プロローグ-3
町から町を数年毎に移り住む暮らしにも慣れてきた。
一つの町に長い間住んでいれば住民に容姿のことで怪しまれてしまうし……なにより私が他人と深い付き合いをすることに不安を感じていた、どれだけ優しい人に見えても最後には私を避けていくことを知ってしまったから。
長くて十年、短ければ五年で町から出る。
そしてわかったことが一つある。
私が人ではなくなってしまったという事だ。
もう六十年以上生きているのに容姿は少女のままである、そして体内の魔力が常人のそれとを遥かに凌駕しているのだ。
そして肉体的きにも変化が起きた。
――瞳がだんだんと紅くなったのだ。最初は茶色だった瞳がだんだんとオレンジに、数年前には完璧な緋色になった。
もう諦めている、この体は人のものではない。
私は化け物なのだ。
国の南方に位置する町に住んでいる時の事だった。
そろそろこの町から出て次の町へ行こうというときに国が大きな学園を作るという話を聞いた。普通の学園ではない、魔法を専門に教えるという今までにないものだった。
もともと魔力を持つものが少ないのでそのような学園を作っても意味がないといわれてきたのだが、今になって何故国が作ったのか疑問に思った。
しかし私自身は力のコントロールができないし、行くところもないので暇つぶしにと学園へ入ることにした。
学園に入るためには難しい学力テストと魔力量検査に合格しなければならなかったが、長年生きている私には簡単なものだった。
そこで私は魔法のいろはを学んだ。基本的なものから禁忌といわれた悪魔召喚まで、身につけられるものは全て。
異常な魔力を持つ私は教員を含め学園の者たちから恐れられていたが、その中で一人だけ積極的に話しかけてくるものがいた。
学園長である彼は国の中に二人しかいない賢者と呼ばれる高位の魔導士であり、唯一私と同等の魔力を持つものだった。
彼は私の魔力を知っても避けずに褒め称えてくれた。その年でそれだけの魔力を持っているなんて凄いと……私の本当の年を知らないくせに。
最初は彼を拒んでいたものの、進級する頃には彼と打ち解けていた。学園では教えてくれない魔術も教えてもらったし、相談にも乗ってもらった。学園で彼の傍だけが心のよりどころだったのだ。
だが幸せは長く続かない。ある日彼の口からこんな言葉がこぼれたのだ。
「君は昔魔女と呼ばれた少女のことを知っているかい?」
背中に冷たい汗が流れた。彼はそのことを話しているとき笑っていたのだが、ずっと私の目を見ていた。
知っていると思った、ここにいては殺されてしまう。
やはり他人は信じられないのだ。すでに魔法のことは学んだからここに用はない。
私は全てのお金で魔導書と呼ばれる魔法のことが書かれた本を買いあさり、学園に退学届けを出すと学園を飛び出した。
そして国の外れにある森の奥地へ行くと、魔導を用いて塔を建てて住み始めた。ここなら人と触れ合わずに生きていけると考えたからだ。
後にその塔はこう呼ばれることになる。
「悪魔の塔」と。
読んでくださりありがとうございます、やっとプロローグ終了しました。
次回から本編が始まります。