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第14話:誘惑に負けしモノ

今回は長いです

 オルガの素材について調べていてわかったことが二つある。

 一つ目は絶対に魔法が効かないというわけではない事、たとえば魔法で水の塊を『作り出した』場合その水は例の鉱石に触れた瞬間消えてしまう。しかしこの間知った魔法で『呼び出した』水は消えなかった。最も形を維持することは出来ずに崩れ落ちてしまったがな。ここから推測できるのはこの鉱石が魔法自体を吸収・拡散しているのではないという事、たぶん魔力を対象から吸い上げて取り込むか放出しているのだろう。

 二つ目に吸い込める量に限界があるという事、ただの火球なら何発撃ちこんでも焦げ目がつくだけだが中級魔法である煉獄(クリムゾン)なら後も残さず焼き切れる……これではわかりにくいか、魔力を数値にたとえると魔力を10こめた火球をどれだけ撃ち込んでもだめだが魔力を100こめた呪文なら無効化できないという事。この限界量は鉱石の質によるらしい、高位のオルガは上位呪文すら無効化するという話だ。


 つまり奴らに対して有効な攻撃法は相手の魔力拡散能力の限界を越える魔力を込めた魔法をぶち込むか、魔法で何かを呼び出し間接的にダメージを与えるかのどちらかという事だろう。後者はあまり巨大なダメージが期待できないし、何よりそんな回りくどい方法は好かん。残された選択肢は一つだ。


 圧倒的な私の魔力(ちから)でオルガをねじ伏せる。


 だがそのためにはあの鉱石をどうにかしなければ……あの刃が出てくるオルガに乗っていた青年が生きていたのも雹衣の魔力が多少拡散されていたからだった様だし、くそっあの時に気づいているべきだった。

 鉱石を無効化するために様々な呪文や薬品を試してみたが未だに有効な手は見つかっていない、強力な酸をかけても融けないなんてふざけている!

 すでにこの研究室にこもり始めて一週間、研究材料としてオルガの一部を何個か駄目にしてしまい残るは4個だ。研究は進まないしイライラする。

「失礼します」

 ノックもせずに入ってきたのはビビ、トーマスの子供でここに来てから世話をしてくれている娘だ。

「どうです、研究は進みましたか?」

 紅茶を出しながらそう聞いて来る彼女に嫌みを言っている自覚はないのだろうがその笑顔に呪いをかけたくなる。

「散歩に行ってきます、それとテーブルに置いてあるものは触らないでください」

 このままここにいたら研究所ごと怒りを爆発させてしまいそうだ、そんな事をしたら満足な研究も出来なくなってしまうからな。


 しかし外に出たはいいが相変わらず凄い霧だ、トーマスの話によると海にすんでいる大型の魔物が霧を作り出しているらしい。私には関係ないから無視しているが外出するたびに体が濡れるのは嫌だ、面倒だが駆除した方がいいか。

 それとこの町の特産物は甘い果汁が特徴のシュクレという果実があり、それで作ったケーキをビビに食わせてもらったがなかなかの美味だった。帰ったら焼いてもらおう。

 ぶらぶらと町を歩いていると果物屋にシュクレが無いのに気づいた、あれは一年を通して採れると聞いていたがどうしたんだ?

「すいません、シュクレが欲しいのですが……」

「おや、この間この町にきた娘さんだね。悪いけどシュクレは品切れだよ、海の化け物がシュクレの農園へ行く道で暴れててな……誰も取りに行けないんだよ」

 何という事だ……つまりこのままではシュクレが手に入らなくて激甘ケーキも激甘ドリンクもダメという事か。そんなバカなことがあってたまるか! 急いで研究所に帰ってビビに問いただす。

「ビビ! シュクレはまだあるのか!?」

「え、トリスさんどうかしたのですか? 口調がいつもと違いますが」

「そんな事はどうでもいい、あるのかないのかはっきりしろ!」

「無いです!」

 いかんいかん、つい猫を被るのを忘れてしまった。ええい、だが自体は一刻を争う、私のストレスを和らげてくれる甘いものがかかっているのだ。

 このフォローは後ですればいい、町を走って門の所まで行く。門兵に止められたが頭に触れると同時に魔力を流し込み気絶させる、町の外に出た瞬間――飛翔した。

 目的地は海沿いにある農園、あそこにあるシュクレの実を持ち帰ればケーキが食えるんだ。そのためなら魔物なんて蹴散らして見せよう!

 そんなに離れているわけでもないのですぐに農場へ着いた、飛んでいるときは体の前面に風を起こしていたので霧で体が濡れることはない。


 霧でぬれたのか露が滴る桃色の果実を発見、これが激甘(しあわせ)の実か。とりあえず20個もあれば十分だろう、持ってきたバックに入れて餅に戻ろうとしたときに声が聞こえた。


「ナニモノダ」


 聞こえた方向に顔を向けると、そこには霧に包まれ全貌が見えない巨体があった。こいつが例の魔物だろうか、海から上半身だけを出している様に見えるがそれだけで10メートルはあるように見える。

「気にしなくていい、この実を採りに来ただけだ」

 あいつも何か理由があってここにいるなら私に手を出すこともないだろう、黙って立ち去ればそれでおしまいだ。

 奴に背を向けて町に帰ろうとしたとき耳に届いた風を切る音、最近不意打ちされること多くないか? 疑問に思いながら影壁(キャル)を発動、自分の壁を具現化して壁にする。障壁じゃ物理攻撃を防げないからな。

 これで防げると思い歩き続けるのだが背後で何かが砕ける音、続けて背後から何かに打ちつけられる。くそっあれじゃ防げなかったか! 油断していたため何メートルか吹き飛ばされてしまった、影壁がなければ少し危なかったかもしれないな。

「き、さま……なぜ私を攻撃した、私はお前の邪魔をした覚えはない。理由を聞かせてもらおうか」

「……」

 だんまりか、言えもしない理由で私を攻撃するなんて愚行でしかない。そもそも私を前に姿を見せないとは礼儀を知らん奴め、ここは私が貴様を躾けてやろうじゃないか。

「人と話すときは」

 突風を作り出すだけの簡易魔法、詠唱も呪文も何もかも無視して発動させる。

「顔を見せろ!」

 方向を変えながら連続して発動させることによって竜巻を作り出す、魔力の消費は少なくないが詠唱をしている余裕はない。

 竜巻によって周りの霧を上空に追い出したことで奴の素顔がだんだんと明らかになってきた、ここからでは上半身しか見れないが粘膜に覆われ、異臭を放ち、青々と照かるその姿は何というか……

「み、醜い」

「ダマレ!」

 あの霧は醜い姿を隠すためだったのか、それならわからない事もない。言われた本人は気に障ったのか腕の代わりに生えている触手を振りまわしてくるが当たらなければ意味がない、空中へと飛び上がり右へ左へと避けさせてもらう。

 奴も痺れを切らせたのか体の周りに水球を浮かべた、その数は十二個。大きさも直径2メートルはある、当たれば痛いじゃ済みそうにない。

 障壁を斜めに展開する事で水球を受け流し、同時に襲いかかってくる触手を掻い潜りながらも逃げる。くそっ詠唱することが出来ん!

 大きさや感じる魔力から奴は上級の魔物だと思う、あいつを倒す事が出来る魔法は使えるがこの状況では……どうじてヴィルトはこんなときにいないんだ! いつも敵の注意をひくのにヴィルトを使っていたため一人での戦闘は不慣れだが何とかするしかない。

 相手の動きを封じることができればいいんだが、とにかくこの水球に込められた魔力が切れるまで待つか……いや、ここは奴の巨体を有効利用させてもらうとしよう。

 バックの中から一つの魔具を取り出し奴に見えないよう体で隠す、手を添えて詠唱破棄の魔法を発動、この際は精度より早さ重視だ。

 あとは奴にうまく近づいて……投げる! 投げた魔具が奴に当たる直前触手に壊されるがそれも予定通り、あの魔具は魔力を必要とする物に魔力を注ぐための魔力が詰まった魔力タンク、それに変質の魔法をかけることによって魔力を糸に変えたのだ。

 魔力を限界まで詰め込んだ魔具を壊したから奴の目の前で大量の糸が舞い散る、それを振り払おうと触手を動かしてくれれば……糸が絡みつき触手は使い物にならなくなる、あの糸は私特製の物だから簡単には切れんぞ。

「グウゥゥゥゥ」

「良いざまだな、そのままでいてくれると嬉しいんだが」

 未だもがき続ける奴は水球の事も忘れているのか、水球は私を襲うことなく浮いている。今のうちに……

「万物に根付きし罪の権化……」

 目を閉じて全神経を集中させる、上位の呪文でなければ奴を滅ぼすことは不可能、しかし上位の呪文は詠唱は気が出来ない上に極限まで集中しなければいけないの隙だらけになるのだ。

 イメージする物は無い、ただ自分の語る呪文に耳を傾ける。

 しかし集中しようとした瞬間、右腕に激痛が走った。

「っつ!?」

 あわてて詠唱を中断し上空へ向けて飛翔する、上昇しながら後ろを見るとかつて水球だったものが見えた。『それ』は回転して姿を変えており、球を潰した様な形をしている、その側面は鋭い刃のように薄くなっており今までよりも素早い動きで私を追ってきていた。

 痛みのする腕を見るとかなり出血しているのが見えた、くそっ深く切られたか……右腕の二の腕から赤い液体が溢れている。

 水の刃となった水球は直撃すれば間違いなく死が待っている、先ほど殺さなかったのは私を(なぶ)るためか、魔物は人を――特に女子供を痛めつけることを好む奴が多いからな。

 水を交わすために高速で飛び続けたため、その速度のせいで出血も多くなる。このままでは失血で倒れるか……いっそのこと懐に潜り込んで直接中位魔法をぶち込めばダメージがあるかもしれない。

 襲いくる水は私と奴を遮るように位置し、三つほど私の背後から迫ってきている。私と奴の間にあるのは九個の刃、それをかいくぐり奴に近づけばいいのだ。

 奴に向けて滑空、一つ目は体をひねりぎりぎりの所をすれ違う、二つ目、三つ目も同じように避けたが奴も何か感じたのか残る六個の刃をさらに細かくして私を襲わせる。無数の刃をかわせるはずもなく体を刻まれるが死にはしない、刃の嵐を抜けたとき私は血の衣をまとっていたが顔は勝利を確信し愉悦に歪んでいただろう。

 しかし、そんな私を横なぎに払う影。体の骨が砕ける音を聞きながら視線を向けると糸を引きちぎった触手が見えた、気づけば私の背後にあった刃は奴の触手を抑えていた糸を切り刻み、私をあざ笑うかのようにゆらゆらと揺れていた。

 農園の栄養を多く含んだ大地に激突した、顔も服も血や泥で汚れているだろう。この私が何という(ざま)だ、たった二百年戦いを忘れただけで魔物ごときに痛めつけられるとは……屈辱だ。

 思わず唇をかみしめ、口の端から血を伝わせながらも立ち上がった時にバックからシュクレの実が一つ零れ落ちた。

 拾い上げるが手に付着した血液によって桃色の実を緋色に染め上げる、持っただけで血がつくとは出血量が限界に来ているのか、意識が朦朧としてきたのも納得できるというものだ。

 腕から落ちる血……そうだ、血があるじゃないか。古代から呪物の媒体として用いられてきた血液、それをどうして忘れていたのだろうか。

 バックから続けて4つ、合わせて五個の実に血液を満遍なく塗り、私を中心として五角形を造るように投げる。

 魔力を込められたそれらは光の糸を紡ぎ互いを結びつけ合う、織り上げられるは五芒星の結界。簡易結界だが数秒は奴の攻撃を防げるだろう。

「私は世界を認めない、私は全てを望まない、私は全てを隔絶する ≪凍隔牢≫」

 五芒星の内側に中位の結界を改めて張る、足もとから私を包むように氷が生み出される。私を包むこの氷は外からの攻撃を防ぐものだ、もっとも私からも攻撃できなくなるのだがな。中位とはいえ言葉に魔力を込めて詠唱したのだから奴が古代呪文でも使わない限り安全だろう、魔物ごときが古代呪文を使えるとは思えんし……絶対とは言えないがこれで奴を倒す事が出来るだろう。

 改めて意識を集中させる、自分の魂と向き合い魔力を練り上げる。

「万物に根付きし罪の権化」

 詠唱される言葉の意味を反芻(はんすう)し、その意味を私の意識と同調させる。意識は意味を持ち、言葉は力を持つ。

「具現せよ! 顕現せよ! (うつつ)は偽りとなり夢と消えされ」

 私を食い尽くすかのように闇が氷の内側を埋め尽くす。闇は私であり、闇は全てである事を概念として理解する。そして人が必ず持つ思いを、ここに存在する闇の名を口にする。

「≪罪の意識(ペッシェ・コワン)≫」

 名に示された闇は私の前で一つの形をとる、消えてしまいそうなほど儚く揺れ動く黒はゆっくりと形を定め、数秒後には1メートルほどの槍となった。黒く長い柄の先に付いた30cm程の同じく黒の刃、何の装飾もされていないそれは圧倒的な存在感を放ちつつ存在していた。

 重さを感じさせない槍は傷ついた腕でもふれそうだ、動かすと痛いから傷ついていない左手で持つけど。魔力を傷口に集中させ血を止める、傷は治らないが血を止めるだけでも十分戦えるだろう。

 痛む体を無理やり動かし槍を振る、槍は氷の牢を軽く傷つけるだけではじかれてしまった。しかし槍があたった所から黒い染みが生まれ、ゆっくりと氷を染め上げる。

 全てを染め上げた時に結界は砕け、冷たい風が体を通り抜ける。周りには細かくなっていた水の刃がいくつか凍りついていたが、ほとんどは未だ空中で回転を続けている。

「待たせたな」

 いままで触手や水で攻撃を試みたのだろう、触手の一部が凍っている。手を出しても無駄だと気づいた後はおとなしく待っていたのだろうが待たされていらいらしているようだ。

 魔物との会話など不要、左手に持った槍を奴に向けるとそのまま空中に浮かび奴を挑発する。まぁ下位呪文を数発ぶつけただけだが触手と水が飛んでくる。

 飛んできた水の刃に槍が触れれば闇が侵食し破壊される、刃の一団が私と交差した数秒後には大きな刃のほとんどが崩れ落ちた。奴は警戒したのか分裂していた刃をまとめ大きな刃を三つ作り出した、その間も私は奴に向かって突進し片方の触手を斬りつける。

「グアァァァァァ」

 触手が先のほうから黒く染まっていくと同時に悲鳴が上がる、闇に飲まれるときは激痛と快感が体を貫くというが声を聞いた限りでは痛みのほうが強そうだ。

 しかし奴は冷静だった、黒く染まっていく触手を水で切断したのだ。人で言うなら自分の腕を自ら切り落とした、再生が可能なのかもしれないが戦いの中で迷わず腕を落とすとは……この槍の危険性に気づいたか?

 ならば奴が切り落とせない処、頭を切りつけるだけだ。すでに奴の懐に入った、腹の部分から体を切りつけつつ上昇し頭を目指す。短くなった触手が途中で襲ってくるがもう脅威ではない。

 顔の前、まさに目の前で槍を突きつけ恐怖に彩られたに近づいていく。槍の刃先が頭に沈んでいくがこのまま刺してもこいつは死なないだろう、槍を抉り出してくるはずだ。だから魔力で槍を打ち出し完全に頭に埋め込む、体の中から破壊すれば死ぬだろ?

 暴れる奴のそばにいては危ないから触手の届かないところへ避難、農園の端に降り立ち奴が消滅するのを待つ。

 シュクレを齧りながら待っていたが気づいたら食べるのに夢中で奴が死んだことに気づかなかった、槍が対象を滅ぼし私のところに戻ってきて気づいたくらいだ。

 闇が飲み込んだ生命を取り込むことで傷を完治させる、折れたり砕けたりしていた骨も治ったし痛むところは何も無い。


 新たに持ったシュクレの実を持って町へと戻る途中で破壊された農園を見たが三分の一は破壊されていて果樹は無残な姿になっていた、破壊したのはあの魔物だし私は悪くないよな?

これで書き溜めていたモノは最後です、気合いで執筆しますが多少投稿が遅くなるやも知れません。そしてオルガのアイディアを募集します、個体名から姿形まで幅広く募集しますので皆様の思い付いたものがありましたら感想欄に書き込んでいただきたいです。よろしくお願いします。

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