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第13話:訪れしモノタチ

 ミリヤの傍にある丘に転移した私たちは濃い霧の中を黙々と進んでいた。なぜ直接ミリヤに転移しなかったかって? 愚問だな、町中に人がいきなり現れたらパニックになるだろう、その町に奇襲をかけて滅ぼすならその方がいいが今回はなるべく騒動を起こさずひっそりと行動したいのだ。ならば旅人を装って進入するのがベストだとは思わんか?

 それにしても凄い霧だ、すでに私もリーリカも服が海に落ちたのかと思うほど濡れている。っく、少し寒いな……早く町に入って何か温かいものを飲まなくては風邪をひいてしまう。不老のくせに病気にはなるし傷の治りが早くなるわけでもない中途半端な体が憎らしい。

「ん……!? お嬢さん方大丈夫ですか?」

 門に近づくとまだ兵士になったばかりなのか、身につけている鎧のせいでうまく動けないようだが懸命にこちらへと歩み寄って来る。なんというかお前こそ大丈夫か? と聞きたくなるな。

「私は大丈夫ですがお嬢様が……」

 リーリカが近づいていき私を後ろに隠すようにして会話を進める、私は話すなと言う事か? 失礼なやつだ、私だって二百年前は人間だったんだぞ! それなりの会話くらいできる!

「人を訪ねて……来たのですが」

 よろよろとリーリカにもたれかかり、息も絶え絶えといった感じで兵士を見上げる。賞が取れるくらいの名演技だろう。ん、リーリカどうしたんだ? なんで私を見て顔を青ざめて震えて……

「あなた! 今すぐお嬢様を医師の所へ、何ぼさっと突っ立っているんです!? 早く案内してください!」

 なっ、リーリカお前が誤解してどうする! リーリカに(かつ)がれて町の中に運ばれていく途中、なんとかリーリカに演技だと知らせようとしたがこの馬鹿は頭に血が上っているのか全く話を聞かない。ええい、どうしたものか。

 ――こうなったら最後の手段だ。

「ふっ」

 どんな女も、いや男であろうと耳に息を吹きかければ動きは一瞬止まる!

「ひゃああ!」

 その隙にリーリカの頭をはたく、やっとこっちを見てくれたリーリカは私の顔を見るなり顔を輝かせた。

「マス、お嬢様! 元気になられたのですね、よかったです!!」

「馬鹿っ、声がでかい。あれは私の演技だ、このまま私の知り合いのところに向かうぞ。今ならあの兵士も医者を呼びに行っているからここにいない、とにかく私をおろせ!」

 むっ、私まで声が大きくなってしまった、自重せねば。

 リーリカに降ろしてもらい急いでこの場所を離れる。移動中、この町の住民に知り合いの家の場所を聞き直行した。


 町の中心部からやや北に位置する研究所、そこに私の知人はいるらしい。実際に足を運んでみるとそこは民家と一つになっており、住宅兼研究所と言ったところだ。今の時間はまだ朝だし民家の方にいるだろうか、研究所ではなく民家の方にあるドアをノックした。

「誰だ? 今何時だと思っとる」

「久しぶりだな、トーマス=ルービック」

 文句を言いながら扉を開けたのは白髪の男、数十年前にあった時は青臭いガキだったが……時とは悲しいものだ。

「なんだこの小娘は、儂のことを知っているようじゃが……! その紅い眼は魔女、トリスティン=マルールか!? 何の用だ、儂を殺しに来たんじゃあるまいな」

「そんな心配をする必要はない、今回はお前に頼みがあってな。断らなければ何も起こらないさ」

 トーマスは苦虫をかみつぶしたような顔をしているが無視だ、開かれた扉を通り家の中へと入る。そしてトーマスの案内に従い研究所内へと歩いて行った。

 研究所の一室に入ってから、薬品や研究用の機材が乱雑に置かれたテーブルに例の小袋を置く。トーマスがそれを開けるのを見てから口を開いた。

「それが何かわかるか?」

「いや、こんな物見たことがない……おまえさんが作ったのか?」

「ふっ、やはり一般人は知らない技術というわけか。これはオルガとかいう奴の足だ」

「オルガじゃと!? あれは軍の関係者しか触れぬはずだ、儂の知っている限りじゃその情報やオルガの一部が横流しされたなんて話は……まさか」

「ああ、喧嘩を売ってきたんで遊んでやったんだ」

 唖然としながらも熱心に足の一部を調べる様子はまさに研究者と言ったところか、しかしある程度眺めていると首を振った。

「だめじゃな」

「何がだ?」

「こいつは最下級のオルガの物だろう」

「何を馬鹿な事を、私が直接手を下したんだぞ。下級であるわけ」

「いいや、これはいわゆる雑魚って奴の物だ。論より証拠、見ていろ」

 そう言うとテーブルの上のオルガの足に向け火球を放った、込められた魔力も少ないし詠唱もしていない。まさに最下級の威力だろう。そんなものでどうするつもりだ?

「見てみろ、焦げ目がついたのがわかるだろう?」

「馬鹿が、あの威力ではこれくらいの焦げ目がだけだと予想も出来んのか」

「その様子だと知らんようじゃな、本来オルガに魔法は効かないのじゃよ」

「ふざけたことを言うな、現に私は二体のオルガを倒している。お前が効かないという魔法でな」

「話は最後まで聞け、オルガの体表を覆っている鉱石。これは魔力を吸収・拡散する能力を持っていてな、あの程度の魔法で焦げ目がついたという事はつまり……こいつは粗悪品じゃ」

 なんだと、つまり魔物で言うなら下級のバットやスライムの様な相手だったという事か。

「その顔色ではこいつが上級のオルガだとでも思っていた様じゃな、馬鹿なことはやめてさっさと塔に帰るがいい、こいつに魔法使いは勝てんよ」

「……けるな、私が逃げるだと? そんな事は絶対にあり得ん! この研究所を数日借りるぞ、この鉱石を隅々まで調べてもっとも効率的な破壊法を見つけてやろう」

「そいつは構わんが条件がある、その様子だとこれと同じものをいくつか持っておるのじゃろう? そいつを一つ譲ってもらいたい」

 む、この私に意見するとは……まあいい、ここには少し長い間留まるかもしれない。バックの中から小袋を一つだけ残して取り出し、そのうちの一個をトーマスに投げる。テーブルの上に残りの小袋を並べる、残りはバックの一つを含めて八個。


 そのうちの一つを開けて足を取り出し先程実験に使った物と並べる。

 さぁ、どうやって料理してやろうか。

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