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第十幕

「この反応は!?」


 休憩時間を使って、コーヒーを片手にスマホで情報を集めていたところ、めがねに警報が入る。

 すると、すぐにカイルからのテレビ通信が入った。


「カイル。何があったんだ?」

「大変だぞ。監視カメラの映像だが……こいつを見ろ」


 カイルからどこかの監視カメラの映像を、テレビへと映し出される。そこには、特殊警備隊が慌てた様子で廃ビルへと駆けていく光景だった。


《おい! 早く止めるんだ!!》

《どういうことなんだ!? 〈紅炎〉の魔力が暴走しているぞ!!》

「有栖ちゃんの……!?」


 その後、映像は切られ、カイルが再び映る。


《どうやら、欠片の影響は、俺達の予想を超えているようだな》

「みたいだな……カイル」

《ああ、わかってる。行くんだろ? 店番は俺が代わっておいてやるよ》


 俺は、強く頷き、エプロンを外す。

 そして、一度店の裏へと向かい、光を纏う。

 

「さあ……奪いに行きましょうか。紅の炎を犯す闇を」


 魔法少女怪盗トルミとなり、俺は跳ぶ。

 ビルからビルへと飛び移り、監視カメラに映っていた現場へと向かう。あそこは確か、来週取り壊しは決まっていたところ。

 ここからだと、急げば五分で到着するはずだ。

 

 でもなんでだ。

 まだ欠片は、半分しか黒く染まっていなかったはず。それに、有栖ちゃんの悩みも解消されたから、まだまだ先だと思っていたのに。


 情報不足だったとはいえ、有栖ちゃんを苦しめるはめに……。

 待っていてくれ有巣ちゃん。

 今、俺がその苦しみから解放してやるからな。


「―――ここですか」


 移動すること、四分。

 廃ビルから、紅色の炎が溢れ出ている光景が見えた。ビルは五階建て。そこの四階辺りから炎が出ているようだ。

 特殊警備隊の隊員達も、雪崩れ込むように入っていくが、それと同時に、怪我人も廃ビルから出てきていた。魔力防壁により護られている防護服は焼かれ、肌もかなりの火傷が目立つ。


「おい! 早くしないと〈紅炎〉が自分の炎で焼かれちまうぞ!!」

「わかってる!! だが、近づこうにも高密度の炎で……」

「こうなったら、危ないがビルを崩して……」

「馬鹿!! そんなことをしたら〈紅炎〉が死ぬぞ!?」

「だが、そうでもしない限り!!」


 隊員達は、まだ諦めていないようだが、有栖ちゃんを助ける方法が思いつかないでいるようだ。けど、俺だったら、取り出せる。

 助けられる。

 もう迷っている暇は……ない。俺は決意を固め、廃ビルへと飛んだ。



・・・・・



「アアアアアッ!! アアアアアッ……!?」

「くっ! これじゃ、近づけん!!」

「しかも、彼女の炎でビル自体が……!」


 有栖の魔力が暴走してから、数分が経っている。だが、未だに彼女の暴走を抑えることができないでいた特殊警備隊。

 何度も、突撃し、特殊手錠をかけようとするも暴走した魔力により生み出された紅色の炎に隊員達は焼かれてしまう。

 死人は出ていないが、怪我人が続出している。しかも、廃ビルが、徐々に有栖の炎で焼かれ、崩れかけている。このままでは廃ビルの中に居るのも危ない。


「こうなったら、こいつを」


 特殊警備隊の部隊長の一人が、懐から特殊な銃弾を取り出す。


「隊長! それは……!」

「ああ。【アンチ魔法弾】だ。手錠の素材にも使われている【抗魔石】を加工して作られた銃弾。こいつには魔法も効かない、貫ける」

「ですが、それは」


 その方法を取ると言うことは、有栖を……射殺するということになる。

 これは、魔法使いや魔法少女が魔力暴走を起こし、どうにもならない時に使用するため各部隊長達などに何発か配布されている。

 しかし、協力関係にある魔法少女達を射殺するということは、責任を背負わなくてはならない。なにせ、世のために小さいながら協力してくれていたのに、殺してしまうのだから。

 

「わかってる! だが、もうこれしか方法はない! 彼女の力はお前達もわかっているだろ? このまま暴走し続ければ、周りにも被害が及ぶ! 責任は全部俺が背負う」

「隊長……」

「それに、もう彼女のあんな苦しむ姿を見たくはない。……俺にもあれぐらいの娘が居る。だから」

「なら、尚更。そのようなことはしないほうがよろしいのではないでしょうか?」

「だ、誰だ!?」


 この場には女隊員はいない。そして、有栖の声でもない。

 そのため、聞こえてきた少女の声に隊長は銃口を向ける。

 

「初めまして。私は、魔法少女怪盗トルミと言います」


 窓際に立っていたのは、マジシャンのような格好をした少女。銃口を向けられているというのに、平然とした表情でつかつかと歩いてくる。


「止まれ!! まさか、あの魔法少女怪盗が来るとは……!」


 しかし、トルミは止まろうとしない。隊員達もいつでも取り押さえられるように構えているが、異様な雰囲気に中々動けないでいた。


「止まれと言っている!!」

「止まれません」

「なんだと?」


 すっと、向けられた銃口にステッキの先を重ねると、ぽふんっと気の抜ける音と共に、銃口から鮮やかな色の花達が出現した。


「なっ!?」

「あなた方は、そこで見ていてください」

「何をするつもりだ! おい!!」


 隊長の声など届いていないかのように、トルミはまるで生き物のように蠢く炎の中へと歩いていく。


「隊長……」

「いつでも動けるように準備だけはしておけ」


 いったいトルミが何をしようとしているのかはわからないが、準備だけはしておこうと、銃と手錠、魔力を高めておく。


「アァアッ……!」

「苦しいでしょう。悲しいでしょう。今、私が盗んであげます……その痛みを」

「だ、め! にげ……!」


 魔力が暴走して、炎が四方八方から襲ってくる。後ろで見ていた特殊警備隊が、声をあげるが、トルミは悠然とステッキを的確に炎へと向ける。


「なっ!? 炎が!?」


 ステッキで突かれた炎は、突然小さくなり、トルミは最小限の動きで、回避。そのまま苦しむ有栖へと近づいていく。


「あれが【弱体化魔法】……」

「なんて強力なんだ。あれだけの膨大な魔力が篭った炎を一瞬で小さくするとは」


 特殊警備隊が驚いている中、トルミは有栖と鼻の先までの距離まで近づいていた。


「と、トルミ……ちゃん……?」

「はい。魔法少女怪盗こと、トルミです。約束通り、あなたを苦しめる漆黒を盗みに参りました」


 とんっと有栖の体にステッキを押し付ける。

 すると、背中から翼のように溢れ出ていた炎が小さくなった。


「君、は……敵じゃ」

「もちろん。私は、この世界の味方。魔法少女の味方……ですから、信じてください。私は、あなたを救いたいんです」


 優しく、安堵をさせるために微笑みかけながら、トルミは有栖の顎をくいっと上げる。その真剣で、嘘偽りのない瞳を見て、言葉を聞いた有栖は、目を閉じる。


「ありがとうございます。そして……頂きます」

「んっ」

「なっ!?」

「おおおっ!?」


 噂だけでしか聞いていなかった特殊警備隊は、目の前で無垢な少女の唇が奪われる光景を目の当たりにして、思わず声を漏らしてしまう。


「んっ!?」


 びくん。有栖の体が跳ねる。

 舌だ。

 前回はなかった舌を入れられた。いったい何が起きているのか、今の有栖には理解できないが、ひとつだけ理解できることがあった。

 トルミにキスをされた瞬間から、徐々に苦しみが消えていき、体が温かく、安心できる何かに包まれていくのを。それは、舌を入れられた時に倍増する。

 意識をしているわけではないが、自然とトルミの舌と絡まるように動いてしまう。

 

(なにこれ……この前のと……全然、違う……)


 初めて味わうディープなキス。

 頭がぼーっとしてきて、トルミに全てを任せてしまっている。


「た、隊長……! こ、これはどうすれば……!?」

「お、落ち着くんだ。ここは、様子見だ……おい! 仕事中だぞ! 携帯電話を仕舞え!!」


 いったいどれだけの時間キスをしていただろう。

 息苦しいはずなのに、とても幸せな時間だった。

 トルミが離れていくと、唾液が糸となり、次第に切れる。


「これで、あなたを苦しめる漆黒は私が盗みました。これでまたあなたは、力強く、美しく、輝かくことができます」

「あ、う……」

「おっと」


 しかし、有栖は糸が切れた操り人形のようにぐったりと倒れる。

 それをトルミがゆっくりと床に寝かせた。


「さあ、怪盗は盗みを終えれば逃げなくてはならない。名残惜しいですが、退散させて頂きますよ」


 ばさぁ! とマントを翻し、後ろでなぜか撮影をしていた特殊警備隊に、わざわざ宣言する。

 

「ま、待て! 貴様を拘束」

「さらば!!」

 

 小さなボールを床に叩き付けると、視界を真っ白に染める閃光が満ちる。視界を奪われ、動けなくなっていたうちに……トルミは姿を消した。


「くそっ! 逃げられたか……」

「隊長。〈紅炎〉を!」

「ああ。救急隊員!! すぐに〈紅炎〉へ応急処置を!! 急ぐんだ!!」


 トルミを逃がしたのは、惜しいが、有栖が無事だったことに安堵し、後ろで控えていた救急隊員が有栖へと応急処置を施す。

 その後、病院へと搬送された有栖は、暴走により多くの魔力を消費したせいで、しばらくは目を覚まさないことがわかったが、不思議と眠る彼女の表情は……すっきりしたものだった。

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