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第五幕

《速報です。巷を騒がせていた魔法少女襲撃犯の正体が明らかにありました。名前はトルミ。魔法少女怪盗トルミと名乗っていたようです。世界でも使い手が少ない【弱体化魔法】を使うらしく、特殊警備隊もさっそく対策を練っており》

「へえ。魔法少女怪盗かぁ。なんだか変わった子が現れたねぇ」

「噂だと、あの〈紅炎〉ちゃんがあっさりとやられちゃったんだってさ」

「マジで? やっぱり【弱体化魔法】ってやばいんだね」


 女子高生達が、スマホでニュースを観ながらお喋りをしている。俺は、それをBGMにクレープを作っていた。

 

「これこれ。この子がトルミって子みたいだよ」

「うわぁ、まさに怪盗って感じだね。でも、めがねで隠れているけど、完全に美少女だよね。雰囲気からもうひしひし感じるし!」

「店員さんはどう思います?」


 そう言って、女子高生の一人が俺に魔法少女怪盗トルミの似顔絵写真を見せつけてくる。

 

「確かに、可愛い子ですね。素顔がとても気になります」


 似顔絵写真を見せてもらったお礼かのように、俺は出来上がったクレープを女子高生達に渡す。

 

「ですよね! やっぱり可愛い子は素顔を隠していても可愛いですよね!」

「もしかしたら、この近くに住んでいたりして!」

「まっさかー!」


 くすくすと笑いながら、女子高生達が帰っていくと、それと入れ違いになるように猛スピードで何かが通り過ぎていく。

 なんだと思っていると、通り過ぎていった何かが戻ってくる。


「兄ちゃん!!」


 有栖ちゃんだった。

 なにか慌てた様子だが……なんだろう。


「どうしたんだ? 有栖ちゃん。そんなに慌てて」

「あ、あのね……えっとね……」


 何かを言おうとしているが、中々言い出せないようだ。いつもなら、マシンガントークをしているかのように言葉が出てくるが、今回は顔を赤くし、なにやらもじもじと気恥ずかしそうな仕草が目立つ。

 まさか。


「お」

「お?」

「女の子同士のキスってファーストキスに入るのかな!?」


 やっと搾り出した言葉。

 かなりの大声だったので、丁度通り掛った恋人同士であろう男女がぎょっと驚き、立ち止まってしまった。

 ハッと我に返った有栖ちゃんは、茹蛸のように顔を真っ赤にして俯く。俺は、すみませんっと頭を下げ、男女を歩かせる。


「えっと、それってどういう意味なんだ?」

「じ、実はね……今、ニュースになってる魔法少女怪盗っているよね」

「ああ。有栖ちゃんが、目撃者なんだよね?」

「う、うん。魔物の討伐の後に、突然現れて、戦ったんだけど簡単に負けちゃって……でもでも! 炎が使えれば負けて無かったよ! それでね……その……」


 やはりなかなか言い出せないようだ。なので、俺が助け舟を出す。


「【弱体化魔法】で弱らされたところで、キスされた、かな?」

「……うん」


 その時のことを思い出したようで、フードを被ってさらに顔を隠す。


「それで、女の子同士のキスはファーストキスのうちに入るか、だったかな?」

「そ、そう!」

「うーん、どうだなぁ」


 俺が考えていると、それを有栖ちゃんは真剣な様子で見詰めてくる。


「まあ、入るんじゃないかな? だって、ファーストキスって、最初のキスって意味だろ? だったら、相手が女の子だろうと、最初は最初だよ」

「……だ、だよね……じゃあ、私」

「ん?」

「あの子と付き合わなくちゃいけないのかな?!」


 またもや突然の大声。

 それに、次は女子中学生三人が立ち止まる。付き合うという単語と、俺に有栖ちゃん。女子中学生達は、なにやらうわっという表情でひそひそと密談を始める。

 やばい、誤解されている。


「あ、あのね。有栖ちゃん。いったいどうしてそんな発想に?」

「だって、キスは恋人同士や夫婦じゃないとしちゃだめだって!」

「だから付き合わなきゃいけないって?」


 純粋だな……有栖ちゃん。まあ、なんだかんだでまだ十歳の小学生。こういうことはまだ初心ってことなんだろう。

 

「ど、どうしよう! 兄ちゃん!?」

「どうすると言われてもなぁ……あっ」

「な、なに!?」

「好きな男の子とキスをすれば帳消しされるって聞いたことがあるけど。そういう子、学校にいたりするかな?」


 ぶっちゃけそんな話はないけど。

 案の定、有栖ちゃんはしばらくぼーっと惚けた後、ぼふっと爆発したかのように煙が吹き出る。


「おーい。有栖ちゃーん?」

「か」

「か?」

「帰る!!」


 ついに恥ずかしさのあまり猛スピードで駆け出していく。すると、すぐにカイルからの通信が入った。


《このロリコン》

「誰がロリコンだ」


 言いたいことはわかるが、さっきのは彼女を遠ざけるための作戦だったのだ。有栖ちゃんにはちょっと悪いことをしたけど、今は考えたい。

 

《それで? 原因はわかったのか?》

「それはこっちが聞きたいぐらいだ。なにかわかったか? 欠片が採れなかった理由」

《さあな。俺もさっぱりだ。これまで採ってきた欠片は二つ。そのどれもが普通に採れたのに、今回だけ違った。今までと違うところがあるとしたら……》

「やっぱり有栖ちゃんの能力の高さにあり、か」


 今までの魔法少女は、強いと言えば強かったが、有栖ちゃんほどではなかった。やはり、今回クリスタルの欠片が採れなかった理由は、彼女に原因がありと見ていいだろうな。

 

《どうする? 他の魔法少女を探すか?》

「いや、このまま有栖ちゃんをターゲットのままにする」

《これまた。ご執心だな》

「そういうわけじゃない。今回のことを解明できないと、今後もこんなことがあるかもしれない。だから、その原因を解明するまではってことだよ」


 俺の言葉に、ふーんっと含みのある笑みを浮かべるカイル。


《で? どうするつもりだ?》

「原因を徹底的に調べ、対策を練る。それしかないだろ」

「クレープください!」

「いらっしゃいませ。トッピングはどうしましょうか?」


 このまま放置していることはできない。世界を救うために……やらなくちゃならない。

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