収納空間から取り出したのは、コアなファンが多い昔の格闘ゲーム。
それを見た瞬間、有栖ちゃんは目を輝かせる。
「おお!!」
「これ、やってみたいって有栖ちゃん前から言ってただろ? ちゃんとハードも持って来たよ」
「ありがとう! 兄ちゃん!! もう兄ちゃん以外は来てるから、入って入って!!」
「お邪魔します」
有栖ちゃんは、俺にスリッパを出して、リビングへと案内する。リビングへ入ると、有栖ちゃんが呼んだ友達がすでにゲームをプレイしていた。
人数は、四人。
男女共に二人ずつ。その中に、元高校生の俺が混ざるんだから、ちょっと場違い感あるよな……。
「遅いじゃない。こっちはもう我慢できずに、やっちゃってるわよ?」
「よっ! 清護の兄ちゃん!!」
まず先に挨拶してきたのは、気の強そうな茶髪の女の子と頬にばんそうこうをつけている黒髪の男の子。
茶髪の女の子は、管木亜美。普通の魔法使いで、将来の夢は【マジックスポーツ】の選手になることらしい。【マジックスポーツ】とは、魔法を取り入れた競技で、有名なのがランダムシューティングやハイジャンプタッチなど。
まだまだ色んな種目があるが、亜美ちゃんはランダムシューティングの選手を目指してるようだ。
ランダムシューティングは、ランダムに動く的を正確に打ち抜く競技。
魔力操作と、洞察力、瞬発力が競われる。そのために、彼女の得意なゲームはシューティング系だ。
黒髪の男の子は、浜栄太。亜美ちゃんの幼馴染で、昔からよく亜美ちゃんと口喧嘩をしたり、魔法やゲームで争ったりを続けているらしい。
友達想いで、今日遊びに来たもう一人の男の子とは、親友同士だ。
「お久しぶりです。逆柄さん」
で、その親友の男の子は、皆川遊。とても礼儀正しく、物静かな性格をしているが、意外と意地っ張りで、これと決めたことを中々曲げることはない。
薄い茶色の髪の毛で、若干目が隠れている。
そして、最後だが……あれ?
「君は、確か」
「あれ? 兄ちゃん。もしかして、レアちゃんのこと知ってるの?」
有栖ちゃんがレアちゃんと言うのは、この前クレープ屋でクレープを買ってくれた金髪の少女だ。あれからはクレープ屋にすら来てくれていないけど。
有栖ちゃんの友達だったとは。
なんだか、俺を見て少し気恥ずかしそうにしているな。やっぱり、また来るって言ったのに行っていないから顔を合わせ難いんだろうか? 気にしなくてもいいのに。
「まあ、前にクレープを買ってくれたことがあるんだ。久しぶりだね」
「は、はい」
「ちゃんとした挨拶はまだったかな? 俺は、逆柄清護。ご存知の通り、しがないクレープ屋の店員だ。君の名前は?」
怖がらせないように微笑みながらその場に座り込む。
レアちゃんは、有栖ちゃんに背中を押されながら、呼吸を整え、口を開ける。
「レア・シェンフィールです。茜屋さんと同じクラスで、今日は突然来れなくなった人の代わりということでお邪魔させて頂いています」
「もう! 代わりじゃないよ? 前から何度もレアちゃんのことを誘ってたじゃん」
「そうそう。なのに、レアってば自分からあたし達を避けていくんだから」
「まあ、しょうがねぇんじゃねぇの? お前、乱暴だし」
などと、亜美ちゃんを挑発する栄太くん。おそらくイラつかせて手元を狂わせようという魂胆だったんだろう。しかし、逆効果だったようで、亜美ちゃんの闘志が燃え上がる。
「はあ? そういう生意気なことを言うのは……百年早い!!」
かかかか! とコマンドを瞬時に入力し、超必殺が発動。
残り少ない栄太くんのキャラクターを襲い、沈黙。
「ぐああ!? ま、負けた……」
コントローラーをその場に置き、がっくりと崩れ落ちる栄太くんを横に、亜美ちゃんがガッツポーズ。
落ち込む栄太くんを、遊くんがなんとか元気付けようと肩に手を置きながら声をかけている。
久しぶりに見たな、この光景。
最近は、色々と新たな発見があったり、クレープ屋が思ったより人気で、忙しかったからな。
「よーし! レアちゃん! 次は、私と対戦だー!」
「え? あ、あの私、ゲームはあまり得意では」
「気にしない気にしない! 格ゲーは適当にコマンドを入力していても、いけるから!」
確かに、そうなんだが、コマンドはちゃんと入力しような、有栖ちゃん。
「おっしゃあ!! レア! 負けるなぁ! 有栖はめちゃくちゃ強いけどな!!」
「え、栄太くん! それは余計な一言だよ……!」
栄太くんと遊くんの応援を受けながら、有栖ちゃんとレアちゃんの戦いは始まる。まるで、初心者を狩ろうとしている有栖ちゃんに対し、必死にコントローラーにコマンドを入力していくレアちゃん。
意外と、いい勝負をしている。そんな光景を見ていると、隣に亜美ちゃんが座ってきた。
「ねえ、清護さん。ちょっといい?」
「どうした? そんなに真剣な顔で」
「実はね……最近、有栖の様子が変なの」
やっぱり、そうなのか。この前見たよりも、欠片が黒くなっている。これは急がないといけないな。とりあえず、今は近くで見ていた亜美ちゃんの情報を聞こう。
「変って、例えば?」
「今は、ああやっていつも通り元気に振舞ってるけど、時々ぼーっとすることが多いのよ。話しかけても、すぐに返事しないし。それだけじゃないの。魔法の授業の時だって、色々。全然集中できていないから魔力操作だって、全然。昨日なんて、魔法が暴発したの」
……思っているより重症かもしれない。
もうその段階まで来ているのか。いつかは、魔法を暴発させてしまうと思っていたけど。
「でも、メディカルチェックでは、体に異常はないって。本人も別に悪いところはないって言うし……」
有栖ちゃんだ。なにか異変があっても心配させまいと、元気に振舞っているんだろう。
「だからさ」
「……うん。どこまでできるかわからないけど、相談役になってみるよ」
「ありがとう、清護さん」
「なんとぉ!?」
「か、勝っちゃった」
丁度、話が終わったところで、向こうも終わったようだ。なんとびっくり。圧倒的に有栖ちゃんが勝つかと思っていたが、レアちゃんが勝利を収めた。
やっぱり、最近調子が悪いせい、なのか?
それとも普通にレアちゃんが強かったのか。どちらにしろ、今がチャンスだな。俺は、亜美ちゃんに少しの間頼むと視線を送り、頭を抱えている有栖ちゃんに近づいていく。
「有栖ちゃん。ちょっと、話があるんだけど、いいか?」
「え? あ、うん。いいよ」
「じゃあ、ついてきてくれ」
「二人してどこ行くんだ? もしかして、コンビニでも行くのか? だったら、俺も」
と、栄太くんがついてこようとするのを亜美ちゃんが首根っこを掴み阻止する。
「ぐえ!?」
「はいはい。あんたは、あたしに勝たないとここからは出られないわよ?」
「な、なんだと!? そんなルールありかよ!?」
「大有りよ。でかい態度を取りたいなら、あたしに勝つことね」
「このぉ! やってやらぁ!!」
見事、栄太くんをその場に留めてくれた亜美ちゃんは、よろしくとばかりにウィンクをする。
そして、俺達は一度、リビングから出て行くと、話なら自分の部屋でしよう! という有栖ちゃんの提案に乗り、彼女の自室へと向かった。