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第九幕

「それで、話ってなに? 兄ちゃん」

 

 女の子らしい、とても可愛い部屋に案内された俺は、犬の絵がついた座布団に座り、有栖ちゃんと対面する。


「亜美ちゃんから聞いたよ。最近、調子が悪いそうじゃないか」

「……いやぁ、やっぱり心配してくれるんだね」

「当たり前だ。やっぱり、原因は魔法少女怪盗トルミか?」


 俺の問いに、有栖ちゃんは静かに首を縦に振る。


「私ね。自分のすごい力があるってわかってからは、この力でいっぱい人助けをしたいなぁってずっと思ってたの。見つけた犯罪者は全員捕まえて、魔物は全部倒して……でも、なんだかわからなくなちゃったんだ」

「わからなくなった?」


 うんっと頷き、有栖ちゃんは膝を抱えながら語り続ける。


「だって、トルミは私と同じ魔法少女を襲っている悪者だよ? だけど……全然悪者っぽくないっていうか。なんだかそんな風に見れないっていうか。この前だって」

「ん?」


 言葉が続かない。どうしたのかと思いきや、なぜか顔を赤くする。


「と、とにかく! あの子は、本当に悪者なのかなって。あの子は、私をどうしたいのかなって、ずーっと考えていたら、なんだか色々ともやもやしちゃって……」

「それで、調子が悪くなり始めたってことか」

「うん……」


 俺の失敗から始まったこと。あの時、欠片を取れていればこうはならなかった。確かに、意思の乱れで魔力や魔法がおかしくなることはあるが、有栖ちゃんにいたっては欠片が原因だ。

 都合のいいことに、欠片が取れるとその時の記憶が一緒に欠落するようなんだ。だからこそ、今までは俺の……魔法少女怪盗トルミのことは広まらなかった。

 毎回のように、他の魔法少女にも正体を堂々と明かしていたからな。なのに、ようやく広まったのは有栖ちゃんからだった。


「有栖ちゃんは、トルミが何をしようとしているのか、わかるか?」

「……わかんない」


 だよな。欠片のことを知らないから、ただただキスをしてくる変な魔法少女って思っているかもな。打ち明けたいけど……できない。

 有栖ちゃんだったら、体の中にそういう欠片があるからと話せば普通に理解してくれるかもしれない。けど、有栖ちゃんのファーストキスを奪ったトルミが、実は俺だったなんて知ったら……どうなるか。


「じゃあさ、さっき言いかけたことなんだけど」

「さ、さっき?」


 明らかに動揺している。

 多分、あの時の言葉だろうな。


「もしかして、引ったくり犯を追っていた時に、トルミと遭遇したんじゃないか?」

「な、なんでそれを!?」


 あっ、と口を塞ぐももう遅い。本当は、俺がトルミだからだというのは伏せて、もっともらしいことを有栖ちゃんに言う。


「だって、あの時の有栖ちゃんは明らかに変だったから。もしかしたらって思ったんだけど」

「……じ、実はね」


 恥ずかしいが、何か変わるかもしれないと有栖ちゃんは、頬を赤く染めながら答える。


「―――なるほど。……たぶんだけど、その言葉通りなんじゃないか?」

「言葉通り?」

「そう。有栖ちゃんがピンチになった時、助けるって意味だと俺は思うよ」

「つまり……あの子は、正義の味方?」

「俺は、少なくとも悪党ではないとは思う。だって、今までの魔法少女達だって怪我一つなく、ただ気を失っていただけ。もし、魔法少女の命とかを狙うんだったら、体中に重症を負ってはずだろ?」


 俺の言葉に、有栖ちゃんはそうだよね……と呟き、しばらく思考する。

 

「えへへ。じゃあ、仲良くなれるかな?」

「……」


 まさかそう返してくるとは。まあでも、有栖ちゃんらしいと言えばらしいけど。俺は、呆気に取られたがすぐに笑みを浮かべて、有栖ちゃんの頭を撫でる。


「ああ。仲良くなれるよ、有栖ちゃんならきっと」

「うん!」


 もうすでに仲良くなっているんだけどな。


(……だめか。全然変化がない。少しは悩みが消えただけじゃ、効果がないってことか)


 そうなると、やっぱり直接封印をかけて、欠片を取り出すしかないってことになる。

 待っていてくれ、有栖ちゃん。

 必ず魔神の策略から解放してやるからな。



・・・・・



「抵抗しないほうがいいよ。あなたはもう完全に包囲されてる!!」

「はっ! 魔法少女だがなんだが、知らねぇが、所詮はガキだろ? それに、俺の得意魔法は水! 知ってるぜ。お前が炎の魔法を得意としている〈紅炎〉だってな!」


 魔法少女の仕事は、主に魔法犯罪者や魔物の討伐。特殊警備隊と共に動くことがほとんどだが、単独で犯人を捕らえる者も居る。

 その場合は、魔力の流れを阻害する術式を組み込んだ特殊手錠をいくつか配布する。

 それを取り付けられると、魔力を練ることができず、魔法を使うことができなくなる。特殊警備隊全員は、一人ひとつずつは必ず所持しており、魔法犯罪を犯した者を確保した時に、素早くかける訓練も受けている。


「へぇ、おじさん。水魔法が得意なんだ」


 そんな特殊警備隊と有栖はチームを組み、現在銀行強盗をした犯罪者集団の一人を廃ビルまで追い詰めていた。外では、いつでも突撃できるように十数人の特殊警備隊が配置されている。

 

「おうよ! 銀行強盗の時は、金が濡れるってんで、俺の魔法は使わなかったが……てめぇがあの〈紅炎〉ってんなら、俺の出番ってわけだぁ!!」


 刹那。

 魔力が高まり、男の周囲にいくつもの水の球体が出現する。


「くらえやぁ!! 〈アクア・バレット〉!!!」


 水の球体を飛ばす初級魔法。

 数にして、八つ。

 普通ならば、四つも生成できればいいところ。そのため、確かに男は水魔法が得意というだけはあるようだ。しかし、発動したのは初級魔法。

 

「言っておくけど、おじさん」

「なっ!?」

「これぐらいの魔法だったら、炎を使わなくても対処できるんだよ?」


 魔法少女たる有栖には、ただの水遊び。

 炎を使わず、魔力を纏った刃で、自分に飛んできた水の球体を全て切り刻む。一瞬、動揺を見せた男だったが、すぐに魔力を練り直し、更なる魔法を発動する。

 

「舐めんじゃねぇぞ、ガキぃ!!」


 男の頭上に現れた水色の魔法陣。

 そこから出現したのは、水で生成された……竜。


「〈アクア・ドラゴニア〉!!!」


 水で生成した竜にて相手を襲う、水の上級魔法。魔力操作により自由自在に操れ、岩をも砕く威力を発揮する高密度の水魔法。

 

「それがおじさんの最大魔法だね!! じゃあ……」


 にやりと笑みを浮かべ、有栖は刀の刃へ紅の炎を纏わせ、上段に構える。


「はっはっはっは!! 炎が水に勝てるかよ!!」


 常識ならばそうだろう。

 しかし、これは魔法。

 常識に囚われないからこそ、魔法。そして、有栖の炎は普通の炎じゃない。


「〈ブレイジング・ブレード〉!!!」


 真っ直ぐ有栖へと突き進む水の竜を一刀両断。

 一瞬にして、水は蒸発し、熱湯が男の体にかかる。


「あつっ!?」

「ほいっと」

「ぐえ!?」

 

 最後に、みね打ちにて男を気絶させ、終了。


(……うん。なんだか調子が戻ってきたかも。これも兄ちゃんのおかげかな)

「〈紅炎〉!」


 今までの不調は、なんだったのかというぐらいに魔法もしっかり発動できている。男が気絶したと同時に、特殊警備隊も突撃し、男へ手錠をかけ、連行していく。


「お疲れ様! 他の犯人は?」

「我々で、確保しました。この男で最後になります。お疲れ様でした〈紅炎〉殿。この前の不調が嘘のようですね」

「えへへ。調子も戻ったし、これからはもっともっと働くよ!」


 有栖の明るく、太陽のような笑顔は、特殊警備隊の隊員達を照らし、元気を与えてくれる。この前までは、調子が悪く無理な笑顔をしていたため、隊員達も心配をしていたが、これでもう大丈夫だろうと安堵している。


「ですが、無理はしないように。我々も全力でサポートをしますので」

「はーい! ……あ、れ?」


 いつものように犯罪者を捕らえ、元気に挨拶し、そのままクレープ屋へ。そう思っていた有栖の視界が、急に霞む。

 体中から何かが弾けそうな、体を蝕もうとしているような、異様な感じが急に襲う。


「では、我々は……〈紅炎〉殿?」


 手錠をかけた隊員が、立ち去ろうとしたところで有栖の異変に気づく。それに釣られ、女隊員の一人が心配して有栖へと近づいていくが。


「な、に……これ……あぐっ!?」

「〈紅炎〉さん? どうかし―――ひっ!?」


 女隊員が有栖の肩に触れようとする。が、体から紅の炎が溢れ出し、阻害してしまった。


「〈紅炎〉殿!! どうかされましたか!?」


 やはりまだ不調だったのか? 魔力が、魔法が暴走している。大きくなる前に、抑えなくてはと隊員の一人が特殊手錠を手に、有栖へと駆ける。


「だ、め……ちか、づかない……アアアアアアアアッ!?」

「うわああ!?」


 しかし、時すでに遅し。

 まるで爆発するかのように、有栖から紅の炎が出現し、近づいた隊員を弾き飛ばす。


(なに、これ。熱い……なんで……!)


 炎の魔法を得意とする有栖にとって炎は友達のようなもの。こんなにも自分の炎で熱く感じることなど生まれて初めての経験だ。

 魔力の暴走? でもなんで、こんなにも急に? さっきまで調子はよかった。それがどうして……頭の中で、思考するも意味がわからない。

 メディカルチェックでも、体に異常はないと判断されていたのに。


「皆……逃げて……!」


 せめて、皆を逃がすために抑えないと。必死に、近くに残っている隊員達に逃げるようにと伝えるが、彼らは逃げようとしない。


「総員! 〈紅炎〉を救助せよ!! 原因はわからないが、彼女は魔力が暴走している! なんとか特殊手錠をかけて、魔力の暴走を抑えるんだ!!」

《了解!!》

「だめ……これは……」


 ただの暴走じゃない。よくわからないが、有栖には理解できた。

 これは、何か異常な力が関与している。

 確かに、普通の魔力暴走ならば魔力の流れを阻害する特殊手錠をかければ、なんとかなるだろう。しかし、この暴走はそれだけでは。


(なんとか、しないと……! なんとか……!!)


 でないと、特殊警備隊の隊員全員を……殺してしまう。

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