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思いがけない不運

異変に気が付いたのは、台所のある居間に入った直後だった。何かがいる。直感的にそう思った。それは・・・台所のそばにまとめられていた生ごみにむしゃぶりついていた。それは、犬というにはあまりにも黒々としていた。しかも、この家にいた犬の3倍はありそうな大きさだ。それは、僕たちに気が付つくと、勢いよくこちらに走ってきた。どう見ても友好的な雰囲気ではない!


「んぐゎがーーー!!!」

「に、にげ・・・!」「なんで魔犬が・・・・・!」


生ごみをまき散らしながらこちらに向かってくる。どう考えても僕たちの足の速さでは追いつかれてしまう。


「くそ・・・!」「キャーーーーーー!」


こんなところで死ぬのかな・・・。やり残したことだっていっぱいあったのに・・・。

アンナとだって友達に・・・。  


僕らが死を覚悟したとき、玄関からこちらに向かって何かが入れ違いに通りすぎた。それは、あのおとなしく僕を見ていた犬だった。飼い主のピンチを察して言いつけを破り、家の中に入ったのだ。


「うぉおおおん!」


野犬に向かって勢いよく吠えると、そのままの勢いで2匹の犬がぶつかった。そのまま取っ組み合いの喧嘩のようになるが、明らかに体格で劣っているアンナの犬の方が不利だ。何とか劣勢を覆そうとするが、野犬に喉元を噛みちぎられる。


「ジャン!!!」


アンナが叫ぶ。どうやらジャンというらしいその犬は、最後の力を振り絞って、喉元に食いついた野犬の目に向かって、隠していた爪を思いっきり刺した。


「うぐぅぅぅ」


急に視力を半分奪われた野犬は驚いてジャンを解放し、割れた窓ガラスから外へと逃げた。

残されたジャンは僕らの方を少し見た後、力尽きたようにその場でぐったりと倒れこんだ。その後、ピクリとも動かなくなった。


「ジャン!しっかりして!ジャン!・・・・なんでよ・・・どうしていつもこうなるのよ!」

「あ・・・・・」


アンナは必死に何度もジャンに呼びかけているけど、僕は何も言葉を発することができなかった。前にも交通事故で野生の動物が死んでしまうといったニュースを他人事のように見たことがあったし、道路に残った動物の死骸を見たこともある。けど、さっきまでこちらを穏やかに見つめていた瞳が、その色を失ってゆく過程を見たことはこれが初めてだった。それはあまりにも残酷な事実だった。


(こんなことあっていいはずない。僕は絶対に認めない・・・!)


僕は静かに決意を固め、止まった思考が動き出すように、血だらけのジャンを抱きしめ泣きじゃくるアンナに向かって歩き出す。もうすでに、イメージは出来上がっていた。あとはそれを実現するだけだ。できるかどうかなんて知ったことか。やるしかないんだ。


「え、ちょっと・・・なにを・・・?」


僕は、アンナが僕にしてくれたように、ジャンに向かって両手を広げた。その姿勢のまま、治癒魔法のイメージを脳内で展開していく。少しずつだが、ジャンの全身が光に包まれていく。


(まだ全然足りない・・・。もっと・・・もっとだ・・・!)


傷を治癒するイメージからさらに、次元を上げるイメージで手に力を込めた。春に生命が誕生するような、生命の息吹が吹き荒れるようなイメージ。そして、死神さえも胡散霧消するような、輝く生命の鼓動。それらのイメージ全てを自分の両手から放たれる何かの流れに込めて、ありったけをジャン流し込んだ。




・・・・・・死なないでくれ。ジャン。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「これは・・・・まさかそんなことが・・・!?」


眩しすぎて太陽を直視することができないくらいに、ジャンの身体は輝きをまとっていた。そして、ついに限界を迎えた僕が最後の力を出し切った頃には、ゆっくりとその光は収束していった。そして、一度は死んだはずのジャンが無傷の状態で息を吹き返したのだった。


「この魔法は・・・治癒系統の魔法の中でも最上位に数えられている死者蘇生だわ。タツヤあなた一体・・・・ってタ、タツヤ!」


僕はとうとう立っていられなくなり、倒れそうになったところをアンナに抱きとめられた。


「タツヤ・・・あなたとならもしかすると・・・」


アンナがまだ何か言っているのが聞こえたが、最後まで聞き終わらずに、僕の意識はそこで途切れた。


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