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第七幕

「というわけなんだが、やっぱり何かが起こる予兆なのか?」

「ふむ……どうじゃろうなぁ。わしちゃんにはさっぱりじゃー」

「なにがわしちゃんだ。惚けてないで答えてくれ、欠片の意思」


 有栖ちゃんからの情報を手に入れた俺は、カイルと共に地下研究室へと潜っていた。

 そこで、親父が死ぬ間際に俺にへと渡した欠片。

 そこに宿っていた意思なる存在と対話をしている。


 見た目は十五センチメートルぐらいの人形。

 だが、自分で考え、自分で行動できる意思を持っており、物体にも触れることができる。食事をする必要はないのだが、気分的には普通の生物のようにしたいということで、周囲にはお菓子の袋やペットボトルが大量に置いてある。

 真面目な話をしているというのに、漫画を読んでおり、話半分と言ったところか。


 クリーム色の長い髪の毛に、雪のような真っ白な肌。

 左目の下には、ひし形のマークがついている。

 俺が手作りした赤いジャージを身に纏っており、いったいその小さな体のどこにそんなに入るのかと疑問に思ってしまうほど、極細のストローでコーラを一気に飲む。


「ぷはぁ!! いやぁ、今の人間と言うのは、本当に良い物ばかり食べておるのじゃな。わしがまだ生体だった頃は、質素なものばかりだったというのに……」


 名前はクリア。

 元々人間だったらしいが、魔神を封印するために自らを媒体として、封印のクリスタルとなった。その後、魔神が復活しないようにクリアが内側から、俺達封印の一族が外側から二重の封印の力を働かせて、長きに渡り守ってきたのだ。


 それがひょんなことから、クリスタルから魔神の力の一部が漏れ出し、俺の親父に侵入。

 親父を操って、クリスタルを破壊。

 欠片なので、こんなに小さいと本人は言っているが……。


「たく。カイル。お前が甘やかすからこんなにもだらしないことになったんだぞ?」

「美少女には優しくだよ。お前だって、なんだかんだ言ってジャージとかを手作りしてるじゃんか」

「それは、こいつが裸のままだったからだよ。裸だとこっちは話しにくいだろ?」

「なんじゃなんじゃ? わしの裸に欲情しておるのか? なんじゃったら、見せてやらんこともないぞ?」


 などと、ジャージのジッパーを下ろして、谷間を見せてくるクリア。

 イラッときた俺は、読んでいた漫画とコーラを取り上げる。

 

「んぐ! んぐ!!」

「あー! それはわしのコーラじゃぞ!? それに漫画もいいところだというのにぃ!!」

「だったら、けふっ……真面目に話をしようじゃないか。世界のために」


 と、半分ほど飲んだペットボトルと漫画見せ付ける。

 クリアは、俺達封印の一族の中でも最強と謳われた存在だ。そのために、魔神の封印の媒体となったのだ。が、今のクリアにはそんな力は残っていない。

 なにせ、たった一個の欠片に宿っているうえに、長年魔神の封印のために身を削ってきたのだから。

 こんな風に簡単に、制圧することができる。


「わ、わかった。真面目に話をするとしよう。じゃから、コーラと漫画を返すのじゃ」

「……じゃあ、さっそくだが、どうなんだ?」


 コーラと漫画を返し、俺は今一度問いかける。今の有栖ちゃんの状態。そして、俺がめがねで見た欠片の黒ずんだ状態を映像で確認しながら、クリアはそうじゃのぉっと首を傾げた。


「おそらく、この有栖という娘には、なに悩みがあるのじゃろう」

「悩み? それとこの黒ずみが関係あるのか?」

「うむ。魔法使いの力の原動力は、意思じゃ。その意思が、魔力と重なり、魔法となる。魔力が強大でも、意思が弱ければ、魔法はうまく発動せぬし、威力だって弱くなる」


 確かに、そういうことは世界での常識となっている。いくら膨大な魔力を持っていようと、簡単には魔法は使えない。

 修練を重ね、魔法を知り、意思を強く持つこと。

 それが魔法使いの常識だ。


「はっは~ん」


 カイルは、なにか理解したかのように含みのある笑みを浮かべる。


「わかったぞ。犯人は……お前だ!!」


 まるで、探偵が犯人を指差すように、カイルは俺を差した。


「まあ、正確にはお前が変身したトルミちゃんだな」


 それを聞いて、俺も察しがついた。最近、有栖ちゃんが悩むようなことと言ったら……やっぱり、あのことかもな。


「有栖ちゃんは、腕利きの魔法少女。これまでもいくつもの事件を解決し、強力な魔物をも討伐。紅の炎と何種類もの武器を扱え、世界にも認められるほどの実力。そんな子が、突然現れた謎の魔法少女になすすべも無くやられたうえに、ファーストキスまで奪われたんだぞ? そりゃあ、色々と悩みますわな」


 へらへらと笑いながら、ポテチのうす塩を一枚食べる。

 そこへ追撃とばかりに、クリアもコーラを飲んでから語り出す。


「そうじゃのぉ。彼女はうる若き乙女じゃ。あの様子から考えると、恋愛もしたことがないじゃろうな。明るく振舞っているようで、あの日のことが忘れられぬ! 唇の感触も! そこへ、お主が再び現れて……この台詞じゃ」


 何かのスイッチを押すと、こんな音声が響き渡る。


《いずれ、あなたの炎を犯す、漆黒を盗んで見せましょう。―――その柔らかな唇と共に》


 今、思い出しただけでも恥ずかしくなる。俺であって俺じゃないと思えば多少は和らぐけど。

 カイルとクリアにいたっては、腹を抱えて笑っている。

 もう一度再生させようとするので、その小さな指を小指で弾く。


「わかってるよ。こうなったのは俺が欠片奪還を失敗したせいだ。それに、元々俺がどうにかしないといけない問題だからな」

「うむ、その意気じゃ。男前な顔になったところで、先祖たるわしからのアドバイスじゃ」


 今日の約束のために、研究室から出ようとした俺を、クリアは止める。

 アドバイスをくれるようだが、なんだ?

 真面目な表情だから、さすがにからかうようなことは言わないだろうと思いたいが。


「今度は、心をも盗むのじゃ。唇だけではなくての」

「最初と言ってることが違うじゃないか」

「わしだって、想定外だったんじゃ。なにせ、事例がないからのぉ」


 ちなみに、欠片を奪う方法はこうだ。相手の唇を奪い、対象の体内へと直接術式を刻み込む。俺達封印の一族の体液は特別製で、体液からでも封印の術式を発動することができる。

 こうすることで、欠片の力を封じ、そのまま欠片を盗む。力を失った欠片を盗むのは、容易だ。


「だからって心をも盗むって」

「あの女子をお主に! 夢中にさせるのじゃ!!」

「正確にはトルミちゃんにな。うーん……TS男子と幼女の百合か」

「わしもその辺りは詳しくないのじゃが、そういうのは需要があるのか?」

「ありな人は、ありだろうな。俺は、ありだと思うぜ」


 何を語っているんだ、こいつは。


「ともかくじゃ! もう欠片奪還を失敗できない! 今度、唇を奪う時は、舌じゃ! 舌を思いっきり入れるのじゃ!!」

「し、舌!?」

「おぉ!! ディープキスってか! 幼女同士のディープキス!! 想像しただけで高ぶるぜ!!」


 この変態どもが……俺は、なにやら変なテンションになってきた二人を放って置いて、研究室から一人、出て行く。

 向かうは、有栖ちゃんの家。今日は、日曜日。約束のゲーム大会だ。

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