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第9話:宵闇に舞うモノ

 空中からオルガを見下ろす、先程の跳躍から前回のオルガとは比べ物にならない機動性を持っていると推測。やはり個々で性能が異なるのだろうか。

『答えろ! 大尉を、大尉をどこに隠した!』

 煩いガキだ、やはり煩い豚の元で働いていると部下もうるさくなるのだろうか。悪循環だ。

「あの豚なら見晴らしのいい山だ。そんな事より坊や、オルガを私にくれないか? そうすれば見逃してやろう」

 ま、無駄だろうが一応は交渉を持ちかけてみる。弱い相手にも基本的に情けをかけないがオルガは無傷でほしい。

『ふざけるな小娘、たかが魔法使い如きがオルガに勝てるはずがない!』

 猫科の大型動物を連想させる体躯のオルガが私に肉薄する、だが私ばかり見ていてはだめだ。上空にいる私に攻撃しようとするが失敗に終わる、直線状にしか動けない奴が空中を自在に飛べる私に攻撃しようなんて無理なことだ。ま、私が避けるまでもなく横からヴィルトが飛びかかり奴の進行を阻止したわけだが、

 もつれ合うようにして落下する二匹(?)、地面に激突する直前に離れて距離をとった。先に地面と接触したヴィルトは巧みに軌道を変えトリッキーな動きで近づいていく、しかし敵のオルガもヴィルトの間合いに入る前に自らヴィルトの方へ跳びすれ違うように攻撃を避ける。

 奴は接近戦を好むのか、先程も上空にいる私に直接攻撃しようとしてきた。もし遠距離の標的に対する攻撃手段がないのなら私はここからヴィルトを援護した方がいいか……しかし奴らがいるのは火薬の詰まった倉庫の前だ、炎が引火するとヴィルトどころか私にまで被害が来る可能性もあるので煉獄は使えない。もしかしたら奴も火薬を気にして遠距離攻撃をしないのか? だったら好都合だ。

 私の目的は奴の、オルガの体の一部を手に入れること。なら今使うべき力は捕縛し、その肉を削ぎ落とす力。魔力を(つむ)ぎ織りなすのは何物にも縛られず、それでいて全てを束縛する風の力。

 両腕を胸の前にかざし魔力を込めた風を練り上げ、(てのひら)に収まる大きさの球に圧縮する。

風鎖(ヴァンデイン)

 私の手から零れ落ちた球は決して早いとは言えない速度で地に向けて落下していく。その間もヴィルト達は互いの攻撃を避け続けるのに必死でこちらに気づいていないようだ。

 奴らがいったん距離をとり、再び攻撃を仕掛けようとした瞬間――地に触れた風鎖が破裂し、圧縮されていた風が解放される。それは瞬く間に奴らがいた一帯を包み込み、ヴィルドも巻き込んで魔法が展開される。

『なっこれは』

「トリス、なんで俺まで!」

 解放された高密度の風が全方向から体を締め付ける。魔力を込めた風の檻、これを力任せに破るのは不可能に近い。

「さて、私がほしいのはオルガだけ。お前はいらない」

 ゆっくりと降下し奴らの前に降り立ち、ヴィルトの首に触れ檻から解放してやる。残されたオルガは何とか抜け出そうと足掻き続けるが無駄なことだ。

 ではその体を貰い受けようか。この場に充満している風を腕にまとわせる、未だに魔力を帯びたこの風を刃として奴の体を切り刻ませてもらう。

 しかしこの間の奴と同じく強力な一撃を放ってくることも考えられる。腕を振り上げ奴を両断しようとした瞬間、ヴィルトが叫んだ。

「!! トリス、例の音がするぞ!」

 例の音……あの何かを吸い込む音か! 私の勘ではそれが大気中の魔力を吸収しているんだと思う、だとしたらこの場にいるのはまずい。腕を振り下し刃を奴に向けて飛ばし、瞬時に障壁を張る。もしもの時に備えて三重に障壁を展開。

 障壁の展開が終わるとほぼ同時に奴を捉えていた風鎖がはじけ飛ぶ、奴は風の刃から逃れるべく横へ跳んだ。

 風が砂を巻き上げていてよく見えない、いったい奴は何をしたんだ。風鎖を破るほどの力を使ったにも関わらずこちらに光線等の攻撃はなかった。魔力を何に使ったんだ……

 砂煙が収まった時、少し離れた所に立つオルガの姿は先程までとは違っていた。背中や腹、腕の関節や眉間など体のいたる所から光の刃が生えていたのだ。

『まさかこれを使う事になるとはな……小娘、貴様だけは絶対に許さん!』

 そう言う奴の足は一本なくなっていた、先程の刃を避けきる事はできなかったかようだな。しかしあの光でできた刃は危険だ、おそらく私の風で作った刃と同質の物だろうが魔力の密度が恐ろしく高い。あれなら風鎖を破ったという事も納得できる。

 足を失ったことでスピードは落ちているものの十分早いといえるスピードで迫ってくる、そこに風の刃を打ち込みつつ後退。ヴィルトにあの刃を防ぐ(すべ)は無い、当たれば肉を抉られ致命傷を負ってしまう。ならば私が奴を引きつけているうちに奴の足を回収させた方が効率的だろう。

 私の考えを魔力に変換してヴィルトへと送る、こちらを見て頷いたという事はしっかりと伝わったという事か。

「どうした、そんな物を体から生やした程度では私に傷をつけることすら不可能だぞ!」

 襲いくる刃を風と障壁で防ぎながら全力で後退する、飛翔してしまったら標的がヴィルトに移ってしまうので逃げることはできない。

 低空飛行を続ける私の下から奴に向けて地槍を連続して作り出す、『名』を唱えるための集中を許されないので強力なものは作りだせないが足止めをするには十分だ。

「トリス!」

 奴の足を(くわ)えたヴィルトが私を呼び駆けてくる、オルガもそれに気づき足を……情報源を渡すまいとヴィルトへと疾駆した。私に背を向けるという事がどれだけ愚かな判断かわかっていないようだな。

 足が回収できたならもうこいつに用はない。この場に残っている風を全てかき集め奴の背中へと飛ばす、螺旋を描きながらオルガに直撃した風はとどまる事を知らないように吹き続け奴を足止めする。

 イメージするは悲しみ、すべてを凍てつかせる負の力。望むは全てを封じる氷の棺。

「さよならだ坊や、雹衣(アルギュペオス)

 風に乗って小さな氷の粒がオルガへと降り積もる。一つ一つはすぐに溶けてしまうが、それが連続して降り注ぐなら別だ。甲殻がだんだんと凍り始め、風が止んだ時に残ったのはオルガの姿をした氷像だけだった。

「待たせたなヴィルト、ところでこいつの足は無事か?」

「ああ、ここにあるぞ」

 ヴィルトに渡されたオルガの足は鉱石でできていた、鋼では無い、しかしそれよりも硬く軽い。だがこれが鉱石かと問われたならそうだと即答することはできない。これからは何か生々しいものを感じるのだ。

『き……ま、て』

 背後からかけられた声に反応してヴィルトが瞬時に私を守るよう立ちはだかる、だがその必要はない。なぜならその声は氷像から聞こえているのだから、氷漬けにしても生きているとは……オルガは防具としても優秀だという事か。

「生きていたのか……今回は目的も果たしたことだし見逃してやろう。次に会うときにはせめて私に触れることぐらいできるようなっていろ、そうすれば相手位してやらんこともない」

 それだけ言ってヴィルトの背にまたがる、今日は少し魔力を使いすぎた……早く宿に戻って寝たい。

 宿に戻るとリーリカにオルガの足を渡し服を脱ぐ、久しぶりに疲れたからシャワーも普段より気持ちよく感じることだろう。

 部屋にへたり込むヴィルトと足を様々な角度から眺めるリーリカを尻目に、部屋に備え付けられた浴室へ入る。井戸じゃない、シャワーだ。

 久しぶりに入るシャワーに対して密かに喜びを感じつつノズルを捻った。あとは明日リーリカがどんな情報を仕入れてくるかによるが私はゆっくりさせてもらおう。


 ネグリジェを着てベッドにもぐりこむ、ヴィルトもリーリカが先ほどまで寝ていたベッドの上で丸くなってる。次に目覚めた時はあの足を調べてみるか、そう考えながら私は眠りに着いた。

更新遅くなってすいませんでした

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