第11話:悩めしモノタチ
リーリカの持ち帰った道具に入った魔導石、異様に純度が高いこれは何かに使えるだろう。昨日聞き出した情報ではオルガを動かすために必要だという事だしいろいろと調べさせてもらおうか。だがこのまま魔力を漏らしていれば奪われる可能性がある、純度の高い魔導石は貴重だからな。しかもこれは店で売ってる上級品なんかとは比べ物にならないほど純度が高い、伝説級の代物だ。
面倒だが封印しておいた方がいいか、壊してしまったあの道具には魔力を漏れないようにする働きがあったようだが壊してしまったし……ああ面倒だ。魔具の材料にと買ってきたルナーリアと一緒に箱に入れて魔法をかける。
「むっ」
何だと……私の魔法がはじかれた? そんな馬鹿な、私の魔法がはじかれるなんて――まさか! 伝説の中に意思を持つ魔導石というものが書かれていたがこれがそうなのか!?
しかし私に歯向かうとはいい度胸じゃないか、だが封印魔法が聞かないならどうすれば……ああ、こいつには意思があるんだったな。なら説得すればいい。
「マ、マスター 口をひきつらせながら笑うのは怖いです」
「気にするな、すぐに終わる。何、苦しむのは一瞬だ。おい石、その魔力を抑えろ」
手に持った魔導石に語りかける、他人から見たら馬鹿に見えるかも知れんが……みた奴は殺そう。む、放出される魔力が増えた!? こいつ私を挑発してるのか?
「ふ、ふふふふふふふふふふふ」
リーリカとヴィルトが部屋の隅に逃げていく、まあ今は無視するか。まずは現在進行形で魔力を放出し続ける石だ、魔力が常時精製されているのはわかるがそんなに放出したら精製量を超えているだろうに、そんなに私の言う事を聞きたくないか。
魔導石に魔力を送る、魔導石に魔力を送る事で魔力を増幅するのは世間一般でいう普通の使い方。だが魔導石の限界量を超える魔力を送り込んだらどうなるんだろうなぁ?
力を制限することなく全力で魔力を送り続けていると魔導石の顔色が変わった、放出していた魔力が燐光を纏い明滅する。まさか喧嘩を売っておいて壊されることを考えていなかったのか? 甘い、甘すぎるぞ石ころが! 問答無用で魔力を送り続ける。
「お、おいそんなに魔力を込めたら壊れ」
「黙れ」
慌てて止めてくるヴィルトを止める、睨みつければ黙るとは素直な奴め。強いものに従うのは当然だ、そろそろこの石もそれを理解するべきだと思う。
あと少しで本当に壊れるだろう、一気に片をつけようと両手で握ったときに魔導石から魔力の放出が止まった。どうやら理解したようだな。
「リーリカ、これをアクセサリーにでもしてくれ」
大人しくしていてくれるなら人に見られても平気だろう、下級の魔導石でも魔力の放出はあるのに今では全く魔力が漏れていない。誰が見てもただの宝石だ。リーリカは投げ渡された魔導石を眺めてにやにやしている、今度は何を妄想してるんだ? ま、まあ聞けば答えてくれるだろうがあえて聞かないでおこう、別にその答えが怖いわけじゃない。
「……に似合うのは…白い首筋に…あぁ、そんな大胆な!」
訂正しよう、少し怖い。
「リーリカ、この街は何という名だ?」
今はこれからのことに集中だ、現実を直視したくないわけじゃないぞ!
「はぁはぁ……えっあ、はい、聞いたところによるとここはコテフという街です」
ついリーリカの方を見てしまった、だが鼻血なんて見ていない、見ていないぞ。だがコテフか……地図の右下、大陸の四分の一――南東部を領土とするこの国シューレの中でも端にある辺境の街だな。どこに行けばオルガの事を調べられるか……
「なぁトリス、この足なんか臭くないか?」
「ん……言われてみれば確かに、よく気づいたな」
ヴィルトは机の上に顔を出し熱心に足の匂いを嗅ぐ、こうしてみると変態だな。俗にいう「においふぇち」という奴だろうか。
だが匂い……そんなものが鉱石にあるのだろうか、私も顔を近づけてわかったが僅かに刺激のある匂いがする。
「よし、ヴィルト。任せた」
「は?」
首をかしげるヴィルトの傍にあった蝋燭の火に手をかざし呪文を唱える。
「炎断」
風刃とは違い炎自体が剣の形を作っていく。それを構え机に向きなおる、ヴィルトは机を挟んだ向こう側にいるのだが目を丸くしてこちらを見ている。
「おい、待て! まさかあの世でこれの素材を探せとかいうんじゃないだろうな!?」
む、その手があったか。だがあの世なんてどうでもいい、必要なのは現実的な物だ。握った権をテーブルに置かれたオルガの足へ振りおろす、しかし剣がはじかれてしまった。込めた魔力が少なかったのか? とにかく魔力を込めてもう一度、今度はちゃんと切れた。
それを何度か繰り返し、足を数個に切り分ける。切り分けたそれは小袋に一つずつ入れてバックの中へ、何か必要な実験の時に使えばいいから切り分ければいいし、ヴィルトを使うためにもこの方がいい。本人は理解してないようだな。
バックに詰めてから地図に印をつける。『鉱山の町ネスト』シューレの北部に位置する街だがこの国で鉱石が多くとれるらしい、原石を探せば早いだろうな。
そしてもう一つ地図に印をつける。ここからそう遠くない、少し北に行った所にある海に面した町『海風の町ミリヤ』。ここには知り合いがいる……まだ生きていれば役に立つだろう。
行き先が決まったからリーリカに言おうと思ったが、リーリカはどこから出したのか金銀を細工してネックレスを作ってる。金銀まで買ったのかこいつは……
きっと声をかけても反応してくれないだろう、ヴィルトもリーリカを見た後に首を振った。諦めるしかないか、ヴィルトとの相談の結果リーリカも朝になれば作業も終わっているだろうと今日も寝ることにした。
ん? お前さっき起きたばかりじゃないかって? 何を言っている、寝れば寝るほど肌は奇麗になるのだぞ。という訳で一眠り、抵抗するヴィルトを抱きしめてベッドに寝転がる。さて、明日から忙しくなるぞ。