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大学生になった僕の現在

僕の名前は遠藤達也。高校3年まで医学部を目指していた。なんでかは分からないが、昔から病気で苦しむ人とか何か理不尽なことに苦しむ人を放っておけなくて、ついつい助けたくなってしまう癖があった。それがいつからかは思い出せないが、とにかくそういう理由で医学部を目指していた。が、さずが医学部。一筋縄にはいかなかった。もともと勉強なんてできる方でもなかったから最初から理想ばかり先行していたのかもしれない。


2浪してついに3浪に突入した頃、世界に衝撃が走る事件が起きた。日本の東京湾の海岸にある千葉県立幕張海浜公園に突如として巨大な大穴が出現した。世界でも前例がなく、日本政府が独自に調査を進めたところ、どうやらその穴の向こうには、地球とは異なる文明を発達させた世界が存在するらしい、ということが分かってきた。政府はその大穴が日本にもたらすであろう利権を考慮し、全国の大学機関にもこの大穴の中の世界の調査を依頼した。しかし、むやみな調査は現地との交流を妨げることにもなりかねない。そこで名乗りを上げたのがこの大穴から一番近くにあった国立大学、千葉大学だった。


千葉大は新しい学部「異世界調査探求学部」を新たに新設し、これを拠点として全国から教授と学生を募ることにしたわけだが、折しもまだ受験生だった僕はこの話に食いついた。3浪目にして医学部を半ばあきらめかけていた僕にとって、この話はまさに偶然がもたらした産物であったが、不思議と運命のようなものを感じずにはいられなかった。当然、目新しい学部であるし、他に類を見ないことが研究できるので、全国どころか世界中から受験者が殺到した。ただ、政府が異世界調査をするにあたって、その中の情報がほとんど世間に公表されなかったので、ある程度覚悟をもって受験する必要はあった。が、それでも、多くの受験者が進路を変更して、異世界ロマンスを目指したのだった。


医学部受験を3回も経験していた僕は、現役の高校生に比べればかなりアドバンテージがあったが、それでも油断せずに本番まで勉強を続けた。そして4回目の受験で過去最高点をたたき出し、無事に千葉大学異世界調査研究学部に入ることができたのだった。


しかし、大変なのはそこからだった。入学できたのは良かったが、いきなり異世界へご招待!というわけにはいかなかった。異世界へ行くチャンスは入学できた学生からさらに選抜された者しか得ることができなかったからだ。それは「異世界留学プロジェクト」という名の現地調査である。それを知った僕は、向こうの世界を調査するにあたって役立つであろう知識をありったけ頭の中に詰め込んで、さらに異世界言語も勉強した(地球のように多数の言語が存在するかは不明だが、少なくとも大穴がつながっている地域の言葉は政府が解読していた)。サークル活動に参加することもなく、毎日黙々と留学に備えていた。


それでも、たまにひと肌恋しくなるときもあって、今日は同窓会で再開した友達と飲みに来ていた。同級生はすでに大学4年生になり今まさに就活の真っ最中だろう。高校や専門学校を卒業後すぐに働き出した同級生はもう立派な社会人だ。


「それでは再会を祝して乾杯!」


今日はいわゆるクラス会というやつで確か小学生の頃同じクラスだった人が集まっている。僕は実家を出て千葉で一人暮らしをしだしたので、最近の彼らの動向は全く把握できていない。sns を見ていれば誰それさんが結婚しましたよ~みたいな浮いた話も分かるんだろうけど、めんどうなのでやっていない。


「達也もだいぶ丸くなったよね~。昔はも~っとむすっとしててさ。すごく近寄りがたかったもん」

「まああれだよ、黒歴史ってやつだ」


隣にいた女の子が話しかけてきた。名前は確か・・・さくらだっけ。昔はもっとおとなしい感じの女の子だと思っていたけれど、そんな気配は消え失せて今ではずいぶんおしゃれもするし色っぽくなった。きっと大人の階段を上ったのだろう。


「あ、そうそう、黒歴史って言えばさ。達也くん覚えてる?小学生の頃さ、朝の会で日直が1分間スピーチするやつあったでしょ。あれで達也がさ・・・僕は魔法が使えますって言ったことあるんだよ」

「・・・・まじで?」

「うん。まじで。で、一体何をするんだろうと思ってみてみたらさ、壊れたおもちゃを取り出して、今からこれを魔法で直します、なんて言って」

「・・・・それで、僕はどうしたわけ?」

「うん。そのおもちゃに手をかざして何かつぶやいてたんだけど、結局何も起きなかったんだよね。で、達也くん号泣。クラスのみんな大爆笑」

「・・・・まじか」

「うん。今だから言えるけどね~、当時はその話題持ち出すと達也くん血相変えて怒ったからさ。みんなもそのうち気を使って何も言わなくなったんだよ」

「そんなことすっかり忘れてた」

「だろうね。あんなこといちいち思い出してたら、恥ずかしすぎて生きていけないもの」

「・・・・ひどい言い草だね」

「なんであんなこと達也くん言ったのかな~。その前に、しばらく学校来てないときがあったけど、それと何か関係してたりするの?」

「それって僕が神隠しにあってたってやつ?」

「そうそれそれ。達也くんが家に帰らないって警察も捜索してさ。結局その辺の公園にいたらしいけど。謎すぎるわ~」

「当時の僕に聞いてみないことには分からないよ。ていうか、よくそんなこと覚えてたね。他人のことってそんなに覚えてるもんなの」

「いや達也くんは少し特殊だったし、それに・・・まあこれは今は関係ないけど」

「なんの話?」

「ううん、なんでもない。あのときもにぶちんだったけど、今も変わってないよね~って話」

「なんだそりゃ」


こんなたわいもない話でも、いつも勉強漬けの僕にとってはよい気分転換になる。神隠しの話は両親から聞かされていたが、小さいころ1週間くらい僕が消息不明になって、ある日突然近所の公園に出現したらしい。どういう理屈かは分からないが、まあ理屈が分からないから神隠しとか言われてるんだろう。それにしても魔法って・・・。高校生で中二病を拗らせるやつもいるというし、小学生で中二病になるやつがいても不思議ではないだろうが、それが自分だとはどうしても思いなくない。やはり黒歴史だ。


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