第10話:市を駆けるモノ
今回はリーリカ視点です、ちょっとコメディーな雰囲気ですがお気になさらずお読みください。
マスターってばオルガの足を片手に戻ったと思ったらシャワーを浴びてすぐに寝ちゃいました……少しくらい話し相手になってほしかったです。
マスターたちが帰ってきたのは今から1時間くらい前でした。マスターの魔力を感じたのでベッドから出てお茶の準備をしたのですが、戦利品を私に投げ渡された後はこっちを見てもくれませんでした。悲しいです。ヴィルトはヴィルトで私のベッドを勝手に使っているし……許せません! でもマスターのお手伝いをしてくれたので怒るのは起きるまで待ってあげます。
日の出まで後2時間くらいでしょうか、今から寝ても市場が始まる時間に起きる自信はありませんし……仕方ないので起きていることにします。ですがそれまで何をしていましょう、暇を潰すものが何もないので困りますが――いいことを思いつきました! マスターが塔から持ってこられた圧縮バック、あれの整理をしましょう。いくら沢山の物が入るからといっても整理をしておかなければ必要な時に見つからないなんて事もありますから、それにどんな物を持ってこられたのか気になります。
テーブルの上に置かれたバックを床に置いて中身を出します、ひっくり返して出すと量によっては部屋が凄いことになってしまいますから。上から順番に、バックに手を入れて取り出します。
中から出てくるのは様々な魔具と魔導書の数々、貴重な物なのでもう少し丁寧に入れて欲しかったです。それとこれは――普段は着ていただけないフリフリドレス! あんなに嫌がっていたのに持ってきて下さるなんて感激です、黄金の髪に似合う黒のお召し物……想像しただけで興奮してしまいます。
その後もかわいらしいお召し物が出てくるたびに抱きしめたり妄想していたら、いつの間にか朝になってしまいました。好きなことをしていると時間が経つのが早いですね……もう半日ほどお嬢様のお召し物でいろいろしていたかったのですが買い物に行かねばなりません、市場は朝に行かなければいいものが買えませんから。
部屋を出てフロントへ行くとすでに宿のご主人が起きて朝食の準備をしていました。
「おはようございます」
「おっもう起きたのかい、はやいねぇ」
「はい、お嬢さまがお起きになられるまでに買い物を済ませてしまおうと思いまして」
「あんたも若いのにえらいねぇ、それならいいことを教えてあげるよ。街の西と東両方に市場があるんだけどね、東の方が店が多くて欲しいものがそろうんだ。西は主に金持ちのための飾り立てた粗悪品ばっかだからね」
「そうなんですか! 教えてくださりありがとうございます、それとお嬢様は朝食は召し上がらないので起こさずに寝かせておいて下さい」
もし寝てるところを起こしたら、この街どころか国ごと消しそうな気がしますからね。
「はいよ、じゃあ気をつけて行ってきな」
軽く会釈をして宿を出る、思いがけないところで時間をとられてしまいましたがいい情報をもらいました。さっそく東の市場に向かいます。街を四つに区切るように走る二つの大通りが交差する所までいくといい香りがしてきます、急がないといけないかもしれませんね。
市場に着くと大勢の人が所狭しと犇めき合っていました、何度か人間界の市場に来たことはあるのですがマスターの住んでいた塔の近くにある町のはこんなに人がいませんでしたからびっくりです。
とにかくいい品物が残っているうちに保存のきく食べ物を買わなければ! マスターのバックは圧縮して多くの物が入るとはいってもサイズを小さくしているだけなので時間がたてば食べ物も腐ってしまいます、あのなかで何かが腐ったりしたら……想像しただけで寒気が。
ドライフルーツを数種類と干し肉も少しだけ買い込み袋に入れてもらう、私はマスターにいただいた魔力があれば食べなくても平気ですしマスターも食べ物はあまり口になさらないので片手に抱える袋だけでも一月はもつでしょう。
昨日マスターのお造りになった魔具を売ったのでお金はありますし、何かいいものがないか見て回っていきましょう。もしかしたらマスターによく似合うかわいらしい帽子とかが見つかるかもしれません。
様々な食品が売られているお店の集まりを抜けると雑貨市のような場所に出ました。コップやお皿の様な食器から怪しげな刃物までいろんな物があるようです。一つ一つのお店を見て行ったのですがその中に気になる物を発見でしました、普通の人には感じられない魔力――これは魔具じゃないですね、普通の道具に無理やり魔導石を埋め込んだだけの物って感じがします。マスターはこういう怪しいものが好きなので購入しておきましょう、褒めてもらえるかもしれませんし!
あとはこれから何がおこるかわかりませんし、今の技術で作られた魔具をいくつか購入します。それを見てマスターが魔具を造ると言い出した時のために魔導石と材料も買っておいた方がいいでしょうか、材料はいくつか種類があるのでまとめ買いしておきます。
魔力伝達性の高い鉱石サンギナリアと封印石であるルナーリア、あとは形を整えたりするために鉄を少々。それに魔導石も必要ですね。
魔導石は流石に需要が高いですから専門店があります、品質は上級のものから下級のまで扱っていますが下級のものではせいぜい食材を冷やすための魔冷機程度のものしか作れませんし……マスターが作るものを考えると上級の物を3〜4個と中級の物を20個も買えば十分でしょうか。ちなみに魔導石一個の値段は上級が百万アーペ、中級が二十万アーペくらいですがマスターが作った魔具を売った総額が二千万アーペだったのでお金には余裕があります。マスターの作ったものはどれも高品質で性能が高いそうで、私のことではないですが喜んでしまいます。ちなみに家一軒建てるのには三百万アーペくらいだそうです。
あとはこれからの行動のために地図と近代魔法の魔導書を買って買い物は終了。
オルガについて聞き込みもしたのですが、皆さん口をそろえて「オルガはオルガだよ」と仰るので大した情報を得ることもできませんでした、申し訳ございませんマスター。
買い物も終わり、時間も昼ごろになってきたので宿に戻ろうとしたとき後ろから声をかけられました。
「よお姉ちゃん、荷物たくさん持って大変そうだな。どうだい? おれたちと遊んでくれるならその荷物を少しくらい持ってやるぜ?」
うるさい人たちです、広いとは言えない道の真ん中で私を取り囲むように5人が立ちはだかりました。急がなければいけないので無視、虫です。
「っち、待てよ!」
さっきから話していた男が私の腕を思いっきり引っ張ってきました、はずみで荷物が落ちちゃったじゃ……!! これはマスターのために買った帽子――許せません。
かと言って私が攻撃したら人間なんて簡単に死んでしまします、そうなればマスターにご迷惑をおかけしてしまう……それだけは避けねばなりません。
ほかの男たちも私の腕をつかんで……っマスターの帽子を踏みましたね! 全身から魔力を放出、その衝撃で男を吹き飛ばします。そして魔力を練り上げ大気に溶け込ませ、それを男が呼吸をする時に吸い込めば終わりです。今は気を失っているだけですが少し経てば起きるでしょう、その時に吸い込んだ魔力が男の体を内側から滅ぼす仕組みです。まぁその時には私がいなくなっているので追われる心配はないでしょう。
「驚いたな……嬢ちゃんは魔法が使えるのかい」
「ええ、少しだけですが」
そばにいた商人の方が驚いて声をかけてきます、この時代では魔法を使える人が少ないのでしょうか。ですがそんな事を考えている場合ではありません、宿を目指してはします。
ああ、遅くなってしまいました。ですが今度は皆さん道を空けてくれます、どうしたのでしょう?
宿に急いで戻ったので少し疲れました。宿の主人さんは私の荷物を見て、慌てて手伝おうと近寄ってきましたが会釈をして部屋に行かせてもらいました。両腕に鉱石やその他の荷物を1メートルくらい持ってるだけで手伝おうとしてくるなんて人間の方々は親切ですね、魔界では5メートルくらい持って歩く人がほとんどなのでだれも手伝ってくれませんでしたから。
部屋に着くとマスターは既にお起きになっていて、ベッドの上で胡坐をかいて座っていました。ああ、ネグリジェから見える太ももが目にまぶしいです。
「遅かったな、リーリカ」
「申し訳ございません! 煩い帽子が男を踏んでひたので……」
あう、マスターに見惚れてたから言葉が変に、しかも噛んでしまいました。マスターは頭の上に『?』を浮かべて困っています――そんなお顔もかわいいです。
とりあえず買ったものの報告です、食料品はどうでもいいそうなので魔具とその材料。今の時代の魔具は何かの魔法を封じ込めておける物らしくマスターは興味を持たれていました、買ってきてよかったです。
「これは……」
マスターが例の変な道具を手にとりました、魔力が漏れているので気になったみたいですね。私がそれを見つけて購入した経緯を話すと一つ頷いて道具を地面に投げつけました。
壊れた道具は破片となって散らばってしまいましたが、その中に一つだけ目を引くものがありました。
――魔導石です。群青色のそれはとても純度が高く、これほどのものは見たことがありませんでした。マスターもそれを手にとって様々な角度から見ていましたが満足そうにうなずいています。何か思いついたときの顔をしていてちょっと不安になりますね。
あとは貰ってきた地図を広げてこれからの相談ですね。テーブルの上にはオルガの足と地図、これからマスターはどんな作戦を立てるのでしょうか。
ちなみに、まだ寝ていたヴィルトはベッドから蹴り落としました。その後魔力波をぶつけようとしたが避けられてしまったのです。
残念。