第3話:愚かしいモノ
愚痴を言いながらも後を追ってくるヴィルトと共に民家を出る。
どうやら幻影どもはうまくやってくれたらしいな、聞こえてくる爆音から判断すると……そう近い場所にいるわけではなさそうだ。
「それで、いったい何者とやってんだ?」
「魔物のようでいて魔物でない、だが見たこともない化け物。つまり馬鹿だ」
「はぁ? お前の馬鹿は魔人からその辺の虫まで全部を指すじゃねえか、ちゃんと説明しろ!」
ふむ、聞こえてくる爆音から相手が弱くないと考えたのか? ヴィルトが珍しく焦っている。
そう言っている間にも爆音は轟く。断続的に続くが魔力切れでも起こさないのか?
感じる魔力は2つ、幻影が一つ掻き消されてしまったみたいだな。いくら影でも魔力を与えている以上あの爆発で消されてしまうのか。
しかしまだ二つ残っている、奴はそれを追っているのか……それとも影だと気づいてこっちに向かってくるだろうか。
うるさく吠え続けるヴィルトを無視し、民家の前で様子を探っていると音が止んだ。だが幻影は残っている……諦めたのか?
「おい、何だこの音は!?」
音――何も聞こえないがヴィルトには聞こえているのか? 人には聞こえない類の物なんだろうか。
「何も聞こえないぞ、どんな音だ?」
「どんなって……こんなでかい音が聞こえないのかお前は、何かを吸い込んでる様な音がするだろう!」
吸い込む音……もしそれがあの爆発に関係するなら、何か危険な攻撃の前兆だろうか。今まで連続して爆発するときにはヴィルトが反応しなかった……つまり次にでかいのが来るのか!?
慌ててヴィルトを蹴り飛ばし自らも飛び上がる。
「げふっ、なにしやがる!」
7メートルほど蹴り飛ばされたにもかかわらず器用に足から着地し文句を言ってくる、煩いやつだ。
睨みながらこっちへ歩いてこようとヴィルトが足を踏み出した瞬間、今までのものとは比べるまでもない程太い光線が先ほどまで私たちが立っていたところを貫いた。
爆発しないところを見ると今度は貫通性と破壊力を重視したのだろうか、しかしその威力はすさまじい。奴がいる場所から街の外、山の麓までが何も残らず焼けている。
あんなものまで使えるのか……魔力反応が消えたということは二つの幻影を同時に掻き消し、こちらを狙う事が出来るだけの自信があの術にはあるのだろう。
「おい犬、あそこにいるのが例の馬鹿だ。できれば生きたまま捕まえたいんだが私では殺してしまいかねんのでな……お前が捕まえろ」
「……一人でか?」
「一匹でだ」
「少しくらい手伝え! それにちゃんと報酬を――」
「わかってるわかってる、いいから手早くやれ」
ヴィルトが言い終わる前に答える、毎回同じことを聞いてくるからな。報酬は牛肉だが。
多少渋りながらもオルガとかいう奴に向って走り出す、獣特有のしなやかな動きであっという間に間合いを詰める。
奴もヴィルトの存在に気づいたのか光線を連射してくるが掠りもしない。上体を起こし右腕から光線を打ち続けているせいか移動する様子はないみたいだな。
慌てて四足歩行に戻ろうと腕を地につけるがもう遅い、その瞬間にはヴィルトがその鋭利な爪を振り下そうとしている。体勢を崩しながらもなんとか回避に成功したオルガは距離を取ろうと動き出す。その時にもヴィルトは地を蹴り壁を蹴り、逃げることを許さず襲いかかる。
『糞犬がぁぁぁ、煩いんだよ!』
オルガが吠え腕を振るう、今まで光線でしか攻撃していなかったせいかヴィルトは避ける事も出来ずに吹き飛ばされる。今日はよく吹き飛ばされるな。
「はっ、少しはやるじゃねぇか」
ヴィルトの顔は笑っている、久しぶりに戦えるのが嬉しいんだろう。体から魔力が溢れ銀色の毛皮が燐光を放つ、少し本気になったという事か。
先ほどとは違い、残像を残して移動するヴィルト。巧みに軌道を変え接近する姿は疾風の如く、振り上げた爪は今度こそオルガの体を捉えた。
鋼同士を叩きつけた様な音が響き、衝撃でオルガが吹き飛んだ。吹き飛ばしたヴィルトは満足げに立っている。
「終わったぞ、早く肉をくれ」
しっぽを振りながら歩いてくるヴィルトに警戒している様子はない、確実に仕留めたのだろう。
「ここに肉はない、奴を塔に持ち帰ってからだ」
とにかく奴を回収しなければ、拘束と浮遊の魔法をかけようと奴の方を見る。地に横たわっているが何か違和感を覚える、しかしその違和感の正体はすぐにわかった。光っているのだ、奴の左腕が。
まるで空気中の魔力を吸い込むかのように、光の粒子が腕に吸収されていく。
「っ避けろ!」
ヴィルトも例の音とやらに気付いたのか慌てて奴の側面に移動する、私もヴィルトの反対側に転移した。自身を転移させるのは例え数メートルでも消費する魔力が多い、町一つを消し去る魔法と同程度かそれ以上だろう。
私たちが避けたすぐ後に、例の太い光線が発射された。その光線はすべてを焼きながら直進し、その先にある塔の上半分を消し去ると空に消えた。
「と、塔が……」
あの愚図が……よくも私の塔を!
「に、肉が……」
ヴィルトも塔の消失=肉の消失と考えたのか目に怒りの色が浮かんでいる。
『ひゃはははは、避けられたけどあの塔は大事だったみたいだな。ざまーみろ!』
許さん。
「ヴィルト、もういい。消すぞ」
「……ああ」
お互いに奴を許すことはできないようだ、考えることは一つ。
あの愚かものに罰を。
足下に魔法陣を展開、思い浮かべるのは究極の破壊。崩れ落ちる相手の姿。
膨れ上がる魔力を望む姿に変換する。糸のように細いその流れを織り上げ、望む姿を作り出す。
望むは業火、全てを焼くつくす怒りの紅。
思いを名に込め魔法を開放する。
「煉獄」
「がぁぁぁ!」
私の呪文と同時に上がる怒りの咆哮。見るとヴィルトの口からも火球が打ち出されていた。
『なっ何だよこれ……』
オルガの馬鹿は私たちから感じた魔力に怯えたのか、それとも魔法に恐怖したのかは知らないがその場から動けずにいる。
――結果、奴は悲鳴を上げることも許されず二つの炎によって瞬時に塵も残さず焼かれる。
私に害をなすモノは全て消す、例え珍しい研究材料でも――神であっても。
どうもこんにちわ、狭間です。悲しみをよんでいただきありがとうございます。これから作品をもっとよくするため、よろしければアドバイスをお願いします。更新頑張りますので、これからも悲しみをよろしくお願いします。