第二幕
「さあ、見てくれ! こいつがお前のために俺が一年もかけて作った自信作だ!!」
「……めがねか?」
口にクリームをつけたまま自信満々に出してきたのは、ちょっと変わっためがねだ。
黒くて、怪盗がつけていそうな。
「そうだ。こいつに取り付けられているレンズには、お前の一族に伝わる特殊な魔力を感知する術式を取り入れ、それを強化したものを取り込んでいる。こいつで、お前が探しているクリスタルの欠片を見つけることができるはずだ」
そう言って、カイルはケースの中で浮いている欠片を見る。
俺はめがねをつけ、カイルの指示を受けながら、横にある小さなボタンを押す。すると、視界には、光が点滅するのが見えた。距離的に、俺の近く。
つまり、俺が自力で回収したクリスタルの欠片だ。
「うん、これなら」
「そいつで欠片を探して……くっくっく」
「なに笑ってんだよ」
含みの笑みを浮かべるので、俺はめがねを外して睨みつける。
「いや、まあやるのは”お前であってお前じゃない”からな。あんまり気にするなって! くっくっく」
「この野郎……楽しんでるな」
「だってよ。欠片を取り出す方法がなぁ」
「俺だって、最初知った時はびっくりしたんだよ……まさか、あんな方法でしか取れないなんて」
俺が頭を抱えているのは、欠片を回収する方法だ。見つけるのだって大変なのに、回収する方法がとんでもないのだ。
その方法をどうにかするために、色々とカイルと一緒に考えたのだが、それもとんでもない。
まあ、自分でやるよりはマシってことになったんだけど。
「まあいいじゃないか。とりあえず、そいつがあれば無闇に襲う必要はなくなったんだ。なあ、魔法少女の襲撃犯さんよ」
そう。何を隠そう、一連の魔法少女襲撃の犯人は、俺なのだ。
まあ別に怪我を負わせようとか、命を奪おうってつもりじゃないんだ。
「言うな……魔法少女の体に埋め込まれたまではわかっても、いったい誰に埋め込まれているのかがわからないんじゃ、ああするしかなかったんだ」
「おーおー、言うねぇ。この変態」
「お前にだけは言われたくない。人前で堂々とエロ本なんて読むような奴にな」
俺は、さっそく準備に取り掛からんともう一度めがねをかけて、光を纏う。
・・・・・
「観た? 今日のニュース」
「うん、観た観た! 今日も、犯罪者を魔法少女が捕まえたんだってね」
「すごいよねぇ。しかも、最近は科学の力で更に強化されてるとか!」
「おー! 魔法と科学の融合ってやつだね!」
今日も今日とて、俺はクレープ屋の店員をしている。俺がこうやってクレープ屋をやっているのは、情報を集めるためだ。
この辺りには女子高や小学校が近いので、学校の帰りなどによく買いに来る。
女子っていうのは、何かと情報が早いし、よく話したがる。
なによりも、俺が探しているクリスタルの欠片はなぜか魔法少女の体内に入っている。
あの魔神の言葉から考えると、欠片は魔力の高い魔法少女の体内で魔力を蓄えて、成長する。そして、その成長した欠片がある日を栄えに、集まって魔神の復活を……ってところだろう。
だとしたら、そうなる前に俺が回収しなくちゃならない。
世界のためにも、利用された親父のためにも。
「ありがとうございましたぁ」
「やほー! クレープ屋の兄ちゃん!」
「おっ? 今日も来たな」
女子高生の客が帰っていくと、次は女子小学生の客が現れた。顔を覚えるほど来てくれる。所謂常連だ。朱色のツーサイドアップで、笑顔が眩しい元気っ子。
名前は、茜屋有栖。小学五年生の十歳。一際正義感が強く、人助けをよくしている。魔法少女の一人で、戦闘能力は大人をも凌駕するほどだ。
「あれ? 兄ちゃん。めがね変えた?」
「よくわかったね。前のと対して変わらないデザインなのに」
「だって、前のと違って、大きさが違うじゃん。誰だって気づくよ~」
そう。俺が前かけていためがねは、ただの黒渕だったが、今かけているやつはちょっとフレームが大きくなっている。
ちなみに、伊達めがねである。
「もしかして、また目を悪くしたの?」
「そうなんだよ……。ちょっとゲームのやり過ぎちゃって」
嘘だけど。
「だめだなぁ、兄ちゃんは。私もゲーム好きだけど、目が悪くなるほどはやらないよ? どうせ、暗いところでやってたんでしょ?」
「ばれちゃったか?」
実は、俺がかけているめがねはカイルが開発した欠片を見つけるための機能がついたあのめがねだ。今は、どこにでもありそうな黒渕のめがねだが、形が変わっているだけで、機能はそのまま。
こうして、店番をやりながら近くを通る者達を見詰め、欠片の反応があったものを、地下でカイルがリストアップしているんだ。
(えーっと、有栖ちゃんは……おいおい、マジか)
有栖ちゃんとは、結構仲がよく一緒にゲームをしたり、買い物もしたことがある。可愛い妹のように接していたので、あってほしくなかったが……反応あり。
つまり有栖ちゃんの体内には、俺が探しているクリスタルの欠片があるってことだ。
「どうしたの? 兄ちゃん」
「あっ、いやなんでもない。それより、今日は何を食べるんだ?」
「えっとねぇ……バナナにイチゴとチョコレートソースをトッピングで! もちろんクリームはマシマシね!!」
「はいはい」
まるで、ラーメン屋のような注文を受けた俺は、クレープの生地を焼いていく。
「ねえ、兄ちゃん聞いて聞いて!」
「んー?」
生地を焼いた後に、トッピングをしていると有栖ちゃんが何だが嬉しそうに話しかけてきた。
「実はね、昨日事件を解決した魔法少女って私なんだよ!」
「そうだったのか。すごいじゃないか。でも、そういうのはあんまり人に話さないほうがいいぞ?」
「別にいいよ。兄ちゃんだったら!」
その信用に、俺の心はすごく痛くなるよ……。あぁ、直視できない笑顔だ。汚れた俺には、眩しすぎる……。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。はい、クリームマシマシのクレープだよ」
「ありがとう!! じゃあ、兄ちゃん。次の日曜日ゲーム大会するから、絶対来てよね!!」
「ああ、わかった」
有栖ちゃんが帰っていくと、すぐにカイルから連絡が入る。
どうせ、言うことは予想できるけど。
《いきなり知り合いかぁ。まあでも、知り合いだったら普通に頼めばいけるんじゃないか? あの子だって、お前のことをめちゃくちゃ信用してるみたいだし》
「馬鹿。相手は小学生だぞ? いくらなんでも犯罪だったての」
《もう犯罪者なのにか?》
それを言われたら何も言い返せないな……。
《それで? どうするんだ?》
「どうするもこうするも……やるしかないだろ。世界を救うために」
世界を救うためとはいえ、俺のことを信用してくれている女の子に危害を加えるのは気が引けるが……やるしかない。
このままじゃ有栖ちゃんにも何かが起こるかもしれないからな。