第7話:休息せしモノタチ
やっと街についたと思ったが、やはり門は固く閉ざされ門の外にはだれもいなかった。
「……壊すか?」
「マスター、ご名案です! マスターを邪魔する者は全部消してしまいましょう!」
「お前らはもう少し常識を持て、日が昇れば門は開くだろ……だからその火球を消せ!」
犬がよく吠える、だが門ごと街を焼き払ったら宿が壊れるかもしれんし我慢するか。リーリカはヴィルトを睨みつけているがこのやり取りにも飽きてきたな……
ヴィルトが一方的に怒られているのを眺めること約二時間、東の空に朝日が顔を出した。それと同時に角笛が鳴り響き門が開く。
「お嬢ちゃん達、まさか門があくのを待ってたのかい?」
門を開けながら出てくる中年の門兵、気遣うくらいならさっさと門を開けろ馬鹿者。
「さ、体が冷えただろう。この通りを真っ直ぐ行くと道沿いに宿屋があるからそこで休むといい」
「ありがとうございます、おじ様♪」
ここで怪しまれるわけにもいかんし、笑顔で挨拶。ヴィルトが体を震わせて笑いをこらえているが後で蹴る、絶対に。
「マ……お嬢様、では行きましょうか」
流石はリーリカ、街中でマスターと呼ばれるわけにもいかないしな。
やはり早朝とはいえ街は人が多い、久しぶりに人を見たせいか少し呆けてしまった。人込みをかき分けて先頭を歩いていたが、途中からはヴィルトの後ろを歩けば楽だと気うことに気づいた。流石に大きな狼を見れば人は避けてくれる、ヴィルトはショックを受けていたがいい気味だ。
しばらく歩いていると道の右側に宿屋を見つけた、そんなに広くはなさそうだが泊まるだけだし問題ない。金は……先払いだったら困るな。
「リーリカ、宿に入るのは少し待て。先に魔具を売り払う」
「はい、ではマスターはここで待っていてください。私ができるだけ高く売ってきます」
そういうリーリカは荷物の中から売るために持ってきた物だけを抜き取り袋に詰めると走って行ってしまった。
「……リーリカはどっかの馬鹿と違って役に立つな」
「馬鹿って俺の事か? そんなこと言ってる引きこもり婆の方がひどいと思うぜ」
「なんだと……」
「なんだよ……」
こいつ、リーリカがいなくなったらいきなり元気になるなんて。それよりも何だか騒がしいな……気がつけば私たちの周りに人だかりができていた。
「お、おい。これはどういうこった……」
っち、この馬鹿! 状況が呑み込めてないな!?
「まぁヴィルトったら、勝手に魔具を持ち出しちゃだめじゃない!」
ヴィルトに抱きつきながら腕を首に回す、そしてあらかじめ握っておいた魔具を取り外し、周囲の人間に見れるように手を開いて説教する。なんで私がこんなことをしなきゃいけないんだ!
「いい? お喋りしたいのはわかったけど、勝手に魔具を持ち出したら駄目なの」
「は? 何言っ……ワン」
また喋り出そうとしたから思いっきり睨みつけた、そこまでしないと理解できないなんてどれだけ馬鹿なんだ。大体この魔具だって犬が喋れるようになる物じゃない、これは触れたものに電流を流す拷問用のものだ。
それを見た人間どもはなんだ魔具か、高そうな魔具をもってるなぁ嬢ちゃんとか言いながら去って行った。
「お待たせしました、お嬢様……この人だかりは何なのですか?」
去って行く人の中からリーリカがひょこっと現れる、もう少し早く戻ってくればよかったのに。
「遅い!」
いきなり怒鳴られるとは思っていなかったのかびっくりしているが私が悪いんじゃない、集まってきた奴らが悪いんだ。
よく状況を理解できていないが平謝りしているリーリカを無視して宿に入る、愛想良く店員が迎えてくれたが一切無視。
慌ててついてきたリーリカが手続きを済ませて部屋の鍵を受け取る、ヴィルトはペット扱いになったようだ。
私の前を歩き部屋のドアを開ける、八つ当たりしようにも文句の言いどころがないじゃないか。
二つあるベッドのうち窓側の物に腰かける、さっきのことを話そうと思ったがそうするとまた長い説教が始まってしまうのでやめた。ヴィルトに同情したわけじゃないがあれは煩くて嫌だ。
「マスター、魔具を売ったお金ですが、宿代から予想しますとかなりの金額かと思われます」
「ふむ、それはお前が管理してくれ。それと私は今夜から活動を始める、お前は明日旅に必要な物を買いつつ情報を集めておいてくれ」
「了解しました、ヴィルトはどうしますか?」
「私が連れていく、オルガとかいうのは動く時にわずかだが金属の擦れるような音がする。犬は耳がいから多少は役に立つだろう」
「俺も付いてくのかよ、今は金持ちお嬢様のペットだぜ? ゆっくりさせてくれ」
「ペットならペットらしく主に従え、それとも似合いの首輪でも付けてやろうか?」
首輪をつけられるところを想像したのか体を震わせるヴィルト、魔物は束縛されることを嫌うからな。
とにかく今日は眠ってしまおう、私の出番は夜までないわけだし。飯はいらないとリーリカに告げ、夜に起きれるよう時計型魔具のアラームをセットする。
となりで荷物の整理に勤しむリーリカを眺め、少し気に入ったヴィルトの毛皮を懐かしみながら布団を抱きしめて眠りに着いた。
そろそろ書き溜めていたものが心許なくなってきました、急ぎ執筆しますが更新スピードが落ちるやもしれません。頑張って執筆しますので応援お願いします。