第2話:破壊せしモノ
町の上空に着いたが……これはいったいどういう事だ?
塔で炎を確認してからここまで飛んできたのだ、時間にして数分しかたっていないはず。なのに町はもう壊滅状態。
並みの魔法使いならこうはいかない、最低でも魔導士レベルのやつがいる。
だが何故だ、こんな辺境の町に……特に目ぼしい物はない筈だ。確かに海が山の向こう側にあるからそちら側から攻めるのは簡単だろう、だがそれだけだ。攻め落としてもたいした意味がない――ちょっとは国を攻めやすくなるかも知れんが。
しかし妙だ……塔から炎を見た時も今も、いたるところで何かが爆発しているのに魔力が感じられない。時折町の一角に光線が見えるのだからあの爆発が火薬によるものではないだろう。
こんな技術を私は知らない、私が塔に籠っている間に開発されたのだろうか、だとしたら相当厄介だな。
とにかく相手を探さねば、幸いにも爆発が起こっている所へ向かって光線が発されているのが見える。爆発点が複数あるが光線は全て同じ所から発されている。馬鹿め、せっかく魔力を感じられないのにその技術が無駄じゃないか。
発射点まで降下、攻撃に備えて障壁を展開。極力魔力の放出は抑えているがこちらの存在が気付かれていることを想定して動いたほうがいいだろう、負けはしないだろうが同じ勝ちなら一方的な勝利を。
発射点から見て民家の影になる位置に着地する。いまだに攻撃はないが気づいてないのだろうか。
民家の影から頭だけを出して様子を見るのが妥当だろう、そっと……そっとだ。
煙でうまく見えない、しかしあれは何だ? シルエットが人間じゃない。魔物か?
煙がはれてきた、だがあんな奴は見たことない。体表は金属的な甲殻に覆われていて、所々が光を反射し輝いているように見える。腕がこっちを向いているがあれは――っ駄目だ! 腕に光が見えた瞬間、頭で考えるより早く体が動いていた。
魔法を展開して飛び上がる、さっきまでいた所に一筋の閃光が走り爆発。やはり魔力は感じられない、今のは流石に危なかった……少し頭に来たぞ。
「おい貴様! こんな町に何の用だ、誰に召喚されたのか答えろ」
あれだけの力だ、喋る事もできない下級悪魔ではないだろう。
『……召喚? 何のことだ、それよりもお前何者だよ』
頭に響いてくるような声、伝達系魔法の類だろうか。聞きにくい。
「聞いているのは私だ、答えろ愚図」
『偉そうに……オルガに一人で向かって来る馬鹿が』
オルガ、奴の名だろうか……召喚について分からないということは魔物では無いのだろうが人間にも見えない。それよりも私に向って馬鹿だと?この私に向って。
「よくわかった、お前が救いようのない馬鹿だということが。死なない程度に痛めつけて持ち帰り、生かさず殺さず調べまくってやろう」
『ふんっオルガに敵うと思って……っ!』
右手に魔力を集中させて腕を一振り、低位の魔法だが発動が早い火球を飛ばす。私くらいの実力者ともなればこのレベルの魔法くらい詠唱せずとも発動できる、長々と敵の前で話しているほうが悪いのだ。
あわてた様子で回避する馬鹿。
「避けるな馬鹿、私が無駄に魔力を消費するだろう」
『この小娘がぁぁぁ、調子に乗るなぁぁぁ!』
流石に怒ったか、先ほどまでとは違い高速での移動を開始した。四足を活かした移動法でこちらに近づいてくるが光線を撃ってこないのは何故だろうか、何かを狙いがあるのか?
だったらそれを引きずり出せばいい、しかしそれには準備がいる。そのために……まず幻影を作成、3体も出せば十分か。時間を稼ぐためそれら全てに障壁を展開、もちろん私自身にはそれよりも強力なやつを展開する。
幻影を目立つように飛ばして相手の目を引く、その間に私は民家に隠れて準備は終わりだ。
足もとに魔法陣を展開、魔力が漏れるが幻影の障壁からも魔力が漏れているから大丈夫だろう。意識を集中させイメージする、望む相手の姿を、その力を。そしてあとは呼ぶだけ。
「ヴィルト」
その言葉が起因となって魔法が発動する、言葉に乗せた魔力が相手を呼び出す。今となっては禁忌とされる召喚魔法、それは悪魔というものを呼び出すもの、一歩間違えれば自らが悪魔に食われる危険なもの。無論私にとっては簡単すぎるくらいだが。
魔法陣からゆっくりとその姿を現す、毛皮に覆われたその姿は狼に似ているが力は全くと言っていいほど違っている。
「遅いぞ犬」
「なっ久しぶりに召喚したと思ったらいきなりそれか!?」
まったく口だけは立派だな、今度じっくり躾けねば。
まあいい、今はこいつを使って小生意気な奴を捕まえることが優先だろう。
さあ、ゲームの始まりだ。
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