プロローグ-2
ベッドの上で寝付くこともできず、泣きながら横になっていると窓から朝日が差し込んできた。
あぁ、私は捨てられたんだ。
自然とその言葉が頭に浮かんだ、枯れかけていた涙がぶわっとあふれ出てくる。
私はこれからどうなってしまうのだろうか。このまま死んでしまうの? それとも孤児院に入れられてしまうの?
様々な憶測が頭の中を埋め尽くす。
孤児院は嫌だ、あそこは知らない子が沢山いるし変な人に売られてしまうって噂も聞いた。それに……あそこは汚くてみすぼらしい。それならばこのまま死んだほうがましだ。そう思って私は目を閉じる。
諦めてしまったからなのか、今度は直ぐに眠気がやってきた。このまま寝てしまえば天国にいけるのだろうか、天国という言葉に少しの不安と大きな安らぎを感じ私は意識を闇へと沈めようとした。
「トリスちゃん? トリス……トリスティン! 確りおし、死んではだめだよ!」
不意に掛けられた言葉にびっくりして体が震えた、それに伴い意識が強制的に覚醒させられる。
この家には誰もいないはずなのに、そう思って声の元を見ると隣の家に住むおば様が目に涙を浮かべて私を見下ろしていた。
でも何故ここにいるの? そう問いかけようとしたとき、私は彼女に抱きしめられた。驚いて抵抗しようとしたが体に力が入らずそれはかなわなかった。
後で聞いた話によると父様は何の連絡も為しに仕事を休み、母様はおば様と前から約束していたお茶会に来なかった。なのに家の中から光が漏れていることに気付き、不安に思って様子を見に来たのだという。その時に家の中がめちゃくちゃになり――私が父様たちを探すときにやったのだが、私が目を赤く腫らせて寝ていたのを見つけたのだという。そのとき私は「天国に……」とうわごとを言っていたらしく、おば様はとても慌てたのだとか。
それから私はおば様に一部始終を話した。するとおば様は町の人たちに相談し、町の住民総出で父様たちを探してくれた……結果を言えば父様たちは見つからなかったのだが、街の人たちに励まされ私は次第に元気を取り戻していった。
それから数年が経ち、私も独りで生きていけるほどに回復していた。
あれからおば様に助けられて生活していた私だが、家の財産はかなりの額があったため働かなくても生活できていたのだ。
ただ変わったことが一つだけある。いや、変わらないといったほうが正しいのだろうか。
――身長も、見た目も。お医者様は精神的なショックからくるものだから心が癒えれば成長も戻るといっていた。
最初は皆ずっと若くていいじゃないと笑っていたが、さらに数年、十数年と経っても容姿が変わらない私を見る目は明らかに私を気味悪がっていた。
そして一つの噂が立つ。少し離れた所にある町の住民全員が変死した事件が起こったのだが、その犯人が私だというのである。
トリスティア=マルールは人の精気を奪って若さを保つ魔女であると。
確かに私は両親の一見以来異常な量の魔力が体の中に渦巻いているのを感じたが人前でそれを使ったことはなかった。なにより人から精気を奪う魔法なんて使えないのである。
しかし町の人々は噂を信じ始めてしまう。噂を耳にしてから一年も経つと、誰も私と眼を合わせなくなった。
耐えられなかった、私は家や必要なもの以外を全て売り払って街を出た。もうここに居られない、ここに居たら私は邪悪な魔女として処刑されてしまったのだと思う。
門の所で一度町に深々と頭を下げ歩き出した。もうここには戻れない、逃げているだけかもしれないけどかまわなかった。
もう、何かを失うのだけは嫌だったから。