表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第十一幕

「どうだ? 有栖ちゃん。体調のほうは?」

「うん。もうすっかり元気!! もう退院してもいいんだけど、先生がもう少し安静にーってさー」

「まあ、謎の体調不慮、魔力の暴走があったんだ。またなにかあったら、大変だからな。先生の言うことは正しいと思うよ」


 有栖ちゃんから欠片を取り出してから、三日が経った。

 普通、魔力の暴走を起こした者は、助かっても一週間は軽く眠った状態だが、さすがは有栖ちゃん。一日半で目を覚まして、今は信じられない速度で元気に回復していっている。


 俺は、休みの日を利用して、有栖ちゃんの様子を花束などを持って見に来ていた。

 つい最近まで、魔力の暴走を起こしていた子とは思えないほどの元気な姿で、出迎えてくれたよ。声が大き過ぎて、近くにいた看護婦さんに静かにするようにって注意されるほどに。


「それで? 助けてくれたのは、あのトルミだっていうのは、本当か?」


 俺なんだけど。


「うん。あの宣言通り、私を救ってくれたんだよ。……す、すごいキスをして」

「すごいキス? それって、どんなキスだったんだ?」


 まるで知らないかのように、俺は有栖ちゃんへと問いかける。すると、有栖ちゃんは案の定ぼっと顔を赤くして、口篭る。

 

「そ、そんなに言えないよ……! 兄ちゃん、わかってて言ってない!?」

「わ、悪い悪い。でも、これでわかったな。トルミが、敵じゃないって」

「……うん」


 どうしたんだ? 俺のことをじっと見て。

 俺の顔に何かついてるのかな……。


「どうかしたか?」


 気になって問いかけてみると、有栖ちゃんは最初に考えるそぶりを見せ、頬を掻きながら口を開く。


「あ、あのね。変なことを言うけど……」

「うん」


 ちらちらとこっちを見ながら、有栖ちゃんは。


「なんだか、トルミちゃんと兄ちゃんを重ねて見えちゃう、んだけど」

「え?」


 俺は、有栖ちゃんの意外な言葉にどきっと心臓が跳ね上がる。

 お、おいおい。まさかそんな……ばれてる? いや、そんなはずはない。だって、俺とトルミはまったくの別人のような存在。

 どこも似ている要素なんてないはずだ。


 有栖ちゃんの予想外の言葉を聞いて、俺は硬直し、有栖ちゃん自身もしばらく俺のことをじっと見詰めていた。

 が、そこで俺が静寂を破る。


「あはははは。なんだ、それ? 俺と魔法少女怪盗が重なって見える? そんなはずないじゃないか。だって、俺は男で、普通の魔法使い。だけど、トルミは魔法少女なんだろ?」


 動揺を表に出さないように、彼女の意味不明な言葉に笑ってみせる。

 

「だ、だよね。あははは……ごめんね、兄ちゃん。すごく変なことを言って」


 すると、有栖ちゃんも正気に戻ったかのように笑ってから、頭をぶんぶんっと左右に揺らす。まるで、幻を祓うかのように。


「別に気にしてないさ。でも、そう見えるってことはやっぱりまだ体調が万全じゃないってことかもな」

「そう、なのかな」

「そうだよ。それか、さっき言っていたすごいキスをされたから他人がトルミに見えちゃってる、とか?」

「も、もう!! その話はもうやめようよ!!」


 さっきの雰囲気を変えるように、俺は有栖ちゃんをまた弄る。と、そこへ病室へと近づいてくる複数の足音が聞こえた。

 

「ちょっと! 廊下を走らない!!!」

「わ、わかってるっての! つか、お前こそ声でけぇんじゃねぇか? 病院では静かに、だぞ?」

「あ、あんたが悪いんでしょ!?」

「なんだと!?」

「ふ、二人とも落ち着いて……!」

「もう有栖ちゃんの病室の前ですよ? それに、他の患者さん達にもご迷惑ですから……その静かに」


 どうやら、有栖ちゃんのお見舞いにきたクラスメイト達のようだ。病室の前で言い争っているようなので、俺がドアを開ける。

 案の定、亜美ちゃんと栄太くんが口喧嘩をしており、それを遊くんとレアちゃんが諌めようとしていた。


「こら。お前達、見舞いに来るのはいいけど、静かにしないと追い出されるぞ?」

「おーい! 皆ぁ!!」


 俺の注意をちゃんと聞いてくれたのか、有栖ちゃんの呼びかけに亜美ちゃんと栄太くんは、口喧嘩を止めて病室へと入っていく。

 遊くんは、一礼をしてから入っていくが、レアちゃんだけはなかなか病室へと入っていかない。

 確か、聞いた話じゃ、レアちゃんは転校生だったな。

 三人ほど仲良しじゃないから、遠慮がちなのかな。


「レアちゃんも、ほら入って入って」

「わわっ!?」


 そんなレアちゃんの手を俺が引き、病室へと導く。

 

「まったく、心配したわよ?」

「魔力の暴走だって? もう大丈夫なのかよ」

「うん! この通り!!」


 元気だという証を示すために、炎を出すが、病院での魔法は禁止。俺がすぐ注意して、止めさせる。


「その調子だと、来週からは学校に来れそうだな」

「よかった……」

「えへへ。心配かけてごめんね、皆。来週からは、学校でも! 魔法少女としても! 大活躍することを誓います!! なーんて」

「期待してるわよ!」

「が、頑張ってください」

「頑張りまーす!!」


 本当によかった。彼女の笑顔を見ていると、心底そう思える。必ず、全ての欠片を回収して……魔神の復活を阻止してやる。

 絶対にだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=313280723&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ